日建設計
設計監理部門 設計部長

羽鳥 達也

 日建設計がどのような視点で木を利用するプロジェクトに臨んできたか。計画の川上から川下にわたる取り組みを紹介したい。

 プロジェクトの変遷を見ると都市木造の「木材会館」を2009年に実現して以後、資材輸送時の環境負荷の低減や林業の再生などにも目が向かい始めた。2010年代後半、非住宅建築への木造の採用が社会的テーマとなった際には、住友林業の超高層「W350計画」(2018年、木鋼ハイブリッド構造)の構想に共同で取り組んだ。

 リテラシーが向上する中で、資源循環や持続可能性がより強く意識されるようになった。仮設施設の木材を産地の自治体で再利用する「選手村ビレッジプラザ」(2020年)、山の状況に応じ適材適所の木材利用を徹底した「高槻城公園芸術文化劇場」(2022年)などが建築されている。

 プロジェクトの性格は、それぞれのクライアントの意向のほか、技術開発の進展、国の規制や補助事業、国内外の木材価格などに左右される。大断面集成材の材積を削減したプロジェクトがある一方で、CLT(直交集成板)を多用したものがあるなどアプローチは様々で必ずしも一貫性はない。

 今後、木の利用に際して何が重要となるか。所内の専門家たちに聞いたところ、問題意識は「木の利用に関する情報共有」「権利などのオープンソース化」「領域を超えた連携」の3つに集約される。

 こうしたテーマは社会的課題の解決と結び付けて考える必要がある。例えば情報共有による効率化は、人口減少やそれによる人手不足の問題と密接に関係する。特に木の利用に関する規制は自治体によって対応が異なるため、その情報をあらかじめ把握したい。また、接合部の仕様など技術情報、木材メーカー・製材所の評価など業界情報の有無も設計の手間や工期、予算に大きな影響を与える。

 実践的な知識は昔はオンザジョブで身につけるしかなかった。しかし、木の利用のように個別性が高い仕事はそれでは効率が悪い。そこで社内の有志が立ち上げたチームが「Nikken Wood Lab」だ。科学的エビデンスや法改正を含め最新情報を社内に伝達する役割を彼らが果たしている。それぞれの設計事務所が同様の組織を持ち、各社間の交流が起これば素晴らしいと思う。

 木は「生もの」である。どうしても属人的になる設計情報や実験情報の場合、特定のプロジェクトの設計者や技術者にアクセスするのが早い。2020年に稼働を開始した社内人材の検索システム「NIKKEN GALAXY」がこれを可能にする。全員の自己紹介や社員同士のつながりやプロジェクトとの関係を一覧できるので領域間の連携が図られる。これは、設計という仕事において、環境性能の証明や、より複雑化する法規の学習やその対処など、ますます時間を費やさなければならない要素が増えていく一方で、さらに人手が不足したりノウハウが継承されないなどの問題が重なり深刻化していく環境の中でも、新人や中途採用の人でも、通常では人間関係づくりから始まり時間がかかる属人的な情報ネットワークへのアクセスを短縮でき、知恵を共有しやすくなる環境づくりに挑んだものだ。

 日建設計は技術仕様のオープン化にも積極的に取り組んでいる。要素技術は特許で囲い込まずに公開し、構法などはメーカーを通じて一般利用される形を目指している。中大規模木造の分野では、構造材の木質化技術の開発を進めてきた(図1)。

中大規模木造向けの技術開発。自ら技術を開発するのは制約なしにグレードの高い設計仕様を選択するための自衛手段で、クライアントのメリットにもなる(出所:日建設計)

 また、木材は調達に時間がかかるほか、製材かエンジニアリングウッド(集成材、CLT)かで構法や施工者の決定に制約が生じる。これは設計・施工の都合以上に、木を切った山元の経済的メリットなどの観点で是正を図らなければならない。Nikken Wood Labのメンバーはウッドコーディネーターの資格を取得し、地域のネットワークに入り込んでより経済的にも山の環境的にも、有効な木の使い方を考えることに挑戦している。

 以上から、川上、川中、川下それぞれで無理なく木を使うためのコーディネートが大切だと分かる。2021年にはこれに対応する取り組み「Nikken Wood Coordination」に着手し、設計や調達に関するルールなどの統合を図ってきた。個別の設計の際に重要なチェックが抜け落ちないようにする仕組みとなっている。

 林業を支えるために地方の暮らしをいかに持続させるかも社会的な課題となる。木の利用と掛け合わせれば再造林の促進や生態系の維持も併せて解決が可能ではないか。近年、それらに包摂的に対応する「Mobility Infrastructure Systems」の構築を試みている。電線や水道管、ガス管のような既存のライフラインを「動くインフラ」としてモビリティに代替させようとするものだ(図2)。

「動くインフラ」の活用でエネルギーや水まで含めた最適配送を図り、地域の暮らしを持続可能にする。既に国の社会実験として、貨客混載や運搬送水なども始まっている(出所:日建設計)

 都市のコンパクト化は進まず、旧来のインフラには老朽化や維持管理の課題が山積する。一方で、人や貨物、廃棄物などの運搬には縦割りの非効率がある。例えば、利用率の低い乗用車などを活用すれば地域のリソースを無駄にせずにエネルギーや水を運び得る。そこには新たな雇用やコミュニティーが生まれるし、木材を含む未利用エネルギーの有効活用、災害に強い地域づくりなども推進できる。

 このシステムの提唱は富山県黒部市の「Community Drive」プロジェクトに結び付いた。福祉分野のDXを担うSMARTふくしラボなどと共同で、日中はあまり用いない介護車両を地域の人の移動にも運用しようとする取り組みである。一方で黒部市は面積の約84%が森林で、地場の鉄道で木材輸送していた歴史がある。また現在、「あいの風とやま鉄道」は貨物需要にうまく応えることで、地方鉄道では珍しく黒字化を果たしている。そこから考えると、地域の足になる公共交通などを木材輸送にも利用することで、林業も地域住民の足となる移動プラットホームを下支えし、地方の暮らしの維持に役立てることができるはずだ。林業の関係者が多く暮らす地方の中核都市の生活をより豊かにする試みは、林業復興にも貢献できるはずだと考え、介護事業者だけでなくより多くのネットワークを結び付けようと取り組んでいる。

 各自治体などが気候非常事態を宣言する中、試行錯誤に時間をかける余裕はあまりない。施策を誤ると林業の復興が手遅れになる。ファクトに基づき、有効な方法を確実に実行すべき時期が来ている。

 木をつかうことが日本の再生につながり、その未来をひらくためには、人と木の複雑な関係をより深く読み解き、社会の変化も捉えながら、木利用に関する上流から下流までを包括的に豊かにする取り組みが必要不可欠であると我々は考えている。

※所属・肩書は2024年11月1日時点のものです。