「エロうま野菜」生産者が考える農業界の新しい人づくり

理想は小さくて強い農業 久松農園 久松達央代表取締役

久松農園を経営する久松達央氏は、農薬を使わない有機農法で野菜本来の美味しさを追求しながら多品種を栽培し、SNSやクラウドを駆使した直販スタイルで業界の注目を集める気鋭の農業家だ。また、20年程前に大企業勤務から身一つで農業界に転身した先駆者の一人で、自身の体験を基にした『キレイゴトぬきの農業論』『小さくて強い農業をつくる』などの著作を中心に、メッセージを発信してきた業界きっての論客でもある。そんな久松氏が注力するのが、これからの農業界に必要な人材づくりだ。自論でもある「小さくて強い農業」をつくるためにはどんな人材育成をすべきか、熱く語ってもらった。

久松 達央(ひさまつ たつおう)氏
株式会社久松農園 代表取締役。1994年慶応義塾大学経済学部を卒業。帝人で輸出営業に従事した後、1999年に農業界に身を投じた。有機農法で育てた野菜を直接販売する経営スタイルを取っている。生産している品種は130品種ほどにもなるという。農園で栽培・販売する野菜は「またすぐにでも食べたいと思わせるワイルドな味」を標榜し、久松さんはそれを「エロうまい」と表現する(写真:高山 和良)

まず、久松さんご自身の有機農業と農業ビジネスについて教えてください。

久松 僕自身は小商いと言っていますが、茨城県土浦市にある6ヘクタールほどの農地で、130品種ほどの野菜を作りながら、採れたての鮮度と野菜本来の持つワイルドな味を特長にして直接お客様に販売しています。レストランや飲食店へのB to Bと、一般の方へのB to Cですね。

個人が経営する農園としてはある程度の売上規模になっているとうかがっています。今後どのような展開を目指しているのでしょう?

久松 戦略的にやったわけではないのですが、多品目で始めたせいで、お客さまのニーズごとに野菜を収穫後すぐに送っています。収穫後にはピッキングという包装の作業が必要となるのですが、例えば、このお客さんにはほうれん草5把、小松菜7把というようにパッケージングして発送するため、採れたての野菜をすぐに送れます。

 いまではこういう形態がだいぶ増えて、これから参入しようとしている人も多い。ただ、このやり方は、難しい局面にあります。家族で食べていくなら別ですけれど、ある程度の規模を追いかけるとなると難しい。経営を今以上のレベルにするならもっと人を雇用しないとできないんです。

 僕自身は、野菜の鮮度とピッキングを強みにして、次に何ができるかが、ビジネスとしては大事だとは思っているんですけれども、どうしようか悩んでいる。あまり大きくしてもしょうがないなと……。たとえばハウスを建てて、得意とする作物に特化していくという方向もありますが、そういう方向はビジネスからいっても栽培技術からいっても僕にとっては新しいステージになる。それよりは、人材育成に力を入れていきたいと思っています。

葉物野菜は、収穫後、人の手が触れるたびに傷んでいく。生産者から消費者の手元に至るまでの間に何人もが触ることで、「品質は落ちていく」(久松さん)のだという(写真:高山 和良)

ミドルマネジメントの人材が必要

人材育成というのはどういうものですか?

久松 いま、日本の農業は全体として集約化に向かっています。いよいよ資本とテクノロジーが入ってきている。そうなるとやはり産業化していくわけです。そのとき、どの産業もかつてたどったように、個人の零細経営からチームになる。そうなるとやはり人の問題に行き着きます。

 例えば、野菜農家では、売上が1000万円以上の経営体は販売農家全体の9%くらいしかなくて、全国で12、13万戸と言われています。年間の売上規模が3000万円から5000万円となっていくと、家族経営型から雇用型になっていきます。経営側よりも被雇用者の方が多くなる。

 そのとき決定的に重要になるのがミドルマネジャーです。普通の会社で言うところの能力のある課長みたいな人が必要なのですが、これまでの農業界ではそういう人を育てていません。

 でも、次々と人が入れ替わっていく中で現場の技術を教え、社長との間に立ってミドルマネジメントをする人がいないと、これからの農業経営は成り立たない。社長が全部一人でやっていくのは無理がある。

 それができないからなかなか雇用型に移れず、いつまでたっても一人親方の家族経営のままでやらざるを得ない。外国人実習生を受け入れるところもありますが、一時的に戦力にはなっても、マネジメントを任せられるまでには至らず、経営拡大はできないまま。結局、一人親方から脱却できないのです。ミドルマネジャーを育てる環境を作っていければ、いろいろな人材が農業に参入できるようになる。採用できる人の数と幅が桁違いに大きくなってきます。

 うちにも、別の農業法人から転職してきたミドルマネジメント層がいます。こういう人たちが流動化していくことによって、業界全体で管理者が増え、そういった雇用が業界全体として定着していくでしょう。

 これは、私のところだけでどうなるものでもありませんが、横串でやっていけるような形を将来像としては描けています。年齢的にもいま47歳なので、仮にあと25年間仕事をするとして、そこに力を割きたいと思っています。

ミドルマネジャーの育成という考えに対する同業の方からの反応はいかがですか?

久松 それがなかなか理解されない。家族経営で農業をやってきた人は、コストをいかに外に出さないように考えますから。外から人を入れると、一時的に家族の取り分は少なくなります。でも、その先にすごく面白いものがある。いつまでも個人から個人への事業継承だけでやっていたら、せっかくの技術も継承されません。

 ファミリービジネスとしての農業がなくなるとは思ってはいません。ですが、外部の力を必要とする農業者に対して、応援やサポートが求められる局面なのは間違いない。同業者と知見を共有したり一緒に考えたりすることが、農場経営者としての僕の一番の関心事です。

久松さんの2冊の著書。どちらも、農業界に身を投じるまでの経緯からはじまり、なぜ有機農業に取り組むのかという久松さんの熱い思いが込められている(写真:高山 和良)