AIの活用が人的資本経営を加速する
多くの産業分野で人材不足が深刻化している。そうした中、様々な企業変革を実現するために、人的資本経営への取り組みや、人事戦略や人材マネジメントの在り方を見直す企業が増えている。「当社の調査によると、多くの企業で人材不足と人材過剰が同時に起きています。また、オーバースペックの人材、つまり会社がスキルを活用し切れていない人材が30代、40代に多い。成果と報酬のミスマッチも大きな課題です」と指摘するのは、アビームコンサルティングの久保田勇輝氏である。
こうしたミスマッチを解消し、企業競争力を高めるために重要なポイントは、経営戦略や事業戦略と人事戦略・人材マネジメントを連動させることだ。その上で、タレントポートフォリオの最適化、タレントマーケットづくり、労働市場からの人材獲得といった取り組みを実行する。さらに、こうした施策への投資、その成果は定期的にモニタリングする必要がある。
このような一連のサイクルを回していく上でも、近年急速に存在感と有用性を高めているのがAIである。久保田氏はAIについて次のように話す。「AIが業務の生産性に与えるインパクトはどの程度か。AI時代の人材調達、人材配置はどうあるべきかなど、企業はAIを前提とする人材マネジメントについて様々な悩みを抱えています」
AIネイティブな組織づくりに取り組むメルカリ
一方、すでにAIネイティブな組織づくりに踏み出した企業もある。C2Cマーケットプレイスを展開するメリカリはその代表的な例といえるだろう。メルカリの宮川愛氏はこう説明する。「当社が本格的なAI活用を始めたのは2017年です。最近は組織を含めて、AIによって変革しようとしています。2025年には100人規模のAIタスクフォースを立ち上げました」
メルカリにおける従業員のAIツール利用率は95%になる。プログラミングをはじめ、業務の様々な部分にAIは組み込まれている。同社はAIネイティブ人材を「AIとともに、役割や組織の境界を越えて、新たな価値を生み出す人材」と定義している。
「AIに代替できないことは何か。それは意志であり、問いを立てる力、情熱といったものでしょう。AI時代に最も求められるのは、『こういう世界をつくりたい』という強い想いを持つ人材だと思います」と宮川氏は話す。そうした人材が挑戦の連鎖を起こし、組織全体が進化し続ける。メルカリはそういう状態を目指している。
「お互いに高めあう文化はすべての基盤です。その上にAIを組み込んだ仕組みや制度があり、組織開発や人材開発を支えるというイメージです」と宮川氏は話す。
成長が連鎖する組織づくりを目指す
AIは特定の専門業務を効率化できる。専門的なスキルがAIに代替・補完される方向にあるとすれば、人間はどのような業務にシフトすべきだろうか。
久保田氏は「AIを活用して、今必要なタスクにどう向き合うかが問われます。戦略デザイン力と実行力が重要です」と話す。
メルカリはAI時代のリーダーシップとして、4つの要素を重視している。戦略構想力、変革推進力、対話力、そして決断力である。「戦略構想力は勝ち筋を描くデザイン力で、変革推進力は実行に向けてチームをドライブする力。人を鼓舞する対話力とともに、決断する力も欠かせません」(宮川氏)
AIネイティブな組織づくりを進めるメルカリだが、その取り組みはすべて順調に進んだわけではない。例えば、人の感情に関わる問題がある。宮川氏はこう説明する。「マインドセットとして非常に重要なのは、『自分の仕事はどんどん変わる』という認識を持つこと。それが組織の共通認識になれば、AI推進のスピードも上がるでしょう。どのような企業においても、『AIに仕事を取られるのでは』という反応はあります。メルカリも例外ではありません」
仮に仕事の一部がAIに代替されたとしても、「仕事は変わるもの」という前提があれば冷静に受け止められるのではないか。「これを機に、もっと面白い仕事をしよう」と考える人も多いはずだ。そんなカルチャーが定着した組織は強い。「新しい環境に置かれた自分は、新たな形で成長できるに違いない――そんなふうに強く自分を信じるグロースマインドセットが非常に重要です。自分の成長を加速するためにも、AIは大きな助けになるでしょう」と宮川氏は話す。
「高度な知識を有するITに比べてAIは非常に使いやすい。今後、活用のハードルはさらに下がるでしょう。年齢に関係なく、様々なユーザーがAIを使って業務変革にチャレンジすることができます。小さな成功体験が生まれれば、次のチャレンジが促進されるはずです」と久保田氏は今後を見据える。久保田氏が描く将来像こそ、メルカリの目指す「挑戦の連鎖する組織」にほかならない。










