日経ビジネス電子版Special
帝京大学先端総合研究機構 訪問 Vol.1

分野横断的に研究を深めて材料研究で社会貢献を目指す

材料の寿命を予測する材料強度学研究は、
エネルギーや医療分野の安全性向上においても期待されている。
帝京大学先端総合研究機構で材料研究を牽引する横堀壽光特任教授に、
分野横断的に発展し続ける材料強度研究の最先端や将来への展望などを聞いた。

(聞き手:竹下敦宣 日経サイエンス発行人)

横堀壽光氏

帝京大学
先端総合研究機構
特任教授
横堀壽光

――先端総合研究機構(略称:先端総研)は、横堀先生をはじめとする研究者にとって、どのような研究拠点となっていますか。

横堀 先端総研はそれぞれの先端科学を深めると共に、ヒューマニティも注視されている点が特徴的で、両者を融合する新しい科学の創造を目指して設立されたと思っています。私が専門とする材料強度の研究も、縦割りではなく、金属やセラミックス、生体材料から血管などの生体組織材料に至るまでの横断的研究を行ってきました。それらにヒューマニティを加えて、先端総研の各分野と連携することで研究を深め、社会貢献できることを目指していきたいと考えています。

――今まさに、材料研究が注目されています。その理由はなぜでしょうか。

横堀 材料研究は、新材料を創造する「材料工学」と、構造体に用いて稼働させるときの安全維持に関わる「材料強度学」に分かれます。新材料開発という最先端研究分野である前者に対して、後者は橋梁などの構造物の新設や航空機の新たな設計概念(図1)を構築する初期段階で大きな役割を果たし、その後はヒューマンエラーに対する対策も必要になってきます。最近はSDGsに対応して、エネルギー技術の大変革時代になりました。材料強度学的にも、水素や太陽光など新しいエネルギーに適応した新しい設計の概念や材料強度が求められています。

図1 金属疲労の例

航空機は飛行中、機内と外気の気圧差で内圧が負荷され、離着陸のくり返しによりこの内圧がくり返し負荷される(疲労負荷)。そのため窓枠も応力集中を生じないようにRがとられている

――材料強度研究においては、材料の寿命の予測が重要であると伺っています。

横堀 材料強度の寿命には、材料の力学的性能評価という材料工学的観点と、構造物の安全維持のための設計指針や点検期間の設定など構造安全性の観点の2つがあります。たとえるなら、前者は人間の平均寿命に相当し、後者は健康診断のようなもの。特に後者については、使用される環境、構造体の形状や大きさ、経年劣化など、多様な要因を考慮した研究が必要で、これらを基にしてき裂成長寿命を予測して点検期間などを設定することになります。

――材料研究は、エネルギー分野での太陽光などの再生可能エネルギー、火力発電タービンの安全評価にも応用されているそうですね。

横堀 火力発電のタービンは高温で稼働するので、一定の力がかかり続けることで物体が変形する「クリープ」と呼ばれる現象(図2)や疲労などを考慮して、安全維持の対策が講じられます。そういったことが明らかでなければ、「想定外に壊れた」ということが発生してしまいます。

図2 クリープ

( 「Scale of creep damage and crack」A.T.Yokobori, Proc. Of the Japan Academy SerB, 2020)

一定の荷重、応力がかかり続けるクリープ状態でのき裂発生・成長に関して各スケールのクリープ損傷について系統的な研究を行い、材料の破壊寿命を予測するための試験法を開発

――材料強度の研究では、「想定外をなくすこと」が重視されているということでしょうか。

横堀 材料強度の専門家たちにとって「想定外」は許されません。極めて小さい確率だとしても、予測して対応するのが材料強度研究です。しかし、どんな構造も時間を経て変化しますが、長期間何も起きないと「大丈夫」という意識が生まれる可能性も否定できません。そこは一番危険なことですので、私は「絶対」という言葉を使わず、常に危機意識を持ち続けることが必要と考えています。

――一方で、医療分野への応用も期待されています。

横堀 古くから、医学と物理学の関わりは深く、ガリレオ・ガリレイやトーマス・ヤングといった著名な物理学者たちは、人体の仕組みに関する研究を行っていて、血管などの力学的性質についても研究されていました。その後、科学は細分化し専門化されていきましたが、現在、より高度化された科学の融合という形で医工学の研究も進められていると思います。私も30年ほど前から血管壁の疲労や損傷など、動脈硬化の予測につながる研究に取り組んでいます。

――先端総研として、材料研究を含め、どのような展望をお持ちでしょうか。

横堀 今後の展望としては、大きく分けて3つのポイントを考えています。1つ目は、過去の研究成果をリスペクトして、それを十分踏まえたうえで、研究を発展させることです。2つ目は、研究している成果を、必ず何らかの形で社会に還元させること。研究ではうまくいかないことのほうが多いくらいですが、諦めずにやりきる気持ちは大切です。そして最後は、過去からの膨大なデータを集約して、そこから得られる体系的なデータ、新たな知見を得ること。これは一人ではできない問題で、そのような体制が構築される必要がありますね。

――最後に、横堀先生と先端総研が目指す将来像を教えてください。

横堀 先端総研では、若い世代や、医学部をはじめとする専門領域や考え方の異なる人たちと関わることができるので、ご縁のあった人との研究を進めて、社会に貢献できればうれしいです。

TOPIC

2022年5月20日に開催されたオープニングセレモニーでは、式典と内覧会の二部にわたって先端総合研究機構の魅力が紹介されました。

第一部の式典は、大学本部棟の臨床大講堂で行われた。日本私立大学協会や日本私立医科大学協会をはじめとする多くの大学様や国会議員、企業、官公庁の関係者、学内関係者など145名が参加し、盛大に行われた

オープニングセレモニーで開会の挨拶をする冲永佳史理事長

先端総合研究機構の設立に至った経緯や今後の目指す方向性などの説明をする浅島誠副機構長

内覧会ではそれぞれの研究室を開放し、来場者に研究内容を講演。写真は横堀壽光特任教授

先端総研所属教員や先端総研助成金採択者のポスター展示ポスター展示も行われた