――今井さんがCHROとして心掛けていること、実際の施策に生かしていることなどを教えてください。
ビジネスモデルにマッチした企業文化を戦略的に創ること、そしてそのために経営と従業員をつなぐことがCHROの重要なミッションの一つなので、現場の空気を感じ取ることを重視しています。例えば、毎年CEOの髙橋と共に当社の70拠点近くを訪問し、ラウンドテーブルやワークショップを行って、1000人以上の従業員と直接対話をしています。現場の雰囲気を感じながら、今何が必要かを考えてきました。エンゲージメント調査のデータも蓄積されてきたので、今後は肌感覚とデータを基に、拠点ごとに合わせた施策を展開していきたいと思っています。
現場との接点を多く持つというのは、CHROとして現場の肌感覚を知ることができるとともに、現場の従業員からしても心理的安全性、先ほど今井さんがおっしゃった心のキャパシティを広げることにつながるでしょうね。
――ラウンドテーブルやワークショップを実施する際、現場へはお二人で行かれるのですか。
人材育成とカルチャー変革は髙橋と二人三脚で取り組んでおり、必ず2人で訪問しています。髙橋とは、現場に向かう途中、「こうやって話を切り出そう」「ここで話を盛り上げよう」といった話もしますし、終了後に「次回はこの課題を掘り下げよう」「この段階をクリアしたから次の段階に施策を進めよう」といった議論もします。
アジャイル的で柔軟なやり方をされているのですね。スピード感についてはどうお考えですか。
人事制度は従業員への影響が大きいので、一気に大きく変えると反発を招きかねません。かといって悠長に構えていると変革の旬を過ぎてしまうので、できることからスモールスタート、クイックウィンで進めています。一つひとつの積み重ねがビジョンの実現へとつながっていくようなイメージです。
――今井さんがCHROとして苦労された点、逆に楽しいと感じている点はどこですか。
私はもともと変革に前向きなタイプの人間で、古い慣習を変えて従業員一人ひとりの個性を解き放ちたいという強い思いを持っているので、CHROの仕事は基本的には楽しいです。ただ、振り返ると旧昭和電工と旧日立化成の統合時には、目指したい姿を理解してもらうことや両社のカルチャーの違いに苦慮しました。
経営統合ではそうした話をよく聞きますね。どうやって乗り越えられたのでしょうか。
両社の従業員は、それぞれなぜこの統合が必要だったのか腹落ちしていませんでした。なので、髙橋と共に実施したタウンホールミーティングで、まず業界の状態を説明し、健全な危機感を感じてもらった上で統合の意義を共有しました。統合に至る経緯や統合のポリシーなどを丁寧に説明したことで、徐々に一緒にやっていこうという空気がつくれたと思っています。
今井さんの話を伺っていると、経営者としてビジョンに向けた変革を実現するため、従業員や組織、カルチャーの現状をしっかり把握し、広い視点で経営と現場のどちらにも配慮するという意識を持ち続けておられるのを感じます。
――レゾナックでは人材戦略として「共創型人材の育成」を掲げておられます。共創型人材の定義やこうした人材を育成する背景について教えてください。
社会課題の解決のために部門を超えて自律的につながり、イノベーションにより変革と課題解決をリードできる人材を共創型人材と呼んでいます。当社は機能性材料メーカーなので、様々な基盤技術を組み合わせてお客さまが求める機能を生み出すことが企業価値につながります。つまり、共創型人材の育成というのは、事業モデルをベースにした人材戦略だということです。
人材戦略が事業モデルと密接につながるものになっているということですね。一方で、共創型人材は、他の業界・企業でもその重要性は増していると思います。1人でできることは限られますから、アイデアを出し合って創発的に製品やサービスを生み出すというのは普遍性があると感じました。
――共創型人材の育成で具体的に取り組んでいることを教えてください。
ベースのスキルとして知識を得る研修とその知識を基に自律的に実践する場の提供、この2つを進めています。変革するには、頭で理解することも大事ですが、行動が伴わなければ意味がないので、行動変容につながる工夫をした結果、この形になりました。
前者の研修は、全マネージャーを対象に実施している共創型コラボレーション力強化研修です。設定しているスキルは「心理的安全性の確保」「アンコンシャスバイアスの排除」「発信力」「傾聴力」「ファシリテーション力」の5つ。内容は座学と360度フィードバックで、すでに1300人以上が受講しています。最初にCEOをはじめとする経営層からスタートしているのが特徴で、その後、各チームのマネージャーからチームメンバーへとカスケードする形で、全社的な共通言語を作っていく取り組みとなっています。
後者の実践する場については、挙手制の取り組みです。その1つ「REBLUC(レブルック)」は、「どんな未来に貢献したいのか」というお題に対して、参加メンバーが具体的な行動を実践していくコミュニティで、2023年は第1期生として36人が参加しました。

先ほど今井さんが、共創型人材そのものが事業戦略上の必要性から生まれているとおっしゃっていましたが、こうして具体的な施策を伺うと、すべてが一体化してつながっていると感じます。概念的な部分だけでなく、それを行動につなげ、整合性を持って現実に落とし込んでいる、しかも経営層から始められているというのは驚きました。会社がこれだけ本気を見せているからこそ実効性も高まるのでしょうね。
実はグロービスさんにもご協力いただいています。当社ではHRビジネスパートナー(HRBP)部門を設置し、グループの経営・事業におけるリーダーのビジネスパートナーとして、人事の側面から変革を支援する役割を担っていますが、このビジネスパートナーの研修をグロービスさんに統合当初、実施していただきました。
当社もG1経営者会議やG1サミット、CHROラウンドテーブルといった場づくりを行っていますが、今井さんには何度も登壇していただいています。
――最後に、今井さんがCHROとして成し遂げたい今後の展望についてお話しください。
パーパスとバリューを重視した経営を進めていますが、私は、順番が重要だと考えています。まずしっかりバリューを理解してもらい、従業員の行動を変えてきました。行動が変わることでようやく意識も変えられると思っています。なので、次はいよいよパーパスの実現だと考えています。私は、会社は従業員がそれぞれのパーパスを実現する器だと思っているので、一人ひとりが自分の思いを大切にしながら会社のパーパスとの重なりを見いだし、社会を変えていってほしいと考えていますし、CHROとしてそのためのプラットフォームを引き続き整えていきたいと思います。
また、CHROの後継者育成にも取り組みたいと考えています。これからは人事の領域ももっとデータドリブンでAIも活用されるので、これまでとはまた違った観点で変革を推進できる人材が現れると思います。人の可能性に制約はありません。自由な発想で変革を楽しめるクリエイティブなCHROが育ってくれることを期待しています。
CHROにとって人の可能性を信じ切る力は重要ですね。人を信じることで組織が変わり、企業価値が向上し、それが社会を変えていくのだと思います。需要に対してまだまだ供給が足りていないポジションなので、経験豊富な多くの方にCHROを目指してほしいと思います。
