輸出は農作物だけではない。次は農業のインフラを輸出する時代だ

日本の農業の力を世界に届ける 秀農業 加藤秀明 代表取締役

仲間や政府とタッグを組んでインフラ輸出へ

海外事業はいったん終息したわけですが、そこからなぜインフラ輸出という考えが出てきたのでしょうか。

加藤 結局、一人で奮闘して品物を送るだけでは、ビジネスの規模は大きくならない。拡大していくには、仲間づくりが大切だと痛感しました。折しも、農協青年部の責任者にならないかという話があり、これもいい機会と捉えて、2014年5月から2017年5月まで3年間、部長を務めました。

 農協青年部部長として全国をまわり、日本の農業の実情を見てきたのですが、そこで一番問題だと感じたのは何といっても米余りです。現場の農家はたくさん作りたいのですが、補助金が出るのでいやいや麦や大豆を育てている。あるいは、きれいな水田で飼料用の米を作っているのです。

 どうにか農家の仲間がうまくやっていける方法はないかと考えて、米を海外で売ればいいのではと思ったのです。ですが、どの国でも米は国家戦略にかかわる作物なので輸入したがりません。ましてや、日本の粘る米は、なかなか需要がない。香港では皿にくっつくので、皿洗いのパートのおばさんが嫌がるのも目にしてきました。では、どうしようかということで、農水省からアイデアをもらって、企画書をまとめたのが食のインフラ輸出だったのです。

今度は仲間をつくっただけでなく、政府ともタッグを組んだわけですね。

加藤 農産物の輸出戦略については2016年3月に国が起案したもので、そのときに「加藤は外国の農業も日本の現場もよく知っているだろうから」と相談がありました。そこで、考えを企画書にまとめたわけです。政府は米を売れと大号令をかけている。けれども、なかなか売れない。それならば、米を輸出するのではなく、米産業全体を輸出したらどうかという話です。

 私がまず目指したのは、植民地時代の影響から、昔の日本の農村の基盤が残っている台湾です。農協が存在し、農家の規模が小さいという共通点がある台湾に、種から種子プラント、農業機械、精米機まで米にかかわるすべてを売り込みに行こうと企画書に書きました。

 日本の新幹線が台湾に入ったのと同じイメージで、米のインフラも台湾なら大丈夫ではないかと考えています。予算もつけてもらい、2016年12月から2017年3月にかけて、第一弾の調査部隊が台湾に渡りました。

秋田県大潟村の農協青年部とともに台湾を視察。行政院(最高行政機関で、内閣と各省庁をあわせたもの)も表敬訪問した。(写真提供=加藤氏)
秋田県大潟村の農協青年部とともに台湾を視察。行政院(最高行政機関で、内閣と各省庁をあわせたもの)も表敬訪問した。(写真提供=加藤氏)

相手国を玄米流通に変え“ウィンウィン”に

どういう点に大きな期待を持っていますか。

加藤 台湾は、日本とは大規模化の方向性が違います。台湾では、種まきだけをする会社、精米して販売する会社、耕すだけの会社、全土で収穫をする会社といった分業が進んでいます。そのためそれぞれがケタ違いの売上を上げています。インフラを売るチャンスはあると思います。

 一番の狙いは精米機械を売ることです。実は台湾をはじめ、世界のほとんどでは、いわゆる「もみ流通」といって、収穫したもみをそのまま保管し、一気に精米して売る形をとっています。私は、これを日本と同じ「玄米流通」にしたいと考えています。玄米流通をしているのは、世界でも日本と韓国だけ。玄米で保管するシステムを変えれば、すべてメードインジャパンの機械にできるわけです。

そんな都合のいい話に乗ってきてくれるでしょうか。

加藤 玄米流通にすれば、台湾の人にもメリットがあります。日本に来た台湾人は、日本の米はうまいと口をそろえて言います。それは玄米流通しているから。もみ流通では米が乾燥しすぎて、割れたり味が落ちたりします。玄米流通ならば、米の水分を14~15%に保てます。台湾に住む人たちも、おいしい米が食べられるようになるのです。

 台湾米は日本の米と違いますから、日本米の輸出先で競合する心配もありません。台湾では、在来の長粒種と日本の短粒種をかけあわせた米がつくられています。気温や日照時間が違うので台湾ではコシヒカリはできませんが、インフラ輸出で台湾米もおいしくなるのは台湾にとって大きなメリットです。

 新幹線の開通で台湾における人の流れが一気に変わりました。もみ流通から玄米流通になることで、米づくりも一変すると私は思っています。

日本の米余りも解消できるのですか。

加藤 玄米流通によって台湾米がおいしくなれば、台湾人はさらにおいしい米を求めるようになるでしょう。その中には日本の米を買いたいという人も出てくるはずです。事実、日本の米は高いけれども富裕層に人気があります。今回の調査でも、そうした特別な米を取り扱う高級店を知りました。そんな店の店頭に並ぶラインアップの1つとして、富裕層向け・ギフト用に日本の米は有望です。高級店では、当然ながら日本製のレベルの高い精米機、ごみ取り機、検査機械などが必要になってくるでしょう。米の品質をさらに上げていくためには、メードインジャパンの機械が欠かせないからです。

 もちろん、私一人が頑張ってもできる話ではないので、政府とも協力していきます。実は、大企業ともインフラ輸出の話をしているのですが、どの会社も自分の利益が最優先で、自社の機械を売ることばかりが頭にあるようです。しかし、目先の小さな利益ではなく、最終的な大きな利を見てほしいと、私は声を大にして言いたい。世界が日本の食に目を向けている今が大きなチャンスです。

 新幹線も、車両だけ売って終わりではありません。経済産業省や国土交通省がバックについて、長い目で見た利益を考えながらフォローしています。同様に、農林水産省には協力を仰いでいます。10年後には、日本インフラ輸出機構のような組織ができているかもしれません。

 もちろん、台湾でうまくいけば、ほかの国にも広げたいと考えています。フィリピンやインドネシアなどの東南アジアの国は、十分に可能性があると思います。海外の人たちは、日本の農産物にあこがれています。たとえそのままを輸出するのは難しいにしても、技術やインフラを輸出できれば、日本にとってメリットがあるだけでなく、その国の人にとってもおいしいものが安く食べられるメリットがあるのです。