世界市場・技術動向から日本の勝ち筋を考察
国内半導体産業「真の覚醒」へ
AI特需に潜む課題とチャンスは?
AI需要拡大は国内半導体産業「覚醒」の追い風となるか。半導体・エレクトロニクス分野のアナリストとして豊富な経験を持つ、グロスバーグ代表の大山聡氏。国内大手電機メーカーで半導体部門の経営戦略にも従事した同氏が覚醒に向けた課題とポイントを考察。国内半導体産業や政府の「あるべき戦略」を提言する。
グロスバーグ 代表
大山聡 氏
1985年東京エレクトロン入社。ABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年からIHS Markitで、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。2017年9月に同社を退社。同年10月から現職。半導体情報誌『大山レポート』(観濤舎)編集長を務める。
―半導体市場動向について見解をお聞かせください。
AI・データセンター向け需要拡大を背景に、世界半導体市場の対前年成長率は、2026年5月が100%以上。好調を牽引しているのがメモリー市場です。2026年5月は前年比300%以上でした。DRAM(半導体メモリー)は、AIデータセンター向けの高性能メモリーやHBM(高帯域幅メモリー)※1の増産が優先されています。課題は、需給逼迫と価格高騰の継続。2025年のDRAMへの投資が大きかった(図1)ことから、2026年度中に供給不足の潮目が変わると当初は考えていました。
―DRAMの供給不足は変わらないのでしょうか。
DRAMを必要とするPC市場やスマートフォン市場では、2026年には10%以上マイナスの見通しです。DRAM出荷数量の伸びが期待していたよりも低いからです。その要因はクリーンルームの律速(ボトルネック)にあると考えています。クリーンルームがなければ、半導体製造装置を出荷できません。
●図1 2025年の世界半導体市場とその内訳全体で前年比+26.2%と大きく成長。AI利用拡大に伴うデータセンター投資の恩恵を受けやすいDRAM(半導体メモリー)の割合が拡大している
資料提供:大山聡氏(世界半導体市場統計(WSTS)を基に作成)
―ボトルネックはなぜ起きているのでしょうか。
理由は二つ。一つは、工場新設は用地確保から始まるため、多くの時間と工数がかかる点。もう一つは、工場を拡張する場合も完了までに1年は必要という点です。拡大する市場のニーズに対しクリーンルームの設置が間に合っていないのです。
―ハイパースケーラーの設備投資傾向を教えてください。
世界規模で巨大なデータセンターを運営するハイパースケーラーの設備投資は2026年の第1四半期は鈍化傾向にありましたが、各社とも第2四半期で設備投資を増加させました(図2)。AI需要では学習が一段落し、推論が伸び続けている状況です。今は、学習と推論の設備投資の比率は3対7です。AIに対する設備投資額は年々増加傾向にあり、今後も変わらないと考えています。
●図2 ハイパースケーラー各社の設備投資額推移AIデータセンター投資の拡大基調は変わらず続く見通しだ
資料提供:大山聡氏(各社決算資料のデータを基に作成)
―半導体製造で注目している技術をお聞かせください。
技術動向として注視しているのは、チップレット※2とフィジカルAIとの融合です。自動運転、ロボット、ドローンAIなど、現実世界で自律的に行動するフィジカルAIは、膨大なデータを低遅延かつ省電力で処理することを求められ、そこにチップレットが合致します。AI演算、メモリー、通信(I/O)などを最適に組み合わせて効果を最大化できるからです。
※1 HBMはHigh Bandwidth Memoryの略。DRAMチップを積み重ねて高速化している。
※2 チップレット…大規模な半導体回路を複数のチップで構成し、一つのパッケージ内に高密度で組み合わせる技術。
フィジカルAIの進展は
日本企業にチャンスあり
―両者の融合は、国内半導体産業にとって追い風となりますか。
自動運転では、自動車側でリアルタイムに判断を行うためにAIプロセッサー搭載が必要です。センサーからのアナログ信号をデジタルに変換する機能を、パッケージの中へいかに入れ込むか。世代の異なるチップやカスタム部品を組み込めるチップレットの活用が有効です。チップレットとフィジカルAIの融合は、国内半導体産業にとって有利に働くと思います。国内で起案され、材料を調達し製造する。日本企業がメインプレーヤーとなるチャンスは十分あります。
―他に関心を寄せる技術はありますか。
データセンターの課題は消費電力量増大です。AI用GPUサーバーでは、1サーバーラック当たりの消費電力が1MW(メガワット)に達すると予測されています。1MWは、電話ボックスに1000台のドライヤーを詰め込み一斉に電源を入れるのに等しい、膨大な電力です。
国内企業を半導体に巻き込む
インセンティブ導入に期待
消費電力量削減に寄与する技術が光電融合※3です。光は電気よりも一度に送れる情報量が多く、消費電力を抑制できます。技術の深さや構想力では日本企業が世界をリード。しかしビジネスの主導権は米国や台湾に現状、優位性があります。
―政府半導体戦略(図3)のポイントをお聞かせください。
2025年の半導体生産売上高は、日本が約6.7兆円でした。世界市場は116兆円を超え、日本の製造シェアは5%まで下がりました。2030年に300兆円を超えるとされる世界半導体市場で、国内生産売上高の目標15兆円を達成したとしても、世界でのシェアは5%です。この15兆円という目標も、現状はハードルが高いと思います。
●図3 日本政府の半導体戦略と大山氏の評価国内生産売上高を2030年に「15兆円」とする政府目標。売上高は伸ばしつつあるが、現状のペースではハードルが高い印象。さらに「15兆円」目標を達成しても、世界シェアは変わらない見通しも。さらなる抜本的な改革に期待がかかる
資料提供:大山聡氏(経済産業省「半導体政策について」(2024年10月28日)の資料を基に作成)
日本政府は2040年までに国内生産売上高を40兆円に増やすとしています。国内半導体産業活性化のためには、強い電子部品メーカーを巻き込む戦略が有効です。キャッチアップするためには、強い領域を伸ばして効果を最大化する。国内企業に対し半導体への注力を促すインセンティブ導入も考えるべきだと思います。
―国内半導体産業に向けてメッセージをお願いします。
一部企業を除き、国内企業はメモリー、ロジックの両巨大市場から実質的に撤退しています。「このままで良いのか」という問題提起をしたいと思います。またフィジカルAI市場に対し政府、民間が一体となり、戦略的かつスピーディーに取り組むことが道を拓くと考えています。
※3 光電融合…電気信号と光信号を融合して半導体を構成する技術の総称。