

新素材の登場が半導体の世界を拡げる。
従来も“装置・材料”は半導体の進化に大きく貢献してきた。
微細化が究極まで進んだ今、今後は後工程でのイノベーションに
期待がかかる。そこでさらなる活躍が期待されるのが素材・材料だ。
勢力図や微細化ばかりに目が行きがちな半導体。
今回は真なる論点、「素材」から半導体を読み解いてみる。
総論
半導体の材料分野で日本企業の躍進が続く。シェア5割以上を占め、確固たる地位を築く。今後の成長領域であるパワー半導体は材料の主役に炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)が加わり、カーボンニュートラルやGX(グリーントランスフォーメーション)をはじめ、社会変化への解決策として半導体への期待も大きい。引き続き、成長軌道に乗せるための条件とは何か。専門家の意見も交えながら解説する。
名古屋大学
未来材料・システム研究所教授
山本真義氏
2003年山口大学理工学研究科博士取得。2011年島根大学総合理工学部准教授。2017年から現職。パワーエレクトロニクス全般に関する研究に従事。産学連携を推進し、共同研究企業は40社を超える。
パワー半導体に対する期待が高まっている。電力の制御や変換に特化した半導体を指し、高電圧で高電流を制御できることが特徴だ。具体的には電気を1方向だけ通す「整流」、電気信号を大きくする「増幅」、電気を通したり止めたりする「スイッチング」といった役割を果たす。演算や制御を得意とするロジック半導体を「知能」と例えるなら、パワー半導体は「心臓」と表現できる。今パワー半導体は性能を高めつつ、消費電力を減らすことが求められ、相反する命題を課せられる。パワー半導体に詳しい名古屋大学未来材料・システム研究所教授の山本真義氏は「この命題に対し材料分野において日本企業が引き続き良い地位を維持できる」と力を込める。
原材料も主役が交代しつつある。炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を材料としたパワー半導体に注目が集まっている。第1世代がシリコン(Si)で、第2世代の化合物材料を経て、SiCやGaNは第3世代と位置付けられる。絶縁破壊電圧や、飽和電子速度などで従来を上回る物性値があることが特徴だ。第3世代のパワー半導体を搭載することで、機器の出力や動作周波数が飛躍的に伸びる。
ただSiはコスト面で優位性があり置き換わるわけではなく、すみ分けが進む。図1のようなイメージだ。低圧領域には引き続きSiが使われ続け、SiCはシステムの小型化や軽量化のメリットが大きい10kW以上の領域での普及が期待されている。例えば、鉄道のほか、発電システムで使うパワーコンディショナーや電化住宅のHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)、電気自動車(EV)駆動用インバーターといった領域だ。大電流で高耐圧なパワー半導体に置き換えることで、大きく性能向上が見込める。
一方で、GaNはSiCよりも出力容量が低く、小型化への需要が高い分野での応用が期待できる。例えば、第5世代移動通信システム(5G)の電源のほか、スマートフォンやノートパソコンの充電器だ。USB Power Delivery(USB-PD)の規格が制定されUSBケーブルを通して最大100Wまでの受給電が可能となり、急速化や小型化のニーズが高くGaNの普及が加速することが見込まれている。図2のように2030年にかけて適材適所で徐々に置き換わっていく。
こうした半導体の変化において、日本企業が果たす役割は大きい。様々な市場調査から半導体の材料において50%以上のシェアを有しているとみられ、市場を席巻している。
今後、注目すべきなのが後工程と呼ばれる分野だ。従来、半導体は前工程の革新で進化してきた。シリコンウエハーの表面上にトランジスタなどを含む電子回路を形成するが、回路を細くして集積度を高める微細化を進めてきた。ただ微細化にも限界があり、半導体をウエハーから切り出して製品化する「後工程」に注目が集まっている。
例えば半導体チップを2つ以上の層に梱包して積層。水平・垂直方向に相互接続を維持し、単一のデバイスとして機能する「3D実装」といった技術で半導体の進化に貢献していくだろう。
ここで日本企業が培った高い技術力が生きる。まず、SiCチップは封止する難しさがある。EVなどで使うには、200度以上の耐熱性や高耐圧の性能が求められる。エポキシ樹脂が封止材として使われるが、熱膨張係数が変わるとクラック(ひび)が入るなどしてしまう。新しい素材を配合したり、塗布したりするなど化学領域で研究開発が進む。既に国産のEVのインバーターとして搭載されるなど実用化している。「化学に基づく技術は、これまで黒子に徹していたことが生きている。応用側の期待が大きく成長が期待できる分野」(山本氏)。
次にGaNも小型化に向けパッケージ化が進み、自己発熱による性能劣化を防ぐための放熱材料へ期待が寄せられる。国内メーカーが強みを発揮し、異方性をもって分散できるなど新たな開発も進んでいる。
「(化学プラントが多く集積する)太平洋コンビナートに代表される企業群が活躍する素地が整っている。日本企業が得意なすり合わせ技術も強みとなる」(山本氏)。化学メーカーは長年研究開発に力を入れノウハウを蓄積し、顧客からの要望に迅速に対応してきた。「デバイスのパラダイムシフトにも日本メーカーの層の厚みで柔軟に対応できる」(山本氏)。
その強みを最大限に活用する上で、山本教授は日本企業に変革を促す。古くから材料メーカーは顧客の要望に細かく応えることで成長してきた。顧客にとっては「かゆいところに手が届く」存在だが、材料メーカーは多品種少量生産となり規模を追求しにくい。研究開発も分散しがちになる。一方で欧州を中心とした海外メーカーは仕様を共通化し、汎用化を進めている。「海外は顧客を頂点とするピラミッド構造を脱し、各社が得意分野を伸ばすように環境が整っている」(山本氏)。日本の材料メーカーも自社の技術力を武器にしたプロダクトアウトの考えが求められているのだ。
パワー半導体がカーボンニュートラルに向けたキーデバイスであることに変わりはない。気候変動への対応が待ったなしで、脱炭素目標を掲げる国は世界のGDPの9割を占める。欧米をはじめ、排出削減と経済成長を両立するGX(グリーントランスフォーメーション)を掲げ、投資競争が激化している。
日本も半導体材料大手のJSRが今年6月に、官民ファンドである産業革新投資機構(JIC)の買収を受け入れた。業界として構造改革を進め、日本の半導体材料の競争力と質の強化に政府も乗り出している。材料に強い日本メーカーの勝ち筋を描く上でも、官民一体となった動きが不可欠だ。