JTBコミュニケーションデザイン
地域の住民や企業とともに、にぎわいを創出する―。JTBコミュニケーションデザインの得意領域だ。日本初の観光PFIに携わり2000年以降草分けとしてPPP/PFIの分野に進出以来、大規模複合施設や文化施設・生涯学習施設などを中心に現在、全国60件以上を管理・運営する。強みはどこにあるのか。
スマートな社名だが、地道な関係性の構築に積極的に奔走するという。起点は、コミュニケーション。管理運営を担う公共施設と、地元の住民や企業、来街者との間をつなぎ、にぎわいを生み出すことで、地域への貢献を果たす。
執行役員エリアマネジメント部長の丸尾浩一氏は、自社の事業目的は施設の管理運営そのものではないと言い切る。「事業目的は、その場で体験価値を生み出すことです。それが、地域の価値向上のポイントです。スペースやコンテンツ、それぞれをどうプロデュースするのか、という点も問われます」。
愛知県安城市の中心市街地拠点施設「アンフォーレ」では、県内に本社を置くスギ薬局が開催したイベント「ウェルネスフェスタin安城」を、企画運営面から支援。主催者のスギ薬局やイベントに出展する企業の取り組みをサポートする一方で、市や市民団体と連携した催し物の企画・運営に携わった。
このイベントは子育て世代の参加を想定したもの。「出展企業がその世代の参加者にダイレクトにアプローチすることができるようにプロモーションを工夫しました」と、エリアマネジメント部プロデュース局リーダーの大町智美氏。出展企業と参加者をつなぐことに持ち味を発揮したという。
JTBコミュニケーションデザイン(JCD)は、国際会議や展示会などMICE、プロモーション、地域活性事業やインバウンド支援など“コミュニケーションデザイン事業”を業にしている企業だという。地元の住民や企業の参加を促し、イベントや施設づくりを円滑に進めていくいわばファシリテーションの仕事は、もともとの本業だ。
ファシリテーション力の高さは運営段階を見越した拠点づくりにも生きる。東京都中央区が2016年11月、京橋のビル内に開設した「観光情報センター」が、その拠点の一つだ。
JCDは計画作成を区から受託。コンセプトづくりでは、区内の5つのエリア情報を基に、各エリアでどのような人をどのように誘客するか、という原点から検討した。大町氏は「各エリアの特色やその打ち出し方などを地元の連合町会などから聞き取り、コンセプトを練りました」と振り返る。
地域に入り込み、コミュニケーションを交わし、その成果を基にコンセプトを固めたことが、施設整備を成功に導いた。最大の特徴は、インバウンドが多く来訪するエリアを中心に連携を図り、それらの地域固有のタイムリーな情報を集約し、発信することだ。
「地域とのコミュニケーションに力を入れた結果、地域特性を踏まえた情報の発信拠点として成り立たせることができました」(大町氏)。開設後は、情報発信まで含めた施設運営を担当。観光情報の拠点だけにJTBグループのノウハウ活用も期待されている。
インバウンド支援の役割も担う観光情報センターという機能は、交通結節点への展開可能性も見込める。「さまざまな施設との相性が良いサービスです。特に空港やバスターミナルなどのハブ施設に利便性向上の効果をもたらすことができる、と日々の運営から感じています」(大町氏)。
JCDの得意領域◎地域の魅力の発掘と新しい価値創出
JCDでは、地域の歴史・文化・未来を踏まえ持続的な価値を創出するストーリーづくりを得意とする。その一例が、2021年11月に京都の龍谷山本願寺(通称、西本願寺)と協働で開催した「お寺きゃんぷフェス2021 in 西本願寺」だ。
このイベントは、西本願寺の北境内地にテントやタープなどを設営し、キャンプの雰囲気の中、京都ならではの食や体験を楽しんでもらうもの。僧侶と焚火を囲み、法話に耳を傾ける「焚火法話」や、京都府指定無形文化財である黒谷和紙でキャンプシーンを演出するランタン作りなど、「お寺きゃんぷ」ならではの多彩なプログラムを用意した。
企画のベースには、「X-Camp」というコンセプトがある。これは、従来のキャンプに地域体験(eXperience)を掛け合わせた新しいツーリズム。キャンプを通じて各地域の文化にふれる機会を提供しようという考え方だ。
公共施設の管理運営を担う仕事柄、力を入れているのは現場の最前線に立つスタッフの育成だ。大町氏は「直接のお客様は自治体ですが、さらに意識すべきは地域住民や利用者です。サービスの質を向上させる研修の実施やモチベーションの向上を促す制度づくりに取り組んでいます」と、育成への意気込みを語る。
具体的な制度としては、例えば好事例を対象とする表彰制度がある。管理運営中の施設で開催するイベントや講座は年間2000件以上。地域への貢献度やサービスの向上度などの観点から好事例と思われる取り組みを現場から募り、その中から優れたものを会社として表彰する、というものだ。
JCDがこれから拡大に力を入れるPPP/PFI事業では、大型化・複合化の流れが予想される。そうした案件の受注に向けては、持ち味のファシリテーション力はもとより、デジタル活用による運営の高度化でも対応していく方針だ。
「二酸化炭素の排出量を実質ゼロとする施設運営やイベント運営のスキームを開発済みです。これらSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた取り組みもさらに強化し、地域の価値向上を引き続きトータルプロデュースしていきたいですね」。丸尾氏は今後に向けた決意を強く語る。
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