

佐川急便を中核とする総合物流企業グループ、SGホールディングスグループ(以下、SGHG)。純粋持株会社であるSGホールディングスは2025年、経済産業省などが選定する「DXグランプリ2025」に選定された。これは陸運業で初の快挙だ。
将来の輸送力不足が懸念される物流業界において、SGHGは社会インフラを担う責務をもとに持続可能な物流の実現に向けて「SGH-DX戦略」を策定し、多様な施策を展開している。
「例えば、物流業の課題である伝票処理の効率化に向けてはAI-OCRを導入しました。配達先住所などの日本語のフルデジタル化も実現し、1カ月当たり8400時間の作業を削減。グループ外向けのサービスである『Biz-AI×OCR』も開発し、提供しています」とSGホールディングスの南部 一貴氏は紹介する。
また、より先駆的な取り組みも進めている。一例が「AI荷積みロボット」だ。形や梱包素材、重さ、取扱要件(ワレモノなど)がばらばらな荷物をAIが判断して積み込む。「ロボット技術とAIを掛け合わせることで、労働力・輸送力不足の解決、輸送品質の向上を目指しています」(南部氏)。
グーグル・クラウド・ジャパンとのパートナーシップに基づき、業務の自動化・省人化を図る次世代物流システムの構築も目指している。佐川急便の集配データを取り込み、最適な配送ルートをAIで導き出す「AIによるラストワンマイル最適化」は、その取り組みの1つだ。「変動する荷物量への対応や配達時間の指定、荷受人の過去の不在データなどを加味した人員リソースの適正化、車両台数の削減などにつなげる狙いです」と南部氏は語る。
持続可能な物流のために、これからもSGHGの挑戦は続く。

――「DXセレクション2025」の準グランプリに選定されたコプロスとヒバラコーポレーションの取り組みをひも解きながら、国のDX推進施策に携わる経済産業省の河﨑さんと共に、その成功のポイントを考察します。まず両社の取り組みについてお聞かせください。
宮﨑 コプロスは山口県下関市に本社を構える土木・建築会社です。社員数は120人程度ですが、特許を取得した「ケコム工法」を強みに全国で事業を展開しています。一方、以前の仕事の進め方はデジタルとは縁遠く、非効率的でした。例えば、日報は手書きで1カ月分まとめてFAXでやり取りしているような状況だったのです。
そこで10年ほど前にデジタル化にかじを切りました。方針は大きく「建設生産プロセスの変革」「データ活用」「人材確保」の3つ。現場におけるICTの積極的な活用や、事務部門も含めた全社のデータ活用促進、さらにSNSなどを活用した情報発信で新卒採用も強化しました。
その結果、現在はベテラン社員もITを使いこなし、BIM/CIMやドローン、3Dプリンターなどを活用した業務が一般化しています。生産性が高まり、社員1人当たりの営業収益は8倍になりました。工事成績ランキングは中国地方で1位になり、国土交通省中国地方整備局による「中国インフラDX表彰」も受賞しました。

河﨑 すばらしい成果ですね。取り組みの成功ポイントについて、ご自身ではどう分析されていますか。
宮﨑 採用を強化したことで、若手が入ってきてくれたことは大きかったと思います。理系の採用は難しいため、文系人材を積極的に採用して社内でIT教育を行いました。ITに明るい若手と業務に精通したベテラン、そして事務系職員が互いに補い合うことで、よいサイクルが回り始めました。
―― 文系人材の教育はどのように行っているのですか。
宮﨑 初めは試行錯誤でしたが、続けるうちに若手がつまずくポイントや乗り越え方が分かってきました。現在はそのナレッジをデータベース化し、AIで簡単に検索・活用できるようにしています。

―― 次に、ヒバラコーポレーションの取り組みについて教えてください。
小田倉 当社は茨城県東海村に本社を構える、工業塗装事業とDXソリューション事業を主力とする会社です。昨今は労働力人口の減少により、人材不足となる企業も増えています。当社も、少ない人員で事業を継続できる体制の構築が必須と考え、1990年から社内エンジニアによるIT技術を利用したシステムを開発してまいりました。
当時はデジタル技術に抵抗感を持つ社員もいて、これを払しょくするため技術的ノウハウのデータベース化や業務の標準化を進めることでIT活用の土台を整備し、DXに取り組みました。現在では「ヒューマンセンタードDX」というコンセプトを掲げています。“人”が中心となって、様々な業務の効率を高める戦略です。
その柱は、工場の体質を強化する「社内DX」と、新たな収益モデルを構築する「DX事業」の2つです。社内DXではシステム開発人員と現場との連携を強化するため生産部門のシステムを自社で構築し、生産管理・工程管理・品質管理などに関わる現場の運用に合わせて継続的に改善。また、データやAI、ロボットを活用した生産の効率化を進め、技能者育成のために熟練の技を継承する「VR塗装シミュレータ」を導入しました。DX事業では表面検査を効率化する「AI表面検査システム」や、AI×ロボットを活用し無人化塗装ラインを実現した「ロボット塗装システム」など省人化へ向けた支援システムの開発・販売を進めています。
今後は業界横断的なプラットフォームを構築し、サプライチェーン全体の最適化や製造業全体のDXにつながるソリューション開発を目指したいと考えています。
河﨑 競争差別化につながる分野を抽出し、内製化しているわけですね。しかも、今後は他社にもメリットを生む仕組みの構築を目指している。まさに理想的なDXの姿だと思います。
―― 当初はデジタル技術に抵抗感を持つ社員もいたとのことですが、現場のデジタル活用を進めるために工夫したことはありますか。
小田倉 デジタル技術の活用で重要なのは「現場が自ら進化するためのDX」という視点です。どこに、どうデジタルを活用するかは全社会議で決めますが、そこに現場の声を吸い上げた開発部門のメンバーにも入ってもらっています。現場の意見をしっかり取り入れることで、現場に受け入れてもらえるようになりました。
―― 両社のお話から、現場を非常に大切にしている印象を受けました。DXは現場起点で考えることが大切なのでしょうか。
小田倉 もちろん大切です。ただ、トップのコミットメントは不可欠だと思います。トップが情報リテラシーを身に付け、指針を示さないと、取り組みは途中で頓挫してしまうでしょう。
宮﨑 同感です。トップが「会社を変えるのだ」という熱意を持ってけん引することが大事です。その上で現場の意見も吸い上げ、実際に仕事が便利になっていることを実感してもらうことが大切だと思います。
―― 河﨑さんはDXの普及促進を図る立場にあります。DXを成功させるために、どのようなアプローチが有効だと考えますか。
河﨑 まずは自社のあるべき姿やパーパスを描き、次に現状とあるべき姿のギャップを分析して課題を洗い出す。そして課題解決の優先順位を決めて、必要なソリューションやテクノロジーを導入していくというステップが大事だと思います。
経済産業省では、取り組みを支援する様々な施策を展開しています。例えば「デジタルガバナンス・コード3.0」は、企業価値を向上させるための実践ポイントをまとめたもの。いわばDX推進の“参考書”のようなものですね。より分かりやすくまとめた「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き」、支援機関向けの「DX支援ガイダンス」、自社のDX度合いを診断する「DX推進指標」なども提供しています。いずれもWebサイトから無料で入手できるので、ぜひ活用していただきたいと思います。
「DX認定」に選定されれば、様々なインセンティブを受けられます。まずDX認定を取得し、その後、コプロスやヒバラコーポレーションのように「DXセレクション」を目指してほしいですね。
―― 最後に、DXに取り組む企業にメッセージをお願いします。
小田倉 日本では100%を求める傾向が強く、AIを使って97%が正解でも、3%間違っていると「使えない」と言う人がいます。でも、その3%を補う手立てを考えれば、大きな成果を手に入れられるのではないでしょうか。テクノロジーには完璧を求めすぎず、どう使えばいいかを考えることが大事だと思います。
宮﨑 DXというと身構えてしまって、自社にできるのかと不安に思う企業もあるでしょう。でも、いきなり完成形を目指す必要はありません。小さな便利を実感できるところから始めて、足りない部分を改善していけば、やがてすばらしい仕組みが実現できるはずです。
河﨑 デジタル技術は近年、指数関数的な勢いで進化しています。様子見のままでは、使いこなす企業との差がどんどん開いてしまいます。できるだけ早く、DXへの第一歩を踏み出すことが肝心です。