2026.03.19 │ 東京都
令和7年度事業所防災リーダー優良企業に
認定された4社に学ぶ
従業員や利用客を守るための防災の取り組み

近年、災害に対するリスクがかつてないほど高まっている。これをふまえ、BCP(事業継続計画)を策定している企業や自治体は多い。そこでは、被害を最小限に抑えるのはもちろん、早期の事業再開が大きなテーマとなる。そのためには情報収集とデータに基づいた計画を策定し、一人ひとりの理解を深めることが、BCPの実効性を高めるために欠かせない。その具体的な考え方や抜けがちなポイント、モデルとなるケースなどについて、国立研究開発法人防災科学技術研究所 総合防災情報センター長の臼田 裕一郎氏に話を聞いた。

気候変動により強大化する集中豪雨、台風などの大規模水害に加え、南海トラフ地震、首都直下型地震など巨大地震の発生も高い確率で予測されており、自然災害は常に、日本社会にとっての「今、そこにある危機」だといえるだろう。
こうした危機に対して「自助が重要なキーワード」と語るのは、国立研究開発法人 防災科学技術研究所の臼田裕一郎氏だ。災害発生直後の避難など、現場での判断が生死を分けるようなタイミングでは、行政だけに頼るのではなく、個々が自助の意識で判断し、行動できる社会にならなければいけないという考えだ。
国立研究開発法人
防災科学技術研究所
総合防災情報センター長
臼田 裕一郎氏
「労働力不足や財政の観点から行政はスリム化を進める必要がある一方、災害対策では、市町村合併によってより広いエリアをカバーしなければならなくなっています。人は足りない、でも広い地域を見なければいけない。現実的にはどうしても限界があり、自助を強調しなければ災害対策が成り立たない状況に、多くの自治体は直面しているのです」(臼田氏)
このように災害対策を取り巻く環境が大きく変わる中、実効性のあるBCP(事業継続計画)を策定するには、どこに注意したらいいのだろうか。その参考となるのが内閣府による「事業継続ガイドライン」だ。ここでは、「策定の目的設定」のステップ1から「重要な業務の洗い出し」「想定されるリスクの抽出」「リスクの優先順位付け」「具体的な対策の策定」まで、5つのステップが示されている。
内閣府の「事業継続ガイドライン」では、5つのステップでのBCP策定を推奨している。この5つをベースに、自社、拠点の立地環境に合わせて、実効性のある計画へ落とし込んでいくのが基本的な考え方になる
こうした観点から多くの企業・組織でもBCPが策定されているが、臼田氏は「どれだけ現実に即した計画になっているか、あらためて確認する必要があるかもしれません」と指摘する。
というのも「従来の常識」にとらわれたBCPになっているケースが少なくないからだ。例えば、ハザードマップを参考に災害対策を立てることは多いが、そのハザードマップも絶対ではない。
「エリアで色分けされているマップ上で見ると、自社拠点は安全な地帯にあるといっても、近年の大規模な自然災害はエリアの枠を軽々と超えて、甚大な被害をもたらします」
想定していないリスクに直面したとき、即座に有効な対策を立てられるのか。事業継続を担保できるのか。ハザードマップに限定するのではなく、様々なリスクを想定した上でのBCPの策定が重要であり、そこが災害対策の課題の1つだという。
「例えば、ハザードマップで危険箇所と指定されていなくても、扇状地に拠点が置かれる場合は水害、土砂崩れのリスクがあります。津波、浸水、液状化など、過去にどの程度の災害が起こった場所なのか。そもそもどんな地形、地質の土地であり、潜在リスクがあるのかを、平時のうちに調べてBCP策定に反映させていく。これが実効性を高めるには欠かせないポイントです」と臼田氏は指摘する。

また、自社だけでなく、サプライチェーン全体という視点を持つのも、実効性の高いBCP策定においては欠かせないポイントとなる。
「特に影響が大きいのは物流、調達に関するところで、代替の輸送手段を想定しておく、別の調達先を確保しておくなど、サプライチェーンリスクにも備えなければいけません」と臼田氏は説く。
災害発生直後の安否確認、被害状況の確認は、災害の種類や甚大さによっても変わってくるが、サプライチェーンリスクに関しては平時に検討し、備えることで事業継続の精度を高めることができる。
ただし、こうした多岐にわたる作業を人手だけで行うには限界がある。そこで最新技術を活用した防災DXが重要となるが、ここでも考えておくべきポイントがあると臼田氏は言う。
「現在のアナログ業務を単にデジタル化するだけでは大きな効果は望めません。大事なのはDXのXであるトランスフォーメーション、つまり業務や体制を変革することです。例えば安否確認において、システムを導入しても、担当者が目視や手作業で一人ひとりの安否を確認していたら、次の行動まで時間がかかってしまう。これに対し、安全な場所にいる人には自らアプリから状況を登録してもらい、その反応がない人にだけ個別で連絡を取るようにするなど、担当者のもとに最大限自動で情報が集まる仕組みをデジタルでつくることで、効率よく初動対応ができるようになるし、事業継続フェーズへの移行もスムーズになるはずです」
被災時の通信手段確保も重要だが、「スターリンク」など衛星を使った通信サービスを利用すれば、地上の通信インフラが被害を受けても、安否確認、被災地の拠点への連絡手段は確保できる。こうしたテクノロジーの活用も考慮すべきだろう。

こうした観点を踏まえた上で、学ぶべきBCPの先進事例はあるのだろうか。これについて臼田氏は企業と自治体、2つのケースを挙げる。
まず企業の例として、注目したいのはコンビニチェーンのセブン-イレブン・ジャパンだ。災害発生時、コンビニエンスストアは地域社会のライフラインとして機能することが求められていることから、同社は2021年にBCPを大幅に改定。「人命最優先での行動・店舗早期再開・地域社会への貢献」を柱に、最新のテクノロジーを活用しながら、実効性のある取り組みを行っている。
「2024年元日に起きた能登半島地震では、発生直後からの現地での復旧作業に加え、災害対策本部からも支援を行い、5日後には全店舗の営業を再開していたといいます」(臼田氏)
同社のBCPで重要な役割を果たしているのが「セブンVIEW」と呼ばれる災害対策システムだ。これは、災害時に必要な情報を、現場の負荷なく集約し、迅速な復旧、支援を実現するもの。全店舗の状況や在庫などをリアルタイムで把握し、効率的な支援を行うことで迅速な事業再開を可能にしている。
一方、自治体の枠を超えた取り組みとして注目すべきは「九州防災DXタスクフォース」だ。これは九州経済連合会と複数企業が中心となり、官民連携で九州に暮らす人々と産業の安全保障対策強化に貢献することを目指し設立したもの。九州地方は台風や豪雨などの大規模水害が多く、河川が県境をまたいで存在するなどの地域特性もあり、自治体横断の広域連携、官民共創によって防災・減災対策を強化する狙いがある。
「自然災害への対策を自治体ごとに行っても、被害は人間が決めた境界に関係なく広がっていきます。そこで、九州の各県で行っている取り組みのデータを共有し、官民共創で地域としての防災力を高めようとしています。内閣府が検討を進めている災害対応基本共有情報(EEI)の九州版をいち早く定めようとするなど、官民・民民での連携・共創、データ共有、テクノロジー活用などの面で、今後のBCP策定のヒントとなる事例でしょう」(臼田氏)

逆に、BCPを策定したものの、うまく運用できないケースに共通項はあるのだろうか。被害の程度は様々でも、突き詰めると「経営者、防災担当者は意識高く取り組んでも、現場の従業員への理解、浸透が足りない」という問題が大きいという。BCPを策定したものの、教育/演習を怠っていた。権限委譲が明確でなく、現場での判断に時間を要したといったケースがそれだ。対策としては、地道な啓蒙や教育、そして持続的な訓練が必要だと臼田氏は指摘する。
「現場の巻き込み方は様々ですが、やはり防災訓練を定期的に行うのが重要だと思います。安否確認のシステムがちゃんと稼働するかどうか。事業継続に向けて、個々がどう動けばいいのかは、頭では分かったつもりでも、シミュレートするのとしないのとでは、実際に災害に遭遇した際の動き方に大きな差が出るものです。避難はもちろん、事業継続まで含めた訓練を行い、一人ひとりに自分事化させるのが重要だと思います」
また、BCPは策定したら終わりではなく、最新の災害情報なども取り入れながら、常にアップデートする必要がある。テクノロジーに関しても同様で、事業継続に効果的な新技術に対してアンテナを張っておかなくてはいけない。
「被害が甚大化する自然災害に対応するには、情報収集、データ利活用による対策レベルの強化が求められます。日本では毎年どこかで災害が発生します。その際、自社やサプライチェーンが同じ災害を受けたらどうなるか、その都度想像し、BCPを見直すという習慣をつけることが大事です。立ち止まらず、BCPを常に進化させる意識を持って取り組むのが、企業、そして自治体の務めではないでしょうか」(臼田氏)
それは、社内では雇用の維持、社外では顧客や株主、そして市場からの高評価を得ることにもつながる。BCP策定は、企業や地域の価値の維持と向上に資する取り組みでもあるといえるだろう。

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