日経ビジネスオンラインスペシャル

パテック フィリップやロレックスが新作発表を回避!新型コロナウイルスがもたらした、腕時計業界の地殻変動とは?(後編)

2020.05.22

起死回生を図るバーゼルワールド陣営。しかし、待ち受けていたのはコロナショックによる思わぬ落とし穴だった。時計ジャーナリスト・渋谷康人氏による時計業界リポート後編。

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2019年には出展社数の大幅減により窮地に追い込まれていたバーゼルワールド。2020年、事務局はこの存続危機を打開するため、これまでなかった文化的な展示を用意し、集客力のアップを目指すことにした。

2019年のバーゼルワールド会場
2019年のバーゼルワールド会場。スウォッチグループの不参加もあり、かつての賑わいはない。(撮影:MOMENTUM watch)

そのひとつが今、時計コレクターから最も注目されているオークションハウス「フィリップス」との提携。5月にジュネーブで開催される「ザ・ジュネーブ・ウォッチ・オークション:イレブン」の出展予定品と、同社と懇意な世界的なコレクターの傑作コレクションを展示する新たなブースを、会場内に設けるという画期的な企画を用意。時計の業界人ばかりでなく時計コレクターも惹きつけるフェアへと変身を図ったのである。

しかし、3月にはスイス国内にも波及した新型コロナウイルスの感染拡大は、この起死回生の最後の機会を奪うことになった。事務局は何としてもフェアを開催したかったのだろう、3月末のギリギリまで開催か中止かの決定を引き延ばした上に、出展ブランドや時計業界を驚愕させる発表を行った。

それは2020年のフェアを「中止する」のではなく「2021年1月に延期する」というもの。この奇妙な決定が、100年を超える歴史を持つ世界最大の時計フェアの終焉につながることになった。

バーゼルワールド事務局のこの決定は、出展社委員会によれば、出展ブランドとの十分な協議なしに行われたものだった。しかもフェアの中止に伴い、出展料の全額返還を求めた出展社委員会の要求にバーゼルワールド事務局は応じなかった。そして、代わりに提示された事務局の回答が、出展社委員会との決裂、フェアの事実上の終焉につながった。

その回答とは「返金はせず、出展料の85%を延期開催となる2021年1月のフェアの費用に振り向ける。そして残りの15%を中止になった2020年のフェアの必要経費として徴収する」というものがひとつ。そしてもうひとつが「出展料の30%を返金する代わりに、40%を2021年1月のフェアの出展料に振り向け、残りの30%を2020年の必要経費として徴収する」というものだった。しかも2021年1月への出展を中止した場合は、一切返金は行わないという。

この一方的な回答を受けて4月14日、出展社委員会の代表を務める「ロレックス」、そして「パテック フィリップ」さらに「シャネル」「ショパール」「チューダー」という、バーゼルワールドの中心ブランドはフェア離脱と、もうひとつの時計フェア「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」と同時期にジュネーブの隣接する会場での新時計フェアの開催を決断・発表した。

さらに3日後の4月17日には、LVMHグループ傘下の「ブルガリ」「ウブロ」「ゼニス」「タグ・ホイヤー」も同様のフェア離脱と新フェアへの参加を表明。これで、世界最大の時計フェアとして時計業界に長く君臨してきたバーゼルワールドは事実上の終焉に追い込まれた。

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