――今回の研究は大腸がんですが、他の臓器のがんについても同じようなしくみが働いているのでしょうか。
岡本 がん種によって発生機序が違うため、全てのがんでオートファジーが関わっていると断言できませんが、大腸がんだけではないだろうと予想しています。実際に、他の種類のがんでも治療抵抗性とオートファジーの関係を示唆する報告もされています。
――岡本先生は「がん細胞とその周囲細胞のネットワーク化」にも関心があるとのことですが、それはどのような研究なのでしょうか。
岡本 がん細胞は単独で抵抗性を維持しているのではなく、周囲の細胞とのネットワークの中で機能していると考えられるのです。一例を挙げると、がん細胞は周囲にある線維芽細胞の性質を自分の生存に有利に働くように変えることが知られています。同じようなことが抗がん剤抵抗性で起きている可能性は高いでしょう。しかし、シングルセル解析では、細胞間ネットワークを調べることができません。そこで、各細胞の遺伝子発現情報だけでなく、細胞の位置情報も得られる空間ゲノミクス解析や空間オミックス解析と呼ばれる最先端の解析手法も積極的に用いて、治療抵抗性がん細胞を支えている細胞ネットワークについても明らかにしていきたいと考えています。
――オートファジーを悪用するなど想像以上に賢く狡猾ながんを根治するのは容易ではないように思います。
岡本 あらゆる手を尽くし、新しい戦略を生み出して最終的に生き残ったがん細胞ですから、そう簡単には死滅してくれません。しかも、がんが大きくなるにしたがって多様性を獲得するので、生き延びる可能性を持つがん細胞が増えます。そのようながん細胞と対峙し根治するのはとてもチャレンジングなことですが、それはがん研究を始めたときから目指してきた研究者としての夢でもあります。
――帝京大学先端総合研究機構は「文理融合型の研究により社会的課題の解決をめざす」という研究スタイルを掲げていますが、今後この研究拠点でどのように研究を進めていきますか。
岡本 帝京大学先端総合研究機構では、あらゆる分野の研究者が集まっており、バイオインフォマティクスなどの数理解析を取り入れることはもちろん、社会科学や人文科学の研究者たちとのインタラクションから新しい発想が生まれるのではないかと期待しています。私たち研究者は基本的に前しか見ていないものですが、少し立ち止まって、自分たちの研究の社会的意義を考えてみるなど、視野を広く持って研究を進めていきたいと思います。