ジェイテックコーポレーション
半導体ウエハー表面をいかに平坦にするか。半導体デバイスの性能や生産性を高める、原子レベルでのチャレンジが実を結び始めた。大阪大学独自の次世代加工・研磨技術の実用化に取り組む、ジェイテックコーポレーション。オンリーワン技術を軸とする産学連携ビジネスモデルで、イノベーションを創出する。
最先端技術が生まれる大学の研究室。しかし、実用化への道は一筋縄ではいかない。「難しいのは、常に安定した精度を維持しなければならないことです。技術供与だけでなく、産学連携ビジネスモデルとして実用化・量産化を見据えた戦略が必要です」とジェイテックコーポレーション代表取締役社長の津村尚史氏は強調する。
1993年設立以来、同社が産学連携ビジネスモデルを事業の柱とする「思い」は、「世の中にないオンリーワンの技術により製品を作り出し、広く社会に貢献する」という経営理念に込められる。同社には重要な成功事例が2つある。1つは、バイオ関連の各種自動細胞培養装置。もう1つは、大阪大学が開発したナノレベルの超精密加工法(EEM)を実用化した「X線ナノ集光ミラー」だ。その精度の高さから、国内外の放射光施設で採用が進む。放射光は科学、産業問わず原子レベルでの解析を可能にし、様々な謎の解明に寄与する。
EEMの実用化実績を足掛かりに、同社は大阪大学が開発した3つの次世代表面加工技術「プラズマ化学気相加工法(PCVM)」「触媒基準エッチング法(CARE)」「プラズマ援用研磨法(PAP)」の装置開発に着手。ナノレベルで高精度な平坦化を実現するに至った。
半導体はあらゆる電気・電子機器の製品価値に深く関わり、市場変化や環境負荷低減などの社会的要請に対応するため、高度化が常に求められる。その高度化における重要な要素の1つが、半導体ウエハー表面の平坦化だ。同社はこれらオンリーワン技術を実用化し、装置事業を進めている。
PCVMの装置開発において着目したのが、規則正しい基準信号により電子機器の動きをつかさどる「水晶振動子」だ。5GやIoT活用、自動運転など、高度な無線通信の需要増加に伴い高精度な水晶振動子のニーズが急拡大している。水晶振動子は、水晶ウエハーの厚みで精度が決まる。「PCVMはプラズマ雰囲気下で化学反応を利用する加工法です。厚みのムラに関して、従来加工技術は数百nm(10億分の1m)、PCVMは十nm以下。その差は桁が違います。振動子としての精度向上と歩留まりの改善が図れるため、国内大手企業から、PCVMを実用化した『水晶振動子ウエハ加工システム』の大型受注があり、量産化を開始しました。引き合いも多く、国内外で事業拡大を図っています」。
CAREは省電力化の鍵を握るパワー半導体の市場拡大に貢献する技術だ。「現在パワー半導体ウエハー材料の主流はシリコンですが、電気自動車の普及などを見据え、電力効率、耐熱性を大幅に改善できるSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)への期待が高まっています。課題は、高強度で難加工性材料であるSiCやGaNは、従来の加工・研磨技術では加工に時間を要し、かつ欠陥やダメージが発生するリスクがあることです」。
CAREは触媒作用を利用した純水のみを用いる原子単位の高度な加工法だ。GaNにおける表面粗さ(RMS)は、従来加工技術が0.58nmRMSである一方、CAREは0.09nmRMS。しかもダメージのない理想的な結晶表面を創出できる。「油や薬液といった高環境負荷廃棄物が発生しないことから、環境負荷低減の観点からも大きなメリットがあります」と津村氏は言う。現在同社は、複数企業との間でテスト加工を重ねる。導入に向けた取り組みは着実に進んでいる。
PAPにおいて着目したのが、次世代パワー半導体基板として話題を集めるダイヤモンドだ。「人工ダイヤモンドを使った基板は高い物理特性を有するため、多くのメリットが期待できます。問題はダイヤモンドの硬度が極めて高いため、加工スピードと平坦化の両立が非常に困難という点です。しかしPAPは、プラズマで改質させた基板表面を研磨するためダメージがなく、高効率・高精度で平坦化を実現できます。従来法の10~100倍以上の加工速度が見込めるとともに、表面粗さも従来法が80.6nmRMSに対しPAPは0.47nmRMSと、差は歴然です」。
同社はPAP装置の受注、共同開発を実施、複数社から引き合いがあるという。「お客様からは『ダイヤモンド基板を平坦化する方法を探していたが、加工スピードと平坦化の両方を実現できるものはこれまでなかった』と、高い評価をいただいています」。
産学連携ビジネスモデルを成功させる体制にこそ、同社の強みがある。「当社社員の大半が技術者であり、うち1/3が博士号を取得。研究機関と対等に話せる人材が豊富です。また特許戦略とともに、オンリーワン技術を実用化するノウハウがあり、ビジネスに柔軟に対応しています。当社が開発したPCVM、CARE、PAPの各装置は、自分たちがお客様の立場で使ってみて、その結果やデータをもとに製品化しています。オンリーワン技術は、お客様の製品に付加価値を創造し競争力を高めることから関心も高いです。大学から講師を招き、次世代加工技術のプライベートセミナーを開催し、最先端の情報を発信しています」。
同社は大阪大学と共同で大学内に「先端機能材料加工基盤技術共同研究部門」を設立。半導体分野における原子レベルの平坦化と、オンリーワン技術実用化への飽くなき挑戦は続く。