業務用米は日本の米づくりに地殻変動を起こすのか?

良食味多収米「つきあかり」シフトを急ピッチで進める JAえちご上越・石山忠雄常務理事に聞く

日本の米づくりの現場に地殻変動が起こっている。ニーズの中心が家庭用から業務用へとシフトしようとしているのだ。これまで米といえば、家庭内消費をターゲットとした銘柄米やブランド米を指すものだった。しかし、最近、米づくりの現場を動かすドライビングフォースが中食・外食向けの業務用米になりつつある。そうした動きの中心にいるのが「えちご上越農業協同組合」(JAえちご上越)だ。上越市、妙高市を管内とするこのJAでは「つきあかり」という良食味多収品種を中心に中食・外食向けの米づくりの体制構築を急ピッチで進めている。同JAで、米の生産戦略を牽引してきた常務理事の石山忠雄氏に話を聞いた。
すくすく育つ「つきあかり」の稲穂(写真提供:JAえちご上越)

JAえちご上越では、業務用のお米として注目されている良食味多収米の「つきあかり」の生産を急速に拡大されていますが、どのくらい伸びているのでしょうか?

石山:平成28(2016)年に約2ヘクタールで始めた「つきあかり」の栽培面積は、平成29(2017)年の栽培面積が約75ヘクタールになり、1年後の平成30(2018)年には671ヘクタールと10倍近くにも達しました。私も50年あまり農業に携わっていますが、1年で面積が10倍に拡大するというのは、記憶にありません。どの地域でもあまりなかったことだと思っています。

 平成31(令和元=2019)年は1000ヘクタールという目標を立てました。結果は947ヘクタールと残念ながらちょっと切りましたが、ほぼ目標に近いところまで来たと考えています。生産量も2017年の5462俵(約328トン)から平成30年が約5万2000俵(約3120トン)、平成31(令和元)年は7万1192俵(約4272トン)と伸びています。

えちご上越農業協同組合(JAえちご上越)のコメ戦略を推進する石山忠雄常務理事。自らも約45ヘクタールの経営を担う稲作農家でもある(写真:高山和良)
JAえちご上越における「つきあかり」の栽培面積と生産者数の伸び。平成29年から平成30年にかけて一気に10倍近くになり、昨年もさらに拡大した(提供:JAえちご上越)

大規模化が進み、作期分散が不可欠に

JAえちご上越における米づくりの現状と、その中でなぜ「つきあかり」が必要になったのかを教えてください。

石山:JAえちご上越は販売高が約111億円で、その9割以上、94億円ほどがお米を占めます。まさに米どころ新潟県に特徴的な、お米に特化したJAです。新潟県には1000を超える生産法人がありますが、そのうちの2割近い組織が私どもの地域にあることが大きな特徴です。さらに栽培面積が100ヘクタールを超えている法人が7つあります。最大で160ヘクタールです。おそらくこの2~3年のうちには200ヘクタールを超える法人も現れるような状況です。

JAえちご上越の販売額の9割以上がコメ。(「JAえちご上越事業紹介」のデータをもとに作成)

農家の高齢化などで、水田の集約化がどんどん進んでいるわけですね。それが、「つきあかり」の生産拡大にどうつながっているのでしょうか?

石山:どうしても規模が大きくなると品種としてコシヒカリだけを作っていては作業的に追いつかなくなります。必然的に作業分散、作期分散をしなければならなくなるわけです。また、産地としてはいくらコシヒカリの値段が高いからといって、いつまでもそれに頼っているわけには参りません。

 大規模生産者が作業を分散するなら、中手(なかて)のコシヒカリを中心にその前の早生(わせ)品種と後の晩生(おくて)の品種。それと主食米以外の米も含めて、需要に応じたお米を作らなくてはなりません。まずはコシヒカリ偏重をなんとか回避をしなくてはということで、「つきあかり」の前に手掛けたのが、うちオリジナルの「みずほの輝き」という晩生の品種です。

 早生(わせ)の方は、新潟の代表的な早生品種として「こしいぶき」という米があるわけですが、これについては、収量的に目標まで到達できていないということと、やはりもう少し早い品種で作業を分散するものが必要だったということで、農研機構(同機構中央農業研究センター北陸研究拠点)と共同開発して出来上がった品種が「つきあかり」になります。

 早生の品種導入に先立って、当時「北陸255号」と呼ばれていた「つきあかり」と、北陸202号と呼ばれていた「夢の舞」という品種、さらに別の北陸227号という3品種のうち、この地域に合ったものがどれかを検討した結果、「つきあかり」を選定しました。

 それをどうやって普及、拡大するかということで平成28年に適応性の検討に入りました。生育状況、収量、品質などをチェックし、一方では作ったものが顧客に本当に使っていただけるものなのかというご評価も賜ったというのがスタートです。その年は約2ヘクタール作りました。

 それで一定の評価を得ながら、次に種籾(以下、種)をどう作るかということを含めて生産拡大をはかっていきました。地域に合っているかどうか。私どもの地域は標高0メートル地帯の平場から700メートルまでの中山間地域までありますので、幅広い試験実証をしながら、平成28年に約60ヘクタール分の種を準備しました。

コシヒカリ偏重から、作期分散のコメづくりへ。中生(なかて)のコシヒカリを中心に、早生(わせ)と晩生(おくて)の品種を導入して作期分散を図った(資料提供:JAえちご上越)