「食」と「農」のオールラウンドプレイヤーを育てる

今年開学の新潟食料農業大学・渡辺好明学長に聞く

2018年4月に開学した、新潟食料農業大学。その名の通り、「食」と「農」の業界にとって即戦力となる人材輩出を目的とする新しい大学だ。農業生産の現場から食卓に至るフードチェーンの全体像を見渡す力と、食と農の専門知識を併せ持つ人材を育てる。これまでにない新しい人材が得られるとして、農業界、食品産業界からの期待は大きい。かつて農林水産省事務次官として農林水産行政を指揮した渡辺好明学長に、目指すべき人材育成のあり方と、実学を中心とした新しい教育スタイル、そして今後の方向性などを聞いた。
新潟食料農業大学の胎内キャンパス
新潟県胎内市にある新潟食料農業大学の胎内キャンパス。実学を重視する方針で、キャンパスは実験棟や研究棟が建ち並ぶ(写真上:新潟食料農業大学提供、写真下:高山和良)

農と食に特化したユニークな大学が開学したとして注目を集めていますが、新潟食料農業大学では、今後、どのような人材を育てていこうとされているのでしょうか?

渡辺学長(以下、渡辺) いくつかありますが、フードチェーン全体を切れ目なく見渡すことができるのが第一で、消費者重視のマーケットインの発想ができる人というのが第二です。そして、食と農についてのサイエンス、テクノロジー、ビジネスを総合的に身に付けた、総合職人とでも言うべき人材の育成を目指しています。

新潟食料農業大学 渡辺好明学長
新潟食料農業大学 渡辺好明学長。1968年農林省入省、2001年水産庁長官、2002年に農林水産事務次官、2004年には内閣総理大臣補佐官として郵政民営化を担当。2018年4月に新潟食料農業大学学長就任。「新潟の歴史と暮らしをよく知れば棚田は大変大事なんだとか、農地をきちんと保存することが地域社会を維持することにつながるとか、そういうことがわかる。地域の高齢者の方を回って1つのオーラルヒストリーをつくりたい。そこまでいけば他とはちょっと違った大学だということになる」と語る。「暮らしと地域社会に役立たないものは学問ではない」という理念を持つに至ったのは、高校時代の恩師である歴史学者、網野善彦氏との水産庁時代の偶然の再会が大きかったと振り返る。(写真:高山和良)

 食べ物、つまり農産物は生産したら最後は消費するところまでいく。そして、消費されたものはまた農場に戻り作物のために貢献する。こうした切れ目のないかたちで循環させていく一連の流れがフードチェーンですが、これからの時代はフードチェーンの全体を見渡せる人材が不可欠です。

 また、マーケットインについては、消費者が何を求めどれだけお金を投じているかということをきちんと意識し、そこから発想する必要があります。農産物を産み出す側だけのプロダクトアウトの考え方だけではいけません。

 農業生産だけの国内市場は9兆円ほどですが、消費市場で考えると100兆円規模になります。9兆円の生産市場と100兆円の消費市場の間に付加価値を生み出せるところがたくさんあるわけです。そして、付加価値を生み出している人たちは市場を意識している。求められていないものを売ってもしょうがない。消費者が何を求めているかマーケットに鋭敏になろうということです。自分のつくっているものはみんないいと言いますが、それは間違いではないか、ということです。

農業・食料関連産業の国内生産額の構成
農業・食料関連産業の国内生産額は116兆円で全経済活動の約1割になる。農林水産省が2018年4月10日に公表した「平成28年 農業・食料関連産業の経済計算(概算)」より。

 つくる人が売ることを意識する、売る人がつくることを意識する、あるいは加工することを意識することが必要です。サイエンスとテクノロジーとビジネスはある意味、三位一体です。つくる現場を知っている人、加工する現場を知っている人がビジネスをする時代です。

サイエンス、テクノロジー、ビジネス
新潟食料農業大学ではサイエンス、テクノロジー、ビジネスを一体的に教える

 農家で言えば、そうしたことがわかった上で、会計、複式簿記のことまでわからなければいけない。産業として農業をやるならそうしたことにも長けている必要があります。

 それともう一つ言うならば、大学である以上はどういう学問を教えるべきかが大事です。私の理念は、暮らしと地域社会に役立たないものは学問ではないということです。

 例えば、アメリカの場合なら、農業技術の伝播や普及は大学が担っています。エデュケーションである教育と、リサーチである研究、そしてそれを広げていくエクステンション、つまり普及というものが三位一体となっています。ところが日本の場合は、技術の普及は大学ではなく県の事業になっています。

 新潟食料農業大学では、学生たちは教育を受け、研究する。そして、卒業後に自分で農業や食品加工の職業に就きますが、何か困ったことがあったりしたら大学に聞きに来て必要なものを得て帰る。ここを、そうした地域と暮らしに役立つ実学を学べる場にしたいと考えています。