2019.01.30
文=高山和良
「農業データ連携基盤」、通称WAGRI(わぐり)について伺います。どんな組織で何を目指しているのか、ご存じない方も多いので少しわかりやすくご紹介していただけたらと思います。
神成教授(以下、神成):正直申し上げて、WAGRIの立ち上げは、いろいろなひとのお力を借りて、一挙に進めてきたこともあり、まだまだ認知度は不足していると実感しています。今までも普及啓発に務めてきたのですが、引き続き、今回のような機会があればご説明を申し上げていきたいと思います。
最近、自動運転ができる農機や、圃場ごとにスマートホンで管理するアプリのように、いろいろな農業用システムの開発が進み、それぞれのシステムごとに膨大なデータが蓄積されています。しかし、これらのシステム間の連携やデータの標準化がされておらず、相互に利用することができません。これを可能にするものが農業データ連携基盤、すなわちWAGRIです。
WAGRIが出来ると、システムごとに点在していたデータは連携され、使いやすい形で農機メーカーや農業システムのベンダーに提供されます。そして、これらの企業や団体はデータを利用した先進的なサービスを農業生産者に対して展開できるようになる。農業生産者はこうしたサービスを利用することで、自分たちの生産性の向上や経営の改善に挑戦できるわけです。そして、そうなることが日本の農業の発展につながる。データ連携によって日本の農業を新しいステージに到達させるものがWAGRIであり、その構築は日本の農業にとって急務と言えます。
WAGRI構築のために、また、多くの分野から参画していただくために作られた組織が「農業データ連携基盤協議会」、つまりWAGRI協議会です。一昨年(2017年)の8月に設立されました。生産現場での活用に加えて、流通から消費までこの連携の輪を広げようとしています。
農業の世界ではデータの連携は遅れていたのですか?
神成: あらゆる産業でデータを使うことが当たり前になっている時代に入ってきておりますが、農業分野での取り組みは遅れていました。それが変わってきたのが、ここ5年ほどです。スマート農業という言葉が出てきて、多くの取り組みが同時並行的に進められてきました。
例えば農機メーカーは、各社が独自にシステム投資をしてきました。この時点で、お互いにつないだりすることは全く考えていません。今までも各社は独自に開発をしてきたわけで、データを取り扱う場合も従来の考え方を踏襲してきたのです。そうしますと、当然のことながら、ある農機メーカーの農機を使う場合はもちろんそのメーカーのデータは使えますが、もう1台別のメーカーの農機を使った場合には、そのデータを取り扱うことはできません。
身近な例で言うと、現在、携帯電話には複数のキャリアがありますが、どのキャリアの電話を使っても、お互いに通話することは可能です。ショートメールなどもキャリアの壁を越えて使うことができるのですが、農機の場合にはそれができなかったということです。
ただし、この状況は農業だけに生じているわけではありません。多くの産業分野において、各社は独自の取り組みを実施し、競合しています。どのように連携するかという点は、企業戦略の根幹です。便利になるからお互いがつなげばよいという単純な話ではないのです。
その点を理解しつつ、個々の農家の立場を踏まえると、やはり、データはつなげたほうがよい。酪農をしながら土地利用型の農業をしたり、施設栽培もしていたり、それぞれの土地で様々な営みが組み合わされて実施されています。それぞれに必要な農機やシステムがあり、それらを提供する複数のメーカーやベンダーがあります。
これらが全くバラバラに存在しているよりも、やはり、連携させた方が農家側に取っては便利なのです。また、企業側においても、どの企業においても、スマート農業に取り組む上で必要不可欠なデータは存在します。そのようなデータを個々に整備するのは無駄ではないでしょうか。
誰もが使うようなデータを共通で整備すれば、投資費用は低減されます。このような共通したデータを提供し、さらに今まで申し上げてきたような組織間の連携を取り持つ存在がWAGRIです。連携のハブとなる存在です。個々の企業が直接的に連携しようとすると、企業数の増加に伴い、接続先も増やさなければなりません。それには莫大な手間がかかります。その点も解消されるのです。