東洋紡
『順理則裕』の精神を受け継ぎ
技術を進化させながら
社会を「ゆたかに」
前身は渋沢栄一が会社創立に奔走した大阪紡績。明治初期、近代化で成功を収めた民間初の大規模紡績会社である。渋沢の座右の銘の一つとして社内に伝えられてきた『順理則裕』という儒学者の言葉を「なすべきことをなし、ゆたかにする」と読み解き、社会の発展と自社の成長を目指してきた。長い歴史の中で祖業である紡績の技術を進化させながら紡績を超える事業の柱を打ち立て、社会への貢献を果たしつつ新市場を切り開いてきた。
『順理則裕』とは何か。その意味を読み解けば、「理に順えば、則ち裕なり」。一般的には「道理に生きることが、すなわち繁栄につながる」と解釈される。
渋沢栄一風に言えば、公益を追求することが、私益をもたらす。渋沢の提唱する「道徳経済合一説」の思想とも重なる言葉。東洋紡の企業理念である。
その企業理念を、東洋紡では2019年3月、再定義した。「なすべきことをなし、ゆたかにする」と、能動性を持たせた現代語で、新たな解釈を与えた。取締役会長の楢原誠慈氏は語る。
東洋紡 取締役会長 楢原 誠慈氏 渋沢栄一が揮毫した『順理則裕』の扁額。「なすべきことをなし、ゆたかにする」という新たな解釈は、SDGs(持続可能な開発目標)が目指す方向性とも重なる
「当時、東洋紡は新たな局面を迎えていました。紡績技術を応用した技術で事業を拡大してきましたが、今後、どのような会社に成長させるのか――。そう考えた時、原点に立ち返る必要を感じたのです」
前身である大阪紡績の工場建屋。現在の大阪市大正区内に立地していた。写真は会社創立から5~10年後の明治20年代に建設された3号工場
渋沢が大阪紡績を創立したのは、明治初期の1882年。「このころ、木綿製品は輸入品頼みで貿易赤字の原因にもなっていました。そのため、繊維産業を国内で育成することを渋沢さんは思い立ったのです」。
前身である大阪紡績の工場建屋。現在の大阪市大正区内に立地していた。写真は会社創立から5~10年後の明治20年代に建設された3号工場
繊維産業といえば、衣食住の「衣」を支えるインフラだ。日本の社会に必要な良質で安価な繊維製品の供給も同時に求められていた。
技術の力で社会課題の解決を図る。その精神は脈々と受け継がれ、1960年代以降、祖業からの応用技術で新しい事業を生み出してきた。事業分野は、「フィルム」「ライフサイエンス」「環境・機能材」「機能繊維・商事」の4つ(図)。このうち「フィルム」「ライフサイエンス」「環境・機能材」の3分野を、収益性・成長性をともに見込む重点拡大事業に位置付ける。
■東洋紡グループの主要4事業。いずれも、祖業の紡績技術を応用した技術を基盤とする
技術と素材を組み合わせ
課題解決型の事業を創出
2022年、創立140周年を機にJR大阪駅前に立つ商業・オフィスビルに移転した
まず合成繊維の原料を薄く延ばす技術から生まれた「フィルム」だ。食品保存に用いる包装用や液晶パネルに組み込む偏光子の保護フィルムなどの工業用を展開する。食品包装用フィルムは国内トップクラスのシェアを持ち、偏光子保護フィルムは全世界のテレビ用液晶パネルの2台に1台以上の割合で使われているという。
食品包装では、海洋プラスチック問題やサーキュラーエコノミー(循環経済)を背景に環境配慮が喫緊の課題だ。廃棄物を削減するため性能を保ちながら薄さを追求したり、リサイクルを念頭に植物由来の原料を使用したりするなど、様々な角度からの対応策をすでに取る。
次にバイオ事業やメディカル事業を柱とする「ライフサイエンス」だ。一見すると祖業とは関係なさそうだが、そうでもない。
バイオ事業は、化学繊維の原料の一つであるパルプの廃液処理に環境配慮の観点で酵母を用いたのが、取り組みのきっかけだ。酵母が生み出す酵素の機能に着目し、研究開発を開始。各種診断薬の原料酵素や研究用試薬などを製造する。
メディカル事業も、起源をたどれば祖業の紡績技術に行き着く。血液透析に用いる人工腎臓用中空糸膜が、その典型だ。今ではこのほか、医療機器用の抗血栓性素材やコラーゲン使用人工骨などを製造する。
「環境・機能材」には幅広い高機能素材がそろう。例えば、より小さなエネルギーで海水を淡水化する中空糸分離膜やVOC(揮発性有機化合物)の回収に用いる活性炭素繊維などがある。合成繊維や不織布化の技術を応用したもので、環境負荷の低減や環境の良質化に役立つ。
この分野では、顧客の要望に応えた製品開発を通じ、技術を磨いてきた。例えば再生可能エネルギー関連では、浮体式洋上風力発電装置を海底につなぎ留めるのに利用可能なスーパー繊維がある。高強度だが軽く、引っ張り力を加えても伸び切らないのが強みだ。
事業分野は異なるが、技術の力で社会課題を解決しようという精神は変わらない。「時代の変化を鋭敏に感じ取りながら、その時々に必要なものを技術と素材を組み合わせ開発してきました」(楢原氏)。
2022年、創立140周年を機にJR大阪駅前に立つ商業・オフィスビルに移転した
社会課題を能動的に捉え
「なすべきこと」をなす
グループの従業員は、「理念」をはじめ、「めざす姿」や「大切にすること」などをまとめたカードを携行している
この社会課題の解決こそ、東洋紡にとって「なすべきこと」の象徴だ。「なすべきことをなし、ゆたかにする」という新たな解釈は、社会課題の解決を能動的に捉えることを求めている。
グループの従業員は、「理念」をはじめ、「めざす姿」や「大切にすること」などをまとめたカードを携行している
まさに、まず公益を追求しようとする姿勢。「『みんながうれしいのが一番なんだで』――。渋沢さんをモデルにしたNHKの大河ドラマで母のゑいさんが幼少時の渋沢さんにこう語りかけていました。今後の事業にも、『自社さえ良ければ』という構えではなく、『ステークホルダー全員が良くなるには』という構えで臨んでいきたい」。楢原氏は改めて渋沢に思いをはせる。
『順理則裕』とはすなわち、社会課題の解決を通して社会を良くし、自らも成長する、という企業理念だ。それは年月を超え、東洋紡の中で確かに受け継がれている。
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