民間の運営力が、地域に新しい価値をもたらす

公共施設の管理運営が、民間に開放されるようになって久しい。人口減や財政難を背景にその流れは加速し、公共施設の再編・統合と民間開放が、並行して進む。提供サービスの質はもはや、全国一律ではなく、自治体の考え方によって大きく異なる。しかも、民間の提供価値は施設の枠を飛び越え、まちづくりにまで及ぶ。地域に新しい価値をもたらす民間の運営力がいま、問われる時代を迎えている。

総論

人口10万人規模の自治体へ市場拡大
運営勝負の時代を目利き力で乗り切る

PPP(官民連携)/PFI(民間資金を活用した社会資本整備)の市場がさらに拡大しそうだ。公共施設では再編・統合の動きもある中で、提供する機能・サービスの水準を決める運営に関心が寄せられるようになってきた。市場にはいま、どのような動きがみられ、今後、どこに向かって進むのか――。東洋大学大学院教授で経済学研究科公民連携専攻長・PPP研究センター長を務める根本祐二氏に聞いた。

東洋大学大学院教授
経済学研究科公民連携専攻長・PPP研究センター長
根本祐二氏

2000年代に制度整備を終えたPPP(官民連携)/PFI(民間資金を活用した社会資本整備)。以来20年、その市場は人口10万人規模の比較的小さな自治体でもこれまで以上に生み出されていきそうだ。

内閣府では今年度、事業規模目標を見直す。2013~22年度までの10年間で21兆円を目標に掲げていたが、その目標をすでに達成したことから、新たな目標を定める見通しだ。

10年間で21兆円だから、年間で言えばおよそ2兆円。東洋大学大学院教授の根本祐二氏は、公共投資は年間20兆円規模だから、もっと高い目標を掲げられる、とみる。

「公共投資規模には運営費は含まれていません。それを含めて考えると、もっと大きな金額を生み出せる可能性が見込めます。もう少し高い目標を掲げてくるのではないか、とみています」

優先的検討規程の策定を促し
PPP/PFI手法を適切に選択

市場拡大を後押しするのは、優先的検討規程の策定促進の動きである。内閣府はかねて人口20万人以上の自治体に策定を促してきたが、2021年6月、対象を同10万人以上の自治体に広げる方針を打ち出した。

優先的検討規程とは、公共施設の建設・改修・運営・維持管理に向けて、PPP/PFI手法の適切な選択を検討するためのもの(図1)。内閣府は同手法の導入促進に向け、国の各省庁はもちろん、自治体や公共法人に対して規程策定を求めている。

2020年3月末現在の策定状況は、表の通り。人口20万人以上の自治体では4分の3を占めるものの、同20万人未満の自治体になると、3%に満たない。規程策定を求める自治体を人口10万人以上に広げることで、ここの底上げを図る。

またこの策定状況によれば、規程に基づき具体案件を検討した団体数は2019年度までの検討で135。内閣府はこの団体数を、2024年度までの5年間で334にまでおよそ200団体の上積みを狙う。

ここであらためて、PPP/PFIの全体像を整理しておこう。内閣府の資料によれば、行政と民間が連携し互いの強みを生かすことで、最適な公共サービスの提供を実現し、地域の価値や住民満足度の最大化を図ることが、その導入の狙いだ。

事業手法はさまざまだ。「資産保有」と「事業運営」の2つの軸で整理すると、図2のようになる。

中核手法と言えるのは、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律に基づくPFIである。「サービス購入型」「独立採算型」などタイプは複数あるが、基本はどのような設計・建設・運営を行えば最も効率的かという観点で民間の提案を競わせ、最も優れたものを選定し、運営に至るまで一貫して行わせる、というものだ。

もう一つ広く活用されているのが、指定管理者制度である。地方自治法に基づくもので、「公の施設」の管理主体を民間事業者やNPO法人などに広く開放する制度である。民間の活力を活用した住民サービスの向上、施設管理における費用対効果の向上、管理主体の選定手続きの透明化の3つを、主な狙いとする。

運営権方式への移行見込む
時代の流れは「運営」重視

これらの手法の中で、PPP/PFIの第一歩と位置付けられるのが、サービス購入型PFIや指定管理者制度である。自治体は民間事業者に料金を支払い、民間事業者は利用者にサービスを提供する(図3)。

公的負担の抑制という観点に立つと、利用者から料金を取れる施設では独立採算が望ましい。そうした考え方から収益を確保することを念頭に置いたものが、「独立採算型」「混合型」である(図3)。このうち自治体が運営権を設定するものを、「コンセッション」と呼ぶ。

PPP/PFIの今後の方向性の一つとしては、この「コンセッション」への移行が挙げられる。内閣府は毎年改定する「PPP/PFI推進アクションプラン」の中で、指定管理者制度や「独立採算型」「混合型」について、コンセッションへの移行を積極的に検討するよう求めている。

こうした流れもあり、PPP/PFIでは当初に比べ、「運営」に重きを置くようになってきた。根本氏はその意義をこう評価する。

「新築・改修の案件では管理運営を前提に設計するため、利用者がより使いやすいものができます。民間の知恵を発揮できる領域が広がりつつあるとも言えます」

民間事業者を選定する自治体からすると、運営にあたる民間事業者に対する見極めが欠かせない。そこで失敗を避けるには、どこに留意する必要があるのか。

根本氏が指摘するのは、対象施設を設置する目的はどこにあるのか、を見つめ直すことだという。図書館を例にこう説明する。

「いまの時代、図書館の果たすべき役割は何かを考える必要があります。例えば岩手県紫波町の図書館の場合、集客施設と位置付けました。集客には人を引き付けるものが必要です。そこで、日本一の農業支援コーナーを設けることに決めたのです」

紫波町の図書館は、町有地を活用しPPPの手法で開発した複合施設の一角にある町直営の施設だ。根本氏自身、このプロジェクトには早期の段階から携わってきた。

「仮に民間の運営であれば、農業支援というテーマの下でどういう本を選ぶのか、またどういうプロジェクトを行うのか、を提案してもらうことになるでしょう」と根本氏。価値観を提示することで自由度の高い提案を求めるという。

ネットワーク力で勝負の時代
マッチングを試みる自治体も

何より留意すべきは、この価値観をまず固めること。「ところが、それがまだできていない自治体が多いのが実情です」。根本氏は訴える。

「運営」に重きが置かれると、どの運営事業者と組むかというコンソーシアムの構成が、提案力の差になり、選定結果に大きく影響する。

根本氏は「ネットワーク力の勝負になっていきます。案件が大規模化・複合化すれば、大企業でもグループ内では対応できないでしょうから、ここはという企業と日常的に組んで案件応募の実績を重ねていくことが求められます」と助言する。

ただ地方案件であれば、地元企業との出合いの機会は限られる。「特定用途の施設について運営ノウハウを持っていても、PPP/PFIの市場に目が向いていない企業は地方に少なくありません」(根本氏)。

中には改善策を取る自治体もある。一例が、広島県廿日市市だ。

同市では現在、公共施設の再編を進行中。海に近い筏津地区では、市民センター・体育館・図書館が立地する一帯で、子育て支援センターの機能を加えた複合施設をPPPの手法を用いて整備する。すでに民間事業者を選定済みで、2023年5月の開館を目指す。

この事業で市が採用に踏み切ったのが、マッチングだ。複合施設で想定する生涯学習や子育て支援など8つの機能を部分的に担える民間事業者と事業全体を担える民間事業者を結び付ける試みだ(図4)。

対象は、個別対話方式で開催したサウンディングに参加した28団体。この場に基本計画策定業務の受託者として東洋大学は同席した。根本氏は「ここで想定する8つの機能の運営に長けた民間事業者がノウハウを発揮できる機会を提供するのが、マッチングの狙いです」と言う。

マッチングでは、複合施設で想定する機能を部分的に担える民間事業者の情報を、事業全体を担える民間事業者に提供する。「実際に数組のマッチングが成立したと思います。地元企業に参加機会を提供するにはいいやり方です」(根本氏)。

出合いの機会が得られれば、民間事業者により求められるのが、目利き力。組みたい相手の運営ノウハウをどう見極めるか――。PPP/PFIの市場拡大に伴う競争を勝ち抜けるか否かが、今後はその目利き力で決まっていきそうだ。

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