古徳 もともとX線やCTで患部の画像を撮影しながらカテーテル治療などを行うIVR(Interventional Radiology)という術式があり、その際の手術室内の放射線量をモニタリングしたいというニーズがありました。IVRは、患者さんにとっては低侵襲で負担が少ない術式ですが、使用した放射線が医療機器などで散乱してあらゆる方向に飛んでいくため、医療者の安全のために線量を把握する必要があるそうです。我々にはリアルタイムで線量を計算する技術やVRに関する知見があったので、医療側のニーズと我々のシーズを掛け合わせれば、手術室内の放射線量のリアルタイム推定が可能だと考えました。実際に手術室で計測してみたところ、医療者の立ち位置など、特定の場所で線量が高まる傾向にあることが分かりました。現状は室内の状況を見るためにVRゴーグルが必要ですが、医療関係者が事前に手術室のどこがハイリスクなのかを知っていれば、リスクを遠ざけることができます。
――先ほどVRゴーグルを着用してデモンストレーション画面を見せてもらいましたが、空間内にずらりと並んだバブルの色で線量の強弱を表現していて分かりやすいですね。
古徳 いろいろな表現方法を検討しましたが、線量が高いところのバブルは赤く、低いところは青で表現することで、奥行きある3次元空間の状況が直感的に分かると判断しました。現在は手術室内の放射線量を3次元で体感できる教育用システムとして運用していますが、将来的には実際の医療現場で広く使っていただけるようになればと思っています。
――大阪大学と共同で発表された、医療ビッグデータから健診項目との因果関係を推定できる人工知能(AI)も大変興味深い研究成果です。
古徳 大阪大学の土岐博特任教授からのオファーで共同研究プロジェクトが始まりました。医療ビッグデータの解析は、医療政策や健康支援につながる研究テーマとして注目されていますが、対象となるデータ量が少ないとうまくいきません。今回は、大阪府保険者協議会および大阪府国民健康保険団体連合会の協力で、大阪府民 60万人もの特定健診データを扱うことができました。また、このプロジェクトには医師も参画し、AIが導き出した健診項目との因果関係の妥当性を医療者の目線からチェックしていただけたことも大変にありがたいことでした。なお、因果探索に使用するAIのベースは数年前に提唱された「Direct LiNGAM」と呼ばれる数理モデルで、これを医療ビッグデータに適応したのは我々のチームが初めてです。