日経ビジネスオンラインスペシャル

パテック フィリップやロレックスが新作発表を回避!新型コロナウイルスがもたらした、腕時計業界の地殻変動とは?(前編)

2020.05.19

新型コロナウイルスの影響は、例外なくすべての産業にとって大きな問題となっている。その中にあって、腕時計業界がことさら影響を受けているのは、偶然にも業界全体を巻き込んで起こりつつあったパラダイムシフトと時が重なったからだ。新型コロナ危機で、腕時計業界はどう変わるのか?四半世紀にわたりスイスの時計産業を取材してきた時計ジャーナリストの渋谷康人氏が、業界の最新動向とアフターコロナの展望についてリポートする。

新型コロナウイルス危機は、腕時計の世界にも大きな影響を与え、時計業界の劇的な変化、歴史的な事件の引き金を引いた。
時計ファンにとって最大の「事件」は、新作時計の発表が中止や延期になったことだろう。
3月初旬に予定されていた世界最大の時計企業「スウォッチ グループ」のトップ6ブランドの展示会「TIME TO MOVE 2020(タイム トゥ ムーブ 2020)」を筆頭に、4月から5月にかけて行われる予定だったスイス2大時計フェア、ジュネーブの「WATCHES & WONDERS GENEVA 2020(ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2020 旧S.I.H.H. 通称ジュネーブサロン)」、バーゼルの「BASELWORLD 2020(バーゼルワールド 2020 通称バーゼルフェア)」も相次いで中止に追い込まれた。

ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブのHPでは、参加ブランドの新作情報をインタビュー動画や記事で配信している。

時計ブランドの多くはこの事態に対応し、新作発表の場をインターネット上の自社の公式サイトや、時計フェアの公式サイトなどバーチャルな空間で行っている。たとえばスウォッチ グループ傘下の時計ブランドの多くが、新作情報を公式サイトですでに公開中だ。またジュネーブの「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2020」は現地時間4月25日から、出展を予定していたブランドの新作公開やブランドのCEO、開発担当者などの記者発表を公式サイトと出展ブランドの公式サイトで行っている。

「ブライトリング」のように、メディア関係者向けにCEOの新作プレゼンテーションを動画配信のカタチで行ったところもある。さらに今後、ネットのビデオ会議システムを使ってリモートでの記者発表会を予定しているブランドもある。

新型コロナウイルス危機が世界的に終息しない限り、今後しばらくは新作時計の最初の発表は、インターネット上で行われることになるだろう。

一方で「パテック フィリップ」「ロレックス」「チューダー」のように、新型コロナウイルス危機が終息するメドがつくまで、2020年の新作時計の発表を無期延期にしたブランドもある。

特に最初の2つは、時計ファンにとっては新作が最も気になるブランド。その新作を待ち望んでいた時計ファンや関係者にとってショックは大きい。一刻も早く新作が、何らかのカタチでお披露目される日が待ち遠しい。

新型コロナウイルス危機を受け、一部の国ではパテック  フィリップもオンラインでの販売を期間限定で解禁
新型コロナウイルス危機を受け、一部の国ではパテック フィリップもオンラインでの販売を期間限定で解禁。なお、日本でのオンライン販売開始の予定はない。

また「パテック フィリップ」に関しては、史上初の「大英断」もあった。新型コロナウイルスによる都市のロックダウン、強制休業という状況に対応して同社は海外でのごく一部の国のショップに対し「緊急避難」として、製品のネット販売を認めたのだ(編集部注:高級腕時計の分野では、現在もオンライン販売を解禁していないブランドが少なくない)。ただこれは「家族のようにお付き合いしてきた時計店を救うための、あくまで一時的な措置」だと同社は述べている。

とはいえ、新型コロナウイルス危機が、名門のこれまで固く閉じられていた扉を、一時的にせよ開放させたことは大きな事件だ。

またこのロックダウン期間中、高級時計のネット販売を行っているオンラインショップの売上がどうだったのか。個人的には大いに気になる。なぜなら高級時計はネット販売に最も不向きな商品とされて来たからだ。この危機がネット販売に対する時計ファンの意識を変える可能性もゼロではない。

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