効率化、自動化、トラブル回避など
社会の課題解決に役立つ
CPSという仕組みは、2025年3月に街開きしたTAKANAWA GATEWAY CITY、同9月にオープンしたWoven City(ウーヴンシティ)など、最新のまちづくりでは既に基本的な仕組みが導入され、データの蓄積とともに適用範囲を広げていくことになっている。ほかにも、これと同様の仕組みは様々なシーンや空間で使われる。代表的なのは製造業の工場内、小売店舗内だが、用途は医療、宇宙などのビジネス領域にまで広がっている。
CPSとは、現実(フィジカル)世界の情報をコンピューター/クラウド上の仮想(サイバー)空間に取り込み、大規模データ処理技術を使って分析、現実世界の様子をモニタリングできるシステムである(図1)。その上で、現実世界に渋滞や事故のような問題の兆候があれば、それを回避・解消する方法を仮想空間で即座に検証できるし、その検証結果に基づいて制御データを現実世界にフィードバックして、問題を防ぐこともできる。
例えば、昨今は高齢化による人材不足でバスの運転手が確保できず、公共交通維持の観点からも自動運転の早期実現に期待されている。そのためには、公道上で起きうるさまざまなシチュエーションを想定して、検証する必要がある。とはいえ、事故が発生する可能性がある危険なシチュエーションを、現実世界で数多く再現して検証するのは難しい。そうした際にCPSを活用し、事故が起きそうなさまざまなシチュエーションを仮想空間に作り出して車を走行させれば、自動運転の実現に向けた検証も安全に行える。
CPSを導入することで得られる効果を整理すると、主に次の5つになる。(1)ひと・もの・インフラなどの状態の可視化、(2)各種プロセスの効率化・最適化、(3)各種プロセスの自動化、(4)トラブルの回避や早期解決、(5)安心・安全・快適といったホスピタリティの向上である。
(図1)現実世界と仮想空間を連携させるCPS
キーテクノロジーは
IoTとデジタルツイン
CPSを実現するキーテクノロジーの1つは「IoT(Internet of Things)」である。現実世界の各種の機器にセンサーを取り付け、稼働状況などをインターネット経由で大規模コンピューターに送信して分析すれば、現場で起きていることを可視化できる(図2)。
自動運転の例でいえば、速度や方向、走行距離だけでなく、車両周辺の詳細な情報を取得する物体検出センサーや画像認識センサーに加え、加速や減速、衝撃を測定する加速度センサーなどを車両に取り付ける。さらに、エンジンやモーター、タイヤなどの温度を監視する温度センサー、EV(電気自動車)であれば走行可能距離を推測するバッテリーセンサーなどを取り付けることで、車両の内外で起きているさまざまな状況がデジタル化されてワイヤレスで大規模コンピューターに送信される。
IoTと並んで、CPSに欠かせないキーテクノロジーが「デジタルツイン」だ。デジタルツインはIoTが現実世界から収集したデータに基づいて、現実世界と同様の状況を仮想空間の中に構築する手法である。現実世界と仮想空間で双子(ツイン)のように事象を再現することから、デジタルツインと呼ばれる。デジタルツインを活用すれば、現実空間に影響を与えることなくさまざまな状況をシミュレーションできるため、問題が起きた際に負うリスクを大幅に減らせる。
(図2)CPSのキーテクノロジーとなるIoTとデジタルツイン
製造業からまちづくり、
そして宇宙ビジネス開発まで広がる用途
前述したように、CPSは日本でも既に、さまざまな業界や分野で実際に導入され、さらなる活用を期待されている(表1)。現在、最もCPSの導入が進んでいるのは製造業だろう。仮想空間にサイバーファクトリーを作り、その中でシミュレーションやモデリングを実施して在庫調整や部品置場の最適化を図る。活用範囲は、生産ラインや人員配置の最適化をはじめ、需要予測など、工場内のさまざまな用途、シーンに広げられる。こうした使い方は、例えば建設現場などでも同様に適用できる。
ベテラン社員の「匠の技」をデータによって再現できれば、産業用ロボットを使って、より高度な製品を作れるようになる。現実世界で製造装置に起きる可能性がある不具合を、デジタルツインで予測することで、予め対策を講じておくことも可能になる。
その他の分野として、販売業や小売業では、倉庫や店舗の中、あるいは運送途中のモノの位置や、温度などの状態を把握できる。これによって在庫の最適化、配送中の品質の最適化、作業の自動化などを実現できる。人と一緒に働く協働ロボットや無人レジをCPSによって実現させれば、コストや労力を削減できる。医療・介護業界では、患者のモニタリングなどに利用できる。遠隔医療やビッグデータによる疾病の分析などに期待にされている。身体の状態をモニタリングすれば疾病予防にも役立つ。また、交通分野では自動運転の実現や渋滞の回避などによって、人材不足の課題を抱える物流分野の業務効率化にも貢献できる。同じように人材不足の課題を抱える農業分野でも、農作物や農場の管理や作業サポートに利用できる。収集したデータを活用しつつ、ロボットやシステムを導入すれば、農業経験がない人材の活用にもつながっていくと見られている。
(表1)業種や分野ごとのCPS活用の例
少し違ったところでは、宇宙ビジネス開発の分野でも利用例がある。JAXAが国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」の日本実験棟で取得した船内環境データ(温度、湿度、風量、照度など)を活用し、宇宙空間における微小重力環境を仮想空間上で再現する計画を進めている(図3)。宇宙のデジタルツインを作ろうとしているわけだ。これをオープンソースとして公開することで、民間企業が事業アイディアや技術アイディアを仮想空間上で試せるようにする。
(図3)JAXAとスペースデータが開発する宇宙デジタルツイン(出典:JAXAとスペースデータのプレスリリースより引用)
持続可能な未来都市は
CPSが支える
実際に都市の中でさまざまな分野におけるCPSを活用し、未来の可能性を探ろうという試みもある。例えば冒頭で挙げたように、トヨタ自動車が手がける未来型都市「Woven City(ウーヴンシティ)」では、IoTやデジタルツイン技術などによるCPSの活用で、最新技術と持続可能な生活様式を融合させたスマートシティの実現を目指している。
Woven Cityでは、さまざまなデバイスとインフラをIoTによって接続。住宅や商業施設、オフィスビルにセンサーを設置し、エネルギー消費や環境データをリアルタイムにモニタリングしながら、エネルギー効率の最適化や住民の生活の質の向上を図ろうとしている(図4)。自動運転車を中心に設計された交通システムでは、デジタルツイン技術によって都市全体の交通状況をリアルタイムで最適化する。これによって、交通事故リスクの減少や移動時間の短縮が期待されている。
生活インフラについても、電力や水道、ガスなどの公共サービスをスマートグリッドで管理。さらに、遠隔診療や健康モニタリングを実現し、住民の健康管理を効率化しようとしている。食の分野では、農業にIoTを導入して栽培プロセスの最適化や生産量の向上を図り、垂直農場やアクアポニックスシステム(魚と野菜を同じシステム内で一緒に育てる生産手法)の運営によって、食料の輸送コストや環境負荷の低減を目指す。
(図4)Woven Cityのイメージ(出典:トヨタのプレスリリースより)
JR東日本とKDDIが「100年先の心豊かなくらしのための実験場」のビジョンを掲げる「TAKANAWA GATEWAY CITY」でも、CPSの活用による未来のまちづくりが進められている(図5)。例えば、デジタルツインで作成した屋内外の3D都市モデル上に、実際の街から取得した人流データや設備データをかけ合わせることで、非常時の避難シミュレーションや防災計画の検証など、安心安全なまちづくりに向けた取り組みを進める。
また、都市OSのデータを活用することで、ロボットが自律的に走行ルートや人の有無を判断し、ロボットから人にアプローチする回遊販売サービスの実現などを目指している。
(図5)デジタルツインによる防災シミュレーションのイメージ(出典:JR東日本のプレスリリースより)
AIの高度化によって
さらに進化する
CPSの概念そのものは、米国で2010年頃に提言されている。それが、最近注目されるようになった理由は、さまざまな情報を収集するセンサー技術、データ解析技術、現実世界に反映する制御技術やロボティクス技術などが進化したためだ。これにより、CPSの実用的な活用に結び付いている。
そして次に来るのが、生成AI(人工知能)などAIによる進化である。例えば、CPSにおけるデータ分析、何らかの兆候の捕捉、それによるシミュレーションの実施、問題解決方法の提案などの多くの部分を、AIが人に代わって実施する。現実世界で集められたデータから予測や知見を導き出す精度や柔軟性はさらに高まるはずだ。これによってCPSは、同時進行する複数のプロセス間でのシミュレーションなども可能にする「次世代版CPS」に進化しており、今後はさらに私たちの生活に深く浸透していくだろう。
社会の様々な場面へのCPS適用は、いろいろな場所からのサイバー攻撃のリスクを高める可能性もある。ただ、こうしたところでもAIを活用することで安全性を高めることはできそうだ。













