講評

審査委員講評(敬称略・五十音順)

  • 石崎 徹

    石崎 徹

    専修大学 教授/日本広告学会 会長

     第11回「日経BP Marketing Awards」の審査会に臨んだ。今回の審査は例年通り、評価の高いものから「グランプリ」「金賞」「銀賞」となった。毎回ではあるが、選りすぐりのエントリー作品ばかりで、純広、Web、タイアップ、多メディア展開など多様な展開方法が取られていた。どの作品も企画力、説得力が高く、マーケティング効果を十二分に発揮している。その上、純広中心にデザイン性、インパクトで抜きんでている作品もあった。いつもながら評価するのに悩む作品が多数である。決め手は、いわゆる心に「刺さる」作品がどうかである。

     グランプリに輝いたのは、日経ビジネス電子版+日経クロストレンドのWebタイアップ、大七酒造の「哲学でこそ飯を食え」である。大七酒造と言えば、日本酒好きなら誰でも知っているブランドであろう。その十代目当主であり社長である太田氏が登場し、このブランドの根幹をなす「哲学」を語るというユニークな展開に、思わずコピーに引き込まれてしまう作品である。見事な構図のビジュアルを用いていて、また太田社長のおしゃれ感、格好良さがあふれている。満場一致の評価であった。

     さて、今回のAwardsでは新たな方向性が見られた。それは、同一テーマによる複数のアドバタイザーによる企画、また個人の共同出資による広告出稿である。前者は金賞を受賞した「渋沢栄一の企業DNA」をテーマとする作品で、後者は銀賞を受賞した「すとぷり 莉犬さん お誕生日お祝い応援広告」である。このようなアドバタイザーが限定されない作品を今後どのように扱っていくかという課題が出てきたとともに、新たな展開で活性化が図られるとすれば、楽しみが増えていくだろう。

  • 郡司 晶子

    郡司 晶子

    電通 第4マーケティング局長

     本審査には初めて参加したが、各エントリー作品を通じて、日経BPのアワードならではの多様な企業コミュニケーションの事例に触れ、多くの企業や自治体が日々チャレンジを重ねている姿に心からわくわくした。これは、広告の「コンテンツ力」の強さ、すなわちメッセージ、デザイン、文章の伝える力によるものである。特にグランプリと金賞の2作品は「コンテンツ力」で抜きんでており、グランプリを受賞した大七酒造は、人がAIと共存する時代に人間ならではの思想や姿勢を打ち出した点が評価された。

     一方で、現代のマーケティングでは「コンテンツ力」に加え「届ける力」も求められている。情報過多の中で、企業はマスメディアだけでなくオウンドメディア、SNS、デジタル広告、イベント、店頭、インフルエンサーなど、あらゆる顧客接点を駆使して情報を伝える必要がある。この点で銀賞を受賞したGOや兵神装備は優れた工夫があった。審査の場では、GOのイベント、兵神装備のYouTuberへの拡大について「どこまでが日経BPのメディアと考えるか」という議論もあった。

     さらにマーケティングの視点から見たとき、コミュニケーション施策の成果はリーチやPV、話題性だけでなく、「顧客の行動の促進」も視野に入ってくる。顧客が購入し、再購入し、ロイヤル顧客となり、さらにはファンとなって商品を推奨してくれることが理想である。その最先端を行くのがジェイアール東日本企画がサポートした推し活応援広告の作品だったと思う。これに関しては「広告主は誰なのか」ということが審査会で最後まで議論になった。

     マーケティングの進化に伴い、広告の形も自在に変化している。加速度的に進化する環境下での審査は、非常に難しいと感じた。

  • 小林 弘人

    小林 弘人

    インフォバーン 代表取締役会長CVO

     変わらないもの、変わるもの。

     それは今年の審査会に臨んで浮かんだ言葉である。グランプリに輝いた大七酒造の作品は、圧倒的な高得点を得た。他の作品が劣っていたわけではない。むしろ、惜しくも受賞を逃した作品の中には、かなり読ませて、見せるものもあった。しかし、大七酒造の作品はメッセージの骨太さがストレートに響く。

     投資効率や採算性ばかり声高に叫ばれる現代において、同社のメッセージ「哲学でこそ飯を食え」は、「理念や哲学で飯は食えない」という物の見方に対する逆説であることは明白だ。そして、暗黙のうちにわれわれが共有している思考を前提に、それを挑発するかのようなコピーが心に飛び込む。それは暗黙知やニュアンスを検索できない生成AIにはできない芸当だ。ツールを用いて簡単にコピーライティングやデザイン、その効果測定が創造できる時代に、人間にしかつくれない表現とは何かということを考えさせられた。

     また、金賞に輝いた「渋沢栄一の企業DNA」は一人の歴史的な人物を軸に異なる異業種4社が参画した。それは「理念」への共感という、これもまた人間的な要素を出発点にしている。企画力の勝利と言ってしまえばそれまでだが、過去を知り、それと現代を重ねつつ新たなビジョンを汲み取れなければ、かような共感も生まれない。

     そして、有志が資金を持ち寄って出稿する形式でジェイアール東日本企画が取りまとめた「すとぷり 莉犬さん お誕生日お祝い応援広告」は、出稿者の民主化を体現した新たな手法として注目したい。兵神装備の「イチケンMeets 兵神装備」はYouTuberを起用し、読者に近しい視座から製品紹介を行う。それはプロがクリエイティブを放棄したのではなく、デザインやコピーなど、すべてが戦略的であるがゆえ、新たな共創を示している。

     私見ながら、今回の受賞作品は表現における「変わらないもの」と、広告という仕組みにおける「変わるもの」の両面が際立った感がある。

  • 酒井 光雄

    酒井 光雄

    マーケティングコンサルタント

     各界で活躍するビジネスパーソンを読者に持つ日経BP。企業はこの優位性のあるメディア特性を活かし、自社の価値や商品情報を届けるために知恵を使い、最善のコミュニケーションを試みる。

     今回金賞に選出された「渋沢栄一の企業DNA」は、道徳経済合一説を唱えた渋沢の理念を踏まえ、現在も公益を追求する東京商工会議所、東洋紡、日本取引所グループ、みずほフィナンシャルグループという異業種4企業によるコミュニケーションだ。参画した企業それぞれが、これまでどのように時代をつくり、そしてこれからの時代にいかに挑んでいくかについて、各社の根幹を担うDNAを語っている。

     異業種の企業と組織が渋沢の理念の下に各社が事業を推進し、混迷を極める現在にあってもその理念は揺らぐことなく取り組んでいる姿が、読み手に伝わってくる。守るべき理念は共有しながら、異なるフィールドで活躍する企業が集う拠り所を提供し、情報発信の場を創造したことは、これから日経BPが目指す新たなコミュニケーションの方向性を示唆している。

     IT企業が台頭する中、広告で伝えたい要素が多すぎて、読み手に意図した狙いがすぐには届かないケースがある。そこに企業哲学を前面に打ち出し、自社の想いを明確に伝えたのが、グランプリを受賞した大七酒造だ。

     「渋沢栄一の企業DNA」では渋沢の理念を根幹にしつつ未来に向けて事業を推進する各社の姿と、かたや自社の哲学を貫き「伝統的酒造り」が世界文化遺産に登録されるまでに昇華した大七酒造の姿は、企業が持つべき基本的考え方がいかに重要かを気づかせてくれる。

     企業の命運をその手に握るビジネスリーダーたちは、組織を司る本質を理解し、またそれを見抜く眼力を備えている。そんな人たちに理念や哲学の重要性を再認識させる機会を提供してくれたのが、このふたつの受賞作品だ。

  • 瀧川 千智

    瀧川 千智

    株式会社博報堂 コンテンツクリエイティブ局 企画クリエイティブ2部部長

     日経BPの方が企画の発起人の「渋沢栄一の企業DNA」は、その情熱ある仕事っぷりに、広告会社の雑誌局で10年間働いていた経験をふまえてグッときてしまった。媒体社企画というと「安くします」や「SNS施策をつけます」が多い中、これは時流を捉えたテーマで、各社に自ら声をかけていって、読者がいま読みたい記事をつくるという、本質を捉えたタイアップ企画でした。

     「イチケンMeets兵神装備」の兵神装備は、毎年熱意あるエントリーの常連。今年はYouTuberの動画でワクワクさせるのはさすがだが、YouTuberタイアップだけなら出版社はいらない。出版社としての知見を活かせたからこその深堀りと表現。マニアックさが、日経BPと兵神装備とYouTuberの本質であり“らしさ”を感じる。雑誌もポップなデザインで新境地開拓。

     時流とあえて逆行したのが大七酒造「哲学でこそ飯を食え」。テクノロジーでなんでもできる時代に、ヒトで勝負する潔さ。文章量も多すぎず(タイアップってこれが難しい!)、小説のような読み応えで、紙でもWebでも読みやすい、つい読み進めてしまうクオリティーは、制作陣の真骨頂であり、読者の求める価値そのもの。またこの企画がブランディングであり、パーパスであり、コピーワークもあり、こりゃ広告会社がいらなくなっちゃうのでは!? と、広告会社の人間がうなってしまいました。

  • 田中 知恵

    田中 知恵

    明治学院大学 教授

     大七酒造の作品は、世代継承性(Generativity)という概念を連想させる。世代継承性は中年期の心理社会的発達課題として、発達心理学者エリクソンにより提唱された。自身に対する固執からの解放とともに、現時点の努力による次世代への継続という信念を含む概念である。それは人が自分の世代や時代の役割を認識すること、すなわち大七酒造の作品で語られる「世代間分業」とも通ずるものであろう。「哲学」あってこそ、企業経営が成り立つものであると再認識した。そうした意味では、持続的成長を根幹とする渋沢栄一の理念と、それを具現化する取り組みを紹介した広告特集も、日経ビジネス読者の関心を集めたと思う。読者層を意識し、企画趣旨に賛同した各企業のターゲティングとともに、本特集を企画した広告担当の着想も評価したい。

     表3に固定され隔月で掲載された日本アキュライドの作品は、雑誌広告、純広告、シリーズ広告という要素を備えている。デジタルマーケティングなどが主流となっている現在においては、伝統的といわれるスタイルなのかもしれない。しかし、これらの要素にはコピーやビジュアルを通して、受け手に対しメッセージを直観的に理解させられるという強さがある。本広告はそうした要素の良いところをすべて備えた秀逸な作品であった。

     なお、GOによるSafety Driving Awardは、交通事故削減の取り組みに光を当てる企画であり、2022年より行われてきた。本年度は初めて日経ビジネスが主催となり実施されたとのこと。メディアとの共創により、交通事故削減に向けた同社の取り組みを、より社会に認知させることに成功した。

  • 裵 英洙

    裵 英洙

    慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科/経営管理研究科 特任教授 慶應義塾大学 医学部 特任教授

     第11回「日経BP Marketing Awards」は、情報が氾濫しフェイクニュースも跋扈(ばっこ)する現代において、「ホンモノを見極める」ことの意義を改めて示す場となった。作品を丹念に見渡すと、根底にあるのは企業や商品が持つ本質を深く追求する姿勢である。一見、派手な装飾や華々しい演出ではなく、地に足を着けたコンセプトやストーリーが受け手に確かな信頼感をもたらし、それこそがホンモノが持つ説得力として静かに心に響き渡るのだと感じた。

     加えて、クラウドファンディング的な手法で広告主を募り、共感によって支援を獲得するという新しいスタイルが登場し、“広告主”の存在意義や役割を再定義する必要性を突きつけた点は注目に値する。共感を軸に広告資金を集めるアプローチからは、単なるスポンサーではなく、志や世界観を共有する“仲間”を募る共感創造プロセスとしての広告が見えてきた。このことは、送り手と受け手の関係を大きく変える可能性を秘めており、広告とは誰が何を発信し、誰がどう受け取るのか――その構造全体を捉え直すきっかけにもなったのではないだろうか。

     「日経BP Marketing Awards」は常に世相を映す鏡でもある。今回は、情報が加速度的に増える中でいかに信頼に足る価値を紡ぐかが問われ、次なる時代のマーケティングのあり方に新風を吹き込む受賞作が多かったように思う。混沌とした状況だからこそ、先鋭的な技術や斬新な手法だけでなく、“ホンモノ”を届けるという当たり前のようでいて難しい使命を背負い、かつ多様な思考を許容する広告の姿が、人々の琴線に深く触れるのではないだろうか。ターゲットや社会との共創を前提に、より一層開かれたマーケティングへと進化していく歩みを強く感じさせる第11回であった。

  • 本荘 修二

    本荘 修二

    経営コンサルタント/多摩大学(MBA)客員教授

     毎回、本審査会はフレッシュな論点が表れるため、楽しみにしている。今回は、広告の主語と、あり方の変化について、考えさせられた。

     渋沢栄一/新一万円札をテーマに数社が集う作品、ファン約30人がお金を出した推し活、ものづくりYouTuberとのコラボレーション、そして賞をベースにしたもの。いずれも従来のスタンダード形ではない。

     推し活作品については、広告主とは? KPI(重要業績評価指標)は? など、そもそもの成り立ちを改めて考えたくなる興味深い実験でもある。チャレンジングな企画を推進するジェイアール東日本企画の起業家精神に期待したい。そして、ファンの方々、推される2.5次元アイドルグループの関係性が発展してこそ、こうしたマーケティング施策はポテンシャルを開花させるのであり、これからが楽しみだ。

     といっても、従来型でコンテンツ/クリエイティブで訴求するという、いわば王道を極めるものは、やはり強い。

     大七酒造の作品は、理屈を超えて、感じさせてくれるコンテンツ・パワーがあり、かつユニークな良さがあり、1位に推した。日本アキュライドは、そういったパワーを感じる、ユニークというよりいわば教科書に載せていいような作品だ。

     受け手を意識した真剣勝負、あるいはイノベーティブ、こうした2つの間に挟まれた、アイデンティティが強くない作品の中には、疑問を持つこともある。例えば、真面目につくってあっても、工夫に乏しく大量のテキストを読ませる作品は、受け手にとってどうか再考してもよいのではなかろうか。

     己に対してもだが、AIの進歩などもあり情報の量・質が進展する中で、どうするのか、よくよく考えなければならない時代になってきた感がある。

  • 水島 久光

    水島 久光

    東海大学 教授

     大七酒造にはしてやられた。「哲学でこそ飯を食え」というキャッチは、「メディア哲学」を専門にしてきた立場からすれば、少々ドキッとさせられる言葉だ。しかし読み込むほどに、それは単なる挑発ではないことが伝わってきた。情報技術が社会を覆い切ったかのように見えるこの時代だからこそ、アクチュアルな時空間にしっかり向き合い、思考を諦めない―硬派ゆえにこのメッセージは、多くの経済人に響くものだろう。

     東京商工会議所、東洋紡、日本取引所グループ、みずほフィナンシャルグループの「渋沢」企画についても、同様の印象を持った。新札発行年の時宜を得たものだが、企業経営の本質たる「思想」を問う大型企画としての仕上がりは見事。逆に、ミクロなメタファーを用いた日本アキュライドの「違和感なく溶け込む、確かな存在。」シリーズは、企業「ポリシー」をピンポイントで表現する完成度が光った。その意味ではGOの「安全を築く」という企業「理念」の発信活動にも、力強さを感じた。

     これら「哲学」「思想」「ポリシー」「理念」は、様々に社会の枠組みが揺るがされ、未来が見通しにくくなった現代に、立ち戻るべき経営の原点を示す。ここで育まれる共感は、クライアントと媒体社という関係を超え、課題を共有する読者群を巻き込んだプロジェクト・マインドがあってこそのものだ――「広告賞」の看板を下ろして十余年。ようやく「Marketing Award」の目標に近づいてきたとの感慨は大きい。

     そしてMarketingそのものも今日、舞台をソーシャルに移し、大きく変容している。ついに「推し広告」が日経BPの媒体にも登場! の衝撃――ジェイアール東日本がまとめた「すとぷり」企画も、人気「ものづくりYouTuber」を起用した兵神装備も、これからの媒体戦略に一石を投じるものである。激動の2024年を体感した審査会であった。

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