農業データ連携基盤=WAGRIは、日本の農業に何をもたらすのか?

WAGRI協議会会長、神成淳司慶應義塾大学教授に聞く

WAGRIが連携のハブの役割を果たすというわけですね。

神成: WAGRIには、さらにいくつかの役割があります。

 一つは、データやサービスの取引の場としての役割です。農業に必要とされるデータやサービスをお持ちの企業は、それらを販売したいと考えるかもしれない。このような場合、従来は、個々の販売先となる相手を探さなければなりませんでした。このマッチングの場としての役割です。

 類似したデータやサービスが提供されれば、利用する側は取捨選択をすることも可能です。実際、気象データは複数のものが提供されており、利用側が目的に応じて選択することが可能です。また、音声認識サービスや手書き文字認識サービスも提供されており、これらを利用することも可能です。

 もう一つは、このような取引の場となることで、農業分野により多くの企業・組織が参入し、分野全体の活性化につながるのではないかという点です。今まで農業分野に参入しようとする企業や組織の多くは、個々の農家に直接的にサービスを提供するB to C型でした。先ほど申し上げた、データやサービスの取り引きの場としてWAGRIが機能するということは、B to C型のビジネスを実施している企業・組織に対してB to B型のビジネスを提供する機会が増加したことを意味しています。すなわちB to B to C型のビジネススキームが実現されるということです。

WAGRIのプラットフォーム。過去の収量データ、市況データ、土壌データ、農地データ、気象データなど、様々なデータがWAGRIを通じて連携できるようにすることによって、農業の生産性を飛躍的に上げ、高品質な農産物を安定的に生産できるようになる。(図:神成教授提供)
WAGRIのプラットフォーム。過去の収量データ、市況データ、土壌データ、農地データ、気象データなど、様々なデータがWAGRIを通じて連携できるようにすることによって、農業の生産性を飛躍的に上げ、高品質な農産物を安定的に生産できるようになる。(図:神成教授提供)
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抽象的な理想論より、具体的に推進することが重要

なぜ、これまでできなかったのでしょうか?

神成: GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)のプラットフォームが最近よく話題になっています。これらプラットフォームの多くは、新規産業として立ち上げられてきました。

 それに対し、既存産業におけるプラットフォーム構築は、既存ビジネスとの軋轢が生じることが多い。総論としてプラットフォーム構築に賛成であっても、構築により目の前のビジネスモデルが変わるリスクがあれば、踏み出すことは難しいわけです。

 ですが、グズグズしていると、世界的にデータ利活用が進んでいる状況で、農業が立ち後れてしまう。そこで「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術」という内閣府の研究プロジェクトにおいて、スマート農業を推進する各社の協力を仰ぎ、特定の組織・企業だけのためではない、皆が協調するための基盤としてWAGRIを立ち上げたのです。

 プラットフォーム立ち上げには、抽象的な理想論を振りかざすのではなく、具体的に推進することが重要です。参加いただいた企業・組織と毎月のように顔を合わせ、噴出する問題に順次対応し、短期間に立ち上げました。

WAGRIは今年2019年4月に本格稼働するというお話をされていますが、その後のロードマップを教えてください。

神成: 質問いただいたように、現行のWAGRIは、今年4月より正式稼動を開始します。この3月までは研究プロジェクトとして稼動していました。現在、正式稼動を見据え、持続的な運営体制を含めた対応が関係機関などにおいて進められています。

 また、この取り組みに加え、WAGRIの流通分野への展開に資する取り組みが開始されました。データの流通は、生産現場だけに限るものではありません。流通や小売りとの連携も重要です。この新たな取り組みは、スマートフードチェーンと名づけられ、新たな研究プロジェクトとして多くの企業・組織に参加いただき、4年後の実用化を目指しています。

生産に関する部分だけでなく、流通から消費に至るまでのデータを相互利用できるようにしたWAGRIの将来像。(図:神成教授提供)
生産に関する部分だけでなく、流通から消費に至るまでのデータを相互利用できるようにしたWAGRIの将来像。(図:神成教授提供)
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生産現場から流通、消費の現場までの一気通貫の仕組みになるのですね。

神成: そうですね。価値がある農産品を価値があるものとして流通させ、消費者が手に取ることができる仕組みを、データの利活用により構築していきたいと考えています。この際には、単にデータをつなぐだけでなく、農産品の価値を担保するための新たな技術も取り入れたく、理化学研究所などの複数の研究機関にも参加いただいています。詳細は申し上げられませんが、この取り組みのキーワードは「鮮度」です。

 2021年度には、国内で実証も進めたいと考えています。アジア諸国との連携も見据え、早期に実用化を図りたいです。

具体的なサービスの形はどんなものになるのでしょうか? サイトを見ると、WAGRIのメンバーはAPI(Application Programming Interface=*注)の形で様々なデータやシステムを提供したり、有償・無償でAPIを利用して農業生産者にサービスやアプリで提供したりするということですが。

(*注)API:システム(大きな意味でのソフトウエア)やアプリを作るためのソフトウェア部品

神成: WAGRIを介したデータやサービスの連携は、API接続になります。ダイナミックAPI(DynamicAPI)というものを採用しており、ウェブ上で簡単に新たなAPIを作成することが可能な機能を提供しています。プログラミングに関する専門知識を持っていない方でも、簡単に独自のAPIを作成できます。

 WAGRIのメンバーは気象や農地、生育予測などのAPIを提供すると共に、これらのAPIを使ってアプリやサービスを作り農家に対してビジネスを展開していただきます。WAGRIは、これらの活動を支える基盤です。

WAGRIでは様々なデータやシステムがAPIの形で提供される。農機メーカーやICTベンダーはこれらのAPIを有償もしくは無償で利用し、様々なシステムやサービスを構築し、農業生産者に提供する。(図:神成教授提供)
WAGRIでは様々なデータやシステムがAPIの形で提供される。農機メーカーやICTベンダーはこれらのAPIを有償もしくは無償で利用し、様々なシステムやサービスを構築し、農業生産者に提供する。(図:神成教授提供)
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 どこまでが基盤で、どこからが競争領域なのか。なかなか線引きは難しく、状況や技術の進歩に伴い、変わっていくことも予想されます。多くの関係者と議論を重ねながら、農業の発展を支える基盤としての役割を果たすべく、充実した基盤として発展させていきたいと考えています。

現状の課題といいますか、ボトルネックになってるものは何でしょうか。

神成: 課題は常にヒューマンリソースです。多くの方々にご尽力いただいており、現在は、この4月の正式稼動を滞りなくスタートさせることに注力していますが、それ以外にも実施すべきこと、検討すべきことはあまりに多いのです。WAGRIに期待いただいている皆様にご迷惑をおかけしないよう、着実に進めていきたいと考えています。