――近年のAIの進歩の中で、関心を持っているものはありますか。
甘利 ChatGPTの進歩は驚くばかりで、まるで賢い人間と話しているようにも感じられます。1年ほど前に「あなたは意識を持っていますか?論理推論をしますか?」と聞いた時には「いいえ、私は意識を持っていません。与えられた様々な事物の関係を確率的に総合して答えを出しています」と答えました。今同じ質問をしても「意識は持たない」と答えますが、「論理推論に関していえば、ある種の推論を行います」と答えます。今のChatGPTは自分の出した答えが論理的に整合しているかどうかを考える論理推論の機能を持っているということで、それだけ進歩が速いということなのです。
――脳科学をベースとしてニューラルネットワークが発展しましたが、これからのAIは脳科学とどのように関わっていくでしょうか。
甘利 かつてのコンピュータの「記憶」は、受け取った事実を決められた場所にそのまま格納する「記録」でしかありませんでした。対して人間の記憶は、人との会話の中から意味を理解して内容を抽象化して捉えますが、翌日には細部はほとんど忘れてしまい、本質的なところだけを少しずつ蓄えていきます。そうやって蓄えた記憶の中から、抽象的なエッセンスを復元することで思い出す。それが人間の記憶の特殊性で、一種の連想によって記憶されています。ChatGPTでもこの仕組みを利用しており、深層学習の層を大幅に増やすことで高次な言語処理を可能にしています。最近では、自分の出した答えが論理的に整合しているのかどうか、少し元に戻って論理推論ができるようになってきました。このように脳科学をヒントに学習や記憶の機能が向上してきたことを考えると、意識や心といった事象も人工知能に取り入れようとするでしょう。
――それは可能なのでしょうか。
甘利 心や意識とは何かという問題ですから、簡単ではありません。今の人工知能は、人間が持つ共感性や好奇心、喜怒哀楽といったものを持っていませんが、論理的には可能だと考えています。ただし、人工知能である以上は学習データによるバイアスがかかりますから、人工知能が自らの正義や理想に基づいて判断をするようなことがあれば大変危険です。AIがそこまで進歩すると、そういった問題にも直面することになります。
――帝京大学先端総合研究機構での研究テーマやその目的についてお聞かせください。
甘利 現在はAI研究の現役を退いていますが、「人を幸福にするAI技術」というテーマで研究に関わっています。これまでは人工知能の仕組みや理論を考えてきましたが、予想をはるかに超えるスピードで進歩したAIが人間社会、特に日本文化や文明に対して与える影響や人間との関わりについて、サイエンティストとして考えるべきだと考えています。「文理融合」という言葉が使われるようになって数十年がたちますが、人工知能が心の問題に関わるようになった今こそ文理融合が重要になります。帝京大学先端総研は、数理工学や人工知能の専門家をはじめ、経済学者、哲学者、医学者など様々な分野の研究者がそろっていることの意義が大きく、彼らと一緒にAIが社会や文明に与える影響やあり方などを検討しようとしています。
――長年AI研究に関わってこられた中で、近年の進化をどのような「転換点」として捉えておられますか? ブレイクスルーの要因は何だとお考えですか?
甘利 深層学習の確立とGPUなどの大規模計算資源の進化が大きいですね。理論はあっても計算能力が追いつかなかった時代から一変し、モデルやデータのスケールが桁違いに拡大しました。神経を模倣したニューラルネットワークが、かつて構想した「脳に近い情報処理構造」に接近しているのは感慨深いです。