ウソじゃない。極寒の地・北海道で完熟マンゴーを生産

新しい価値を生み出した十勝・音更町の挑戦 ノラワークスジャパン 中川裕之 代表取締役

自然のエネルギーを有効利用

山のように雪を積んで上から木の皮をかけておくと暑い時期にも溶けずに残る
山のように雪を積んで上から木の皮をかけておくと暑い時期にも溶けずに残る

中川さんは以前石油販売のビジネスをされていました。石油を扱っていた方がどうして雪と温泉のような自然エネルギーや、廃油のような再生エネルギーを使おうと考えたのですか?

中川 以前やっていた事業は石油販売ですが、石油が高騰したときに、いずれこれに頼らないようにしないといけない、再生エネルギーを利用していかないといけないと考えていました。このマンゴー栽培でも、石油系の燃料は一切使わないと最初から決めていました。コストはもちろん、環境的にも石油系を使ったのでは意味がないと思ったんです。主力の暖房エネルギーにしようと思ったのは温泉です。十勝の日照時間の長さも大きな強みでした。そのうえで、廃油でハウス内を暖める。この地域には以前からある、食用油の廃油を集めてリサイクル燃料として使う仕組みを活用しています。

 冷やすほうは、いろいろ頭をひねり、雪を使ったらいいんじゃないかというところに行き着きました。夏まで貯蔵する仕組みについては、北海道の沼田町から知恵を借りて実現。それまでは寒さや雪に対して敵対心のようなものがあったんですが、雪は大きなエネルギーだと思うようになりました。

賛同者が集まり、ノラワークス始動!

資金の工面はどうしたのですか?

中川 新しい取り組みも、自分だけでやったのでは、自分の商売にしかなりません。いろいろな人が関われば地域のためになると思い、出資を募りました。1人当たりの出資金は50万円。もしダメだったときには、出資分はなくなってもよいということに賛同してくれる人たちに出してもらいました。永倉さんも「俺も出す」と出資していただき、11人の出資者と法人1社が集まって、事業がスタートしました。

 まず小さなハウスを2010年11月に完成させ、そこに10本の苗木を植えました。そうして、最初のマンゴーができたのが2011年5月末。永倉さんとの出会いから1年ちょっとで最初のマンゴーができたわけです。翌6月の頭には試食会を開きました。それまでなかなか信じてくれなかった人たちも、そこで“できる”ということを納得してもらえた瞬間です。

 また、北海道が進めている「一村一炭素おとし」事業※に申請して、認められ3000万円の補助金を受けることができました。それで作ったのが現在のハウスです。投資額は5000万円。不足分は借り入れをしました。

※北海道の市町村と地域の企業、団体、NPOなどが連携して行う省エネ・新エネ事業による地域活性化の取り組みに対しして、北海道が行う支援事業。平成24年度(2012年度)からは「一村一エネ」事業という名称に変更

ハウス3棟の体制で規模を拡大

マンゴーはアーウィン種と言われるもので、剪定(せんてい)のやり方によってどのくらいの数の実をつけるかを管理できる
マンゴーはアーウィン種と言われるもので、剪定(せんてい)のやり方によってどのくらいの数の実をつけるかを管理できる

現在のハウスではどのくらいの数のマンゴーが採れるのですか?

中川 今は2300個くらい、採算は取れていません。このハウスは幅12メートル、奥行きが63メートルあって、ここに植えているマンゴーの木は250本あります。通常ではこの広さだと50本くらいに制限して育てるのですが、今は密に植えています。今年の5月に新しいハウスを2棟作り始めるので、完成したらそこに100本ずつ苗木を移します。こうやってマンゴーの木がもっと大きくなってくると、今の10倍以上の収穫量になるはず。3つのハウスで作り始めるのは、2019年を予定しています。段階的に増やして5年後の2023年には2万5000~3万個体制にしたいと考えています。こうなると、地域のビジネスモデルにするという当初の目標が見えてきます。

「白銀の太陽」は1個5万円の高値が付くこともありますが、今後はその価値を高めて行く方向ですか?

 5万円の値段が付くものをたくさん作るのは、生産者としては常に望んでいます。どうやって、大きな、出来のいいものを作れるか、毎日悪戦苦闘しています。同時に数を増やし、その先はマンゴー以外にも展開していくつもりです。現状の売上額は約600万円で、採算が取れる金額ではありません。高価格のものをたくさん作れるようにして量も増やし、2023年には1億円にすることを目指しています。収支がトントンになるのは2022年くらいでしょうか。そこまで行けば借入金を返しながら、出た収益を次の展開に回せるようになります。

十勝に新しい市場と雇用を

最終的な目標はどういうところにありますか?

 この事業の目的は地域に貢献するビジネスモデルを作ること。正直言って自身のメリットはありません。ただ、僕にはほかに貸し倉庫ビジネスがあって、幸いそちらにあまり手間がかからない。ノラワークスの仕事は無報酬で、個人的にはかなり資金も入れていて家族から怒られています(笑)。最近はいろんな意味で注目されてきて、資金面でも銀行主導になってきており、やっと家族にも理解してもらえるようになりました。

 本来は何もない冬の時期にマンゴーがたくさんできるようになれば、十勝にマンゴーを核とした新しい市場が生まれてきます。十勝は豆も小麦もテンサイも日本一。牛乳もあるし、塩もできるようになってきた。そこにフルーツが加われば、十勝産のものだけで新しいスイーツが作れる。十勝の産業構造そのものが、ガラリと変わる可能性を思い描いています。マンゴーが高値で売れ、規格外品も加工用にできれば、市場が広がり、雇用にも結び付きます。最終的には、最近どんどん薄れている地域コミュニティーの再構築にも結び付くでしょう。

 この仕組みは、マンゴーだけで終わらせないつもりです。ほかの果物にも応用できるはずです。例えばパパイアやパイナップル、ライチなどですね。ノラワークスが、農業試験場のような役割になればと思っています。

 そうして最終的には「カスケード農業」をやりたい。温泉を何段階かで使い回していく農業です。今は40度の温泉を使ってハウスの地面を暖めていますが、熱を使った後に32度に温度が下がった温泉水は捨てています。これを捨てずに、リサイクルして次の作物を作る熱として利用したい。使い回しは3段階か4段階。最終段では寒さに強い、縮みほうれん草のような葉物野菜を念頭に置いています。こうすれば、コストをかけないで新たなものを作っていける。エネルギーを有効活用する、北海道らしい作り方になると思っています。いずれは、「ノラワークス=カスケード農場」と言われるようになりたいですね。