


双日
双日は旧日商岩井時代の1986年に、西側諸国の企業として初めてベトナム政府の許可を取って駐在事務所を設置した。その後も、2006年に日系企業として初めてベトナム国友好勲章を受章するなど良好な関係を続けてきたという。
現在ベトナムに20を超える事業会社があり、デジタルテクノロジーや流通、小売り、製造、インフラなどのビジネスを展開している。
マグロ養殖や牛の飼育にデジタルを活用
双日は現在進めている「中期経営計画2026」において、「Digital in All」という言葉を掲げている。荒川氏は「DXを当社の経営戦略と一体化させ、全ての事業・業務に対してデータとテクノロジーを活用すること」と意図を説明した。同社はこの言葉に基づき、全事業エリアでデジタルの積極的な活用を進めている。
その1つが、長崎県鷹島で進めている本マグロの養殖事業だ。本マグロの養殖には、「いけすの中の尾数を数えることが困難という課題があった」(荒川氏)。双日はこの課題をデジタル技術の活用によって解消した。
具体的には、デジタル空間上にいけすのデジタルツインを構築し、そこで泳ぐマグロの動きを再現した。
これにより、デジタルツイン上のいけす内で泳がせるマグロの尾数条件を様々に変え、さらに魚群のエコー画像を仮想的に撮影しそれを用いて機械学習をすることができる。
このデジタルツイン上で撮影した仮想的な魚群のエコー画像を用いて機械学習したAIにより、実際にいけすで撮影したエコー画像から、マグロの尾数を推定できるようになった。
現在は、「マグロ養殖の最大の課題である餌代のコスト削減にもデジタル活用を進めている」(荒川氏)。養殖のコストの6割を占める、アジやサバなどの生餌の量をデジタル技術によって最適化することで、最大限のサイズのおいしいマグロをできるだけ低いコストで養殖することを目指しているという。
双日はマグロ養殖のプロジェクトで培った技術やノウハウを、ベトナムの乳製品最大手ビナミルクと共同で開始した牛の飼育にも活用している。「デジタルツインの技術を活用して牛の成長をコントロールし、最適化することを目指している」(荒川氏)
マグロの養殖コスト削減のための取り組み
現地IT企業に投資し、デジタルの力を向上
双日は2024年、ベトナムでのデジタル活用、DX推進の一環として、同国のITスタートアップ企業Finvietに投資した。この理由について双日の福田氏は、「デジタルやDXが商社の業界を大きく変えるという危機感があった」と振り返った。
双日はこれまで、「実際に商品を作り、保管して運ぶというフィジカルのアセットに投資してきた」(福田氏)。だが、デジタルの時代に入ったことで、「このまま何もしないと、フィジカルのアセットの価値が徐々に低下し、将来はただ物を作って運ぶだけの企業になってしまう」(同)。
こうした状況の中で双日が生き残るためには、やはりデジタル活用が重要になる。商品を作り、保管し、運ぶという工程を一貫してデジタル化し、顧客により良い商品を最適なタイミングで届ける必要があるためだ。福田氏は「この目標を素早く達成するため、Finvietとコラボレーションしてデジタルの力をより高めたいと考えた」と話す。
デジタルでベトナムの流通を変える
現在ベトナムにおいて双日が進めているDXの大きな取り組みとして、福田氏は流通のデジタル化を紹介した。ベトナムは現在、「パパママストア」と呼ばれる、家族経営を中心とした小売店が流通の7〜8割を占めている。今後はデパートやスーパーマーケット、コンビニエンスストアなど「モダントレード」といわれる形態も増えていく見込みだが、日本のようにパパママストアがほとんど無くなるのではなく、両者が共存していく可能性が高いという。
市場構造の変革予測
パパママストアが今後も存続していく上で、重要になるのがデータの活用だ。福田氏は「いろいろなところにデータはあるものの、形式が様々で、安全な方法での共有ができていない」と指摘した。双日は今後、データを安全に共有するためのプラットフォームを提供するなど、ベトナムの流通をサポートする展開を進めていくという。