池上彰と歩く日本ができる「イラク復興」

スレイマニアで日本が支援する農業を見る 灌漑設備の充実・効率的な水利用がかかせない

イラク北部の代表的な都市、スレイマニアを訪れました。

緯度は日本の横浜市や島根県松江市と同じくらい。先に訪れた南部のバスラ(前章参照)の緯度は種子島や屋久島と同じくらい。500キロ近く北上したことになります。標高も900メートル近くあるため、摂氏50度までしか計れない寒暖計が振り切れた灼熱のバスラと比べると、比較的過ごしやすい気候です。ただし、高原とはいえ盆地なので、やはり暑いことは暑く、気温は7月時点で40度くらいまで上昇しました。

土地の大半は森林山岳地帯です。そのため、道路もうねうねと曲がりくねっていますが、舗装も進んでおり、道路のインフラはかなり整いつつあります。こうした道路の脇には、畑が広がり、ビニールハウスも見えます。

イラクにおける日本の国際協力を担当し、取材に同行してくれたJICA中東・欧州部中東第二課(当時)の木村出さんに、スレイマニアの農業事情を訊いてみました。

  • スレイマニア近辺では、どんな作物をつくっているんでしょうか?
  • まず、小麦ですね。それからメロン、ウリの栽培も目立ちます。スレイマニアのウリは巨大 なことで知られているんですよ。トマトの栽培も盛んです
  • イラクで食事をすると、トマトがたくさん使われていますね。なるほど納得です。農業の さらに発展を目指す上での課題は何でしょうか?
  • 水の確保です。サダム・フセイン政権樹立前の1960年代には、人工湖や多目的ダムが造られ、それがスレイマニアの農業の要となっていました。しかしこうした利水関連の インフラが、その後のイランとの戦争で破壊されてしまったのです
  • イラクは降水量が少ないため、灌漑設備や貯水設備を早急に整えなければ、農業の 本格的な振興は難しいですね
  • イラクの農業復興に対して、日本はどんな支援をしていますか?
  • 灌漑施設の維持・管理に必要な資機材の導入を支援する目的で、約95億円の円借款事業を行っています。イラクには灌漑可能な土地は550万haありますが、実際に灌漑に よる農業が行われているのは、このうちの6割程度です
  • また、農業の生産性を高めるために、老朽化した肥料生産工場を改修する目的で、 約181億円の円借款事業も展開しています
  • ヒトの面ではどんな支援を?
  • 治安の制約上、イラク国内での支援が困難だった頃から、ヨルダンやシリアなどの近隣国にイラク人を招いて、灌漑施設の維持管理や農業生産性向上のための研修などを展開 していました
  • そして2010年8月、イラク戦争後、初めて日本から農業の専門家をイラク国内に派遣しました。これをきっかけに、クルド自治政府の農業・水資源大臣らに対する助言を行いながら、小麦生産性の向上や、野菜を中心とした園芸作物栽培関連のプロジェクトを 形成し、これから本格的に現地で展開します
  • 日本の国際協力で他に特筆すべき点はありますか?
  • 食べるための作物以外に、花の栽培にも着目しています。イラク北部の気候は、欧州産の花の栽培にとても適しているのです。将来的には花を輸出産業に育てることも 考えています

このように、イラク農業の復興には日本が重要な役割を果たしています。ポイントはやはり水回り。灌漑設備の充実・効率的な水利用が、乾燥したイラクの農業にとっては欠かせないのです。

車を降りて、畑の近くまで行ってみましょう。

土の匂いがします。南部の乾いた砂の匂いとは違い、生命力を感じさせる匂いです。ビニールハウスで栽培されているのは、トマトでしょうか、ウリでしょうか。

緑に触れていると、なんだか気分まで軽くなります。理由は気候のせいだけではありません。

ここ北部農業地帯での取材時には、防弾チョッキを着ていないからです。

別の回で解説しますが、イラク滞在中、私たちにはずっとセキュリティ会社のボディガードがついていました。さらに防弾チョッキの着用も義務づけられました。前回取材した南部のバスラでもそうでしたし、この後訪れるバクダッドでも、防弾チョッキは欠かせませんでした。バクダッドは、いまだにテロの危険性を考え、一般外国人は自由に市内を歩けません(2011年夏現在)。

しかし、スレイマニアでは、ボディガードも防弾チョッキもいらないのです。南部に比べて圧倒的に治安がいいからです。

JICAもクルド人自治区の中心エルビルに拠点を持っていて、隣県のここスレイマニアでも活動しています。こちらでの活動をJICAの木村さんにお伺いしました。

スレイマニアが日本人の拠点となる理由 外食が出来るほどの治安の安定が決め手