鍵を握るのは「シーズとニーズの接続」
デジタルインフラ社会の進展に伴い、日本の研究開発戦略は転換点を迎えている。データセンターや5G、光電融合などを基盤とする次世代インフラの整備が進むなか、重要なのは「シーズ」と「ニーズ」の接続だ。若林氏は次のように指摘する。
「AI・半導体といった技術の種と、産業や社会のニーズを結びつけることにこそ、日本の成長機会が存在する。産総研のような研究機関にはシーズが蓄積されている一方で、ニーズは企業の現場にある。この両者をつなぎ、社会実装まで持っていくことがこれからの鍵だ」
その延長線上にあるのが、「半導体で日本は本当に勝てるのか」という問いである。若林氏は、日本は素材や製造装置といった領域で依然として高い競争力を持つ一方、設計や市場展開、すなわち、逢󠄀坂氏が示す「Time to Design」「Time to Scale」の面で後れをとってきたと分析する。だからこそ、若林氏は「エッジAIやフィジカルAIといった領域に勝ち筋がある」との見方を示す。
この勝ち筋に対し、AIST Solutions(AISol)は具体的な実装基盤で応える。逢󠄀坂氏は、産総研に蓄積された技術を「Sleeping Beauty」と表現し、その価値を社会実装につなぐ仕組みづくりを進めてきた。
その特徴は、設計から製造、さらにはシステム化までを一体で担う垂直統合型のエコシステムだ。つくばのCR(クリーンルーム)では集積化やパッケージングまでを見据えた研究基盤を構築し、千歳では先端リソグラフィ装置を備えた開発体制を整備している。単なる要素技術ではなく、産業が求める「ソリューション」として提供することを目指す。
若林氏は「日本は個々の技術では強い。しかし、それをどう組み合わせて設計し、どう市場に広げていくかという点で課題があった。設計から前工程、後工程、さらには実装や活用までを一体で捉え、産業が本当に使える形で提供していく。この流れ全体をつくることが、日本の競争力を取り戻すために不可欠である」と述べる。AIによる情報通信の高度化、自動運転やEV等の「Time to Design」は、半導体の集積回路によって実現される。AISolは、半導体の設計インフラ、高度集積化、AI計算基盤「ABCI 3.0」等、民間企業が個社では整備することが困難なインフラを提供する。
AISolのオープンイノベーションを支えるAIプラットフォームが「Bibbidi」だ。産総研の技術シーズと企業の課題を結びつけるこの基盤により、従来は属人的だった技術探索を高度化し、異分野の技術を組み合わせたソリューション創出を可能にする。これは、若林氏が指摘した「シーズとニーズの接続」を実装する仕組みそのものと言える。
設計からシステム実装までを統合するエコシステム、そしてシーズとニーズを接続するデジタル基盤——。日本の勝ち筋は、こうした“実装の力”をいかに現実の競争力へと転換できるかにかかっている。



