2022年、新型コロナ感染症の終息の見通しが立たないままに世界情勢は緊迫した状態に陥り、中堅・中小企業を取り巻く経営環境も大転換期を迎えている。物価高騰、アメリカの金融政策の引き締め・円安、地政学...。様々なリスク要因と隣り合わせの時代に、中堅中小企業はどのように対応をしていくべきかー。こうした問題意識の下、去る11月25日、日経トップリーダー主催のプラチナフォーラム2022Winterが開催された。ここでは、豪華講師陣の講演のレポートを紹介する。
基調講演
鈴木 貴子 氏 エステー株式会社 代表執行役社長

女性ならではの視点を生かして、お客様に寄り添った商品開発で、業績をV字回復に導いたエステー株式会社代表執行役社長の鈴木貴子氏。経営を引き継いだ2013年時点は、売り上げが伸び悩み、利益が低下傾向にあった。そこで「成長を考える前に“出血”を止めることが先決」と考え、売り上げの9割を占めていた国内BtoC事業の収益構造改革に取り組んだという。
エステーは、「グローバルニッチNo.1」を標榜し、ニッチ市場で強力なブランドを数多く展開。防虫剤、除湿剤、お米の虫よけ、冷蔵庫の脱臭剤などはトップシェア、消臭・芳香剤はシェア2位以内を争っている状態だ。これらの商品は卸売りを通じて、ドラッグストアやホームセンター、スーパーマーケットなどの小売店で販売している。また、福島第一原発事故の際には、世界初の家庭用放射線測定器も開発、2021年には新型コロナウイルス対策として持続性のある除菌コート剤を発売するなど、エステーは空気にかかわる「トータルエアビズ企業」として、その時々の社会課題を解決するような新市場を創造してきた。
鈴木氏は、マーケティングやブランディングを中心に、ヨーロッパのラグジュアリーブランドで20年近くキャリアを重ねてきたが、2009年当時エステー社長であった叔父からの「デザイン革命をやりたいから手伝ってほしい」という誘いに興味を示し、デザインコンサルティング会社を設立してエステーのデザイン革命を遂行した。その4年後に社長となり、現在に至るまで社長を務めている。
エステーを取り巻く日用品業界は、長年にわたる景気低迷で価格競争が基本的な戦術になっていた。毎年のように新ブランドを投入し、めまぐるしく商品を入れ替えるという極めて投資効率が悪い状態が定着していた。エステーでは、売上高は500億円前後で推移する中、利益率が低迷しており、利益を改善するためにブランド価値をマネージメントする必要があると考えたのだ。
「出血を止める」といっても当時は、商品ごとの収益性や小売店ごとの収益性といった基礎的なデータが把握されておらず、ブラックボックスの状態だった。2015年、収益を「見える化」するために事業マトリックス制の組織に移行し、管理会計も整備。売り上げ至上主義から利益志向への転換を図った。
鈴木氏が入社した当時は「社内では、時間をかけてブランド価値を積み上げ、そのブランド資産、いわばストックから収益を生み続けていく発想に欠けていた」という。そこで「日用品の世界にもお客様の記憶に残る、信頼に裏打ちされた強いブランドをつくり、そのブランド力で商品を選んでもらう『価値競争』が必要である」と説いて回った。ブランドを持たない状態では、利益を稼ぐことはできても、資産をためることはできない。「ブランドは資産をためる器」という信念があったからだ。
改革に当たっては、多くの課題があった。まず同じカテゴリーに複数のブランドが乱立していたため、整理統合を図った。せっかくのブランド資産が活用されていないことも課題だった。例えば、同社には「消臭力」という年間8500万個を売り上げ、ブランド認知度75.8%を誇る消臭・芳香剤の有力ブランドがあったが、小売価格は200円前後だった。そこで、鈴木氏は店頭で目立つパッケージではなく、顧客の家庭のインテリアになじむデザインや香りにこだわるなど、それまでの商品よりも付加価値をつけて、価格を3割引き上げたプレミアムラインを発売し、高価格帯のシェアを伸ばし続けている。
また、同社に洗浄剤カテゴリーで有力ブランドがなかった点に着目し、すでに高い評価のある「消臭力」のブランド資産を活用して新ブランド「洗浄力」を立ち上げた。同様に、強みのある防虫剤ブランドを生かして、隣接カテゴリーである殺虫剤への参入にも成功した。こうした取り組みの結果、売り上げは2012年を底に右肩上がりでV字回復を果たし、2018年には過去最高益を上げることができた。

今後の持続的な成長について鈴木氏は、企業価値創造の3方向の軸を打ち出す。第1は森の空気浄化作用をヒントにした新技術による市場創造。第2は、人口減少、単身世帯増、高齢化といった社会の構造変化に対して、同社独自の消臭技術や機能性アロマ技術で新市場を生み出すこと。第3は、グローバル化だ。日本は社会課題の先進国。ここでつくり上げたソリューションを海外に水平展開していくという。このようにして企業価値を高め、海外展開、BtoB事業拡大、EC(電子商取引)の成長を牽引するエンジンとする。
日用品メーカーというBtoC企業の位置付けを脱却し、「空気を軸に事業展開する企業」となっていくことが今後のエステーの道だと鈴木氏は締めくくった。

ブランド価値経営でV字回復を遂げたエステー
鈴木 貴子氏(エステー株式会社 代表執行役社長)
基調講演

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ソリューション講演

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特別講演