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特集

フューチャリスト尾原和啓が語る「働き方の未来」
2022年3月25日公開

フューチャリスト尾原和啓が語る「働き方の未来」

2030年-「働く」はこう変わる-

VRによってインプット/アウトプットが拡張される

働く上で個人が利用するツールとして、現在はモバイルノートPCなどが主流ですが、今後はどのようなものが出てくるとお考えでしょう? 例えばXR(MR/VR/AR)などはどのように用いられることになるでしょう?

尾原 仕事のツールとは、詰まるところ、インプットとアウトプットの拡張ですよね。例えばリモートでミーティングなどをする際に、背景というインプットを変えるだけでその人の印象や、場合によっては言っていることの解釈すら変わったりする。二次元でこれくらい印象変化が起きるのだから、周囲が完全にバーチャルに包まれるVR的な世界で仕事をすると大きな変化が生まれると思います。

 例えば、エッセイやちょっと長い文章を書きたいなという時には、山荘風のVRに包まれるようにしてより没入感を高めるとか。また、今、僕はPCとタブレットの2つのスクリーンで仕事をしていますが、今後、VRが発達すると、VR空間の中にいくつものスクリーンを置いて仕事をすることもできるようになります。

Web会議の背景をすばやく「山荘風」に変えて話を続ける尾原氏。
Web会議の背景をすばやく「山荘風」に変えて話を続ける尾原氏。

 ブレインストーミングのやり方も変わってくるでしょうね。ブレストは多少ノイズがある環境でやったほうがいいといわれますから、雑踏の中のカフェをVRで再現してやってみるとか。カフェで隣の人の会話がヒントになる、旅行した時に車窓から見えた風景から着想が浮かぶ、みたいなことがありますが、残念ながら今は自分がその場所に行って、ノイズを設計しなくてはいけない。でもVRがあれば、この場にただちに、様々な環境を再現できます。

 人間の思考の仕方には、「検索型」と「探索型(ディスカバー型)」の2種類があるといわれます。何かを深堀りする時は検索型で、グーグルみたいな検索エンジンを使うのが便利。一方、探索型は、ノイズも混じった大量の情報を浴びる中で、自分の求めるものを探し出します。TikTokで画面を上下にスライドするイメージですね。最近、思考の仕方の主流がこの探索型のアプローチに変わってきていて、VRはそれと非常に相性がいい。

 例えば今、デザイナーさんなどが新しいことを考える時に、インスタグラムをストーリーボードのように使ったりするんです。自分が思うデザインに合ったキーワードや形容詞をインスタに入力して検索をかけると、その言葉に関連した写真などがバーッとたくさん出てくる。それらの写真の中から自分のイメージに合ったものをクリップしていくと、自分がどういうものをデザインしたいのかが見えてくるんだそうです。こういうことにVRを使うと、例えば自分がキーワードを話すと、音声認識でVR空間の中にそれに合ったイメージが映し出されて、それをグルーピングして発想のヒントにするみたいなことができそうです。

「ライフワーク」と「ライスワーク」のバランスが大事になる

デジタルによってつながりが広がり続け、働き方も変わっていく中で、「働くことに対する価値観」はどのように変化していくとお考えでしょう?

尾原 「仕事って結局、何のためにやっているの?」と考えると、1つはもちろん「稼ぐため」で、稼げないとシンドイ。一方で、「得意なこと」をやらないと、他の人ではなく自分が選ばれることはありません。だから多くの人は「稼げること」✕「得意なこと」の掛け合わせで仕事を選択します。ただし、「そこに幸せはあるか?」という話です。

 「幸せって何か?」と考えると、1つは「自分が好きなことに時間が使えている状態」だと思うんです。もう1つ、人間は関係性の中で生きていますから、誰かから「あなたが必要です」と言ってもらうのも幸せにつながる。

 こう考えると、これまでの仕事は、「稼げること」と「得意なこと」に偏ってしまっているけど、それに「好きなことに時間が使える」「誰かから必要とされる」といったことも加え、この4つの交点を増やすことが、いわゆる「生きがい」につながってくるのではないかと考えますね。ちなみに「生きがい」という言葉は英語にはぴったり当てはまる言葉がなく、「IKIGAI」がそのまま英語になっているそうです。

「仕事」と「幸せ」の関係性について図を用いて解説する。
「仕事」と「幸せ」の関係性について図を用いて解説する。

いわゆる「ワーク・ライフ・バランス」ともまた違う感じですね。

尾原 「ワーク・ライフ・バランス」とよく言われますが、それは仕事とプライベートを分けて、バランス良くやっていこうという考えですよね? それは会社に勤めるのが当たり前の時代だった時代の考え方。リモートワーク、バーチャルワークの時代になると、僕はむしろ「ライフワーク・バランス」を大事にするべきだと思うんです。

 「ライフワーク」というのは、「稼げる・稼げないに関係なく、それをやっているだけで楽しいと思える仕事」。人生の中、1日の中でどれだけこのライフワークに使える時間のパーセンテージを増やせるかも、幸せに直結すると思います。おかげさまで、僕は今、ライフワーク100%で生きられるようになっています。

「ライフワーク100%」というのは、普通の人にはなかなか難しいかもしれませんね。

尾原 だから僕は、「ライフワーク」と、食うためにやる「ライスワーク」のバランスが大事だと提唱しています。ライフワークとライスワークでポートフォリオを組んで、ライスワークでめちゃめちゃ効率よく稼げば、残りの時間をライフワークに突っ込めます。全員がライフワーク100%になればそれは素晴らしいけれど、必ずしもそうならなくてもいい。ライフワーク70%・ライスワーク30%など、自分に合ったポートフォリオを組めばいいと思います。

「インサイド・アウト」の思考が日本の未来の活路を開く

最後に、とかく陰鬱な世相になりがちですが、「アフターデジタル✕アフターコロナ」の先には、「日本の明るい未来のビジョン」はあり得るでしょうか?

尾原 日本はこれまで、島国という地理的環境と、日本語という言語によって守られてきました。しかし、かなり近い将来に、あらゆる言語はAIで翻訳できるようになり、僕たちを守ってくれなくなります。そうなるとそこに新しい競争が生まれる。今まで日本語の環境だけで育ってきた人が、いきなり世界戦に突っ込まれることになるわけです。かなり厳しい競争になると言わざるを得ません。

 しかし、それは逆に、日本人にとっても、言語の壁を超えて自分を磨けるようになることにもつながります。さらに、そうやって自分を磨きながら世界戦を戦っていく上で、日本人の得意な「ものの考え方」が大きな武器になる可能性があります。

 人間の考え方には「アウトサイド・イン」と「インサイド・アウト」があるといわれます。欧米のデザインシンクは、外部にあるものを観察することによりユーザーが本当に必要としているものを掘り出し、それをいち早くプロトタイピングしていくという手法。アウトサイド・インの典型ですが、実はもうそれは古いといわれているんです。何故なら外から観察できるものは容易にパクれるから。結局、アウトサイド・インではパクり合いになって勝負がつかないんです。

「インサイド・アウト」の思考が活路になると尾原氏は言う。
「インサイド・アウト」の思考が活路になると尾原氏は言う。

 となると、今後、重要になるのは「インサイド・アウト」。つまり、「自分だけに見えている歪んだ世界を美しいものとして捉え、同じように感じてくれる他人を虜にし、巻き込んでいく手法」です。このインサイド・アウトについては、日本人はとても強い。日本人の生み出してきたマンガやキャラクターが、これだけ世界中を熱狂させていることからもわかるでしょう。今後は、VRなどを活用して、仮想空間の中で多くの人とコラボレーションしながら何かを創り上げるみたいなことがどんどん出てくるはずです。そうした際に日本人の持つインサイド・アウトの強みは、よりいっそう発揮されると見ています。そのあたりが日本の未来の活路になるでしょう。


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