
基調講演 リコー

「“はたらく”に歓びを」を企業理念の使命と目指す姿に掲げ、プロセスDXを実践するリコー。それは、オフィスにおける3M(面倒・マンネリ・ミスできない)業務のストレスをなくそうと考えたことから始まったという。
「そこで2020年、当社は社内のあらゆる業務プロセスを可視化、最適化、デジタル化していく全員参加型の取り組みを開始しました」と語るのは、同社 ワークフロー革新センターの塩谷 晴久氏だ。同センターはCoEとしてプロセスDXの実践を社内、そして顧客へと展開する役割を担っている。
プロセスDXに向け、リコーは定型的に実践でき、定量的に結果が出せる「型の整備」と「実践スキルの体系化」に力を注いだ。ステップとしてはまず、RPAやローコードツールをCoEが徹底的に使いこなす。次に、ガバナンスを利かせた安全・安心な市民(現場の社員)開発を展開し、日常的にCoEがサポートすることで市民開発の加速とCoE自身のスキルアップを図る。さらにCoE開発を高度化するためIT部門とも融合し、様々なデータも活用しながら基幹システムの周辺領域にRPAやローコードツールを適用して内製化を進めていく。
既にプロセス改革を実現できた事例も多い。例えば人事担当者とCoEが共同開発した「人事評価管理ツール」は、問い合わせ対応や会議の3Mを低減し、業務の質を向上した。市民開発による「評価機管理ツール」はコピー評価機の予約・利用工数を90%削減し、保有台数の最適化にもつながっている。
「CoE開発と市民開発をハイブリッドで行うことが内製化への近道だと考えています。今後は社内で培ったノウハウとスキルを、お客様の価値提供につなげていきます」と塩谷氏は語った。
特別講演 エイチ・ツー・オー リテイリング

エイチ・ツー・オー リテイリングは阪急百貨店、阪神百貨店、食品スーパーなどを展開する生活総合産業グループである。同社は、DX戦略を加速するためのシステム開発の内製化に向けて、2023年4月に「デジタルソリューション・開発部」を新設した。百貨店の店頭部門でIT未経験者だった岡田 拓真氏と池田 真美氏は、ITの力で業務改善や効率化を図りたいと考え、メンバーに応募したという。
2人が開発に携わったのが、デパ地下で人気のスイーツを出張販売する事業を支援するアプリ「走るデパ地下アプリ」だ。

移動販売車のドライバーは社員だけではなく外部人材の力も借りているため、コミュニケーションやスケジュール共有が難しい。「そこで移動販売車の運行スケジュールや出店先の施設情報などを共有するアプリを内製することにしたのです」と岡田氏は言う。Googleのノーコードツール「AppSheet」を使ったアジャイル開発によって、わずか1カ月で開発・リリースした。
「システムをすぐ形にし、試しに運用できるのがノーコードツールのメリットです。ユーザーに使ってもらい、フィードバックを得ながらUI や運用を改善することで、ユーザーライクなアプリを作成できたと思います」(池田氏)。加えて、2人に店舗での販売や催事運営の経験があり、現場感覚を持っていることも業務課題の理解・把握に生きたという。
システム開発を内製化したことで、リリース後のアプリの改善、品質向上のスピーディーかつ継続的な実行が容易になった。同社の事例は、まさにノーコードツールの価値を生かしたケースといえるだろう。
特別講演 TBSテレビ

TBSグループは、放送以外の事業領域の収益を2030年に60%まで高めることを目指した変革を推進している。だが、地上波テレビ全盛時代の成功体験や職人気質の企業文化が残っている状況で、仕事のやり方を変えるのは簡単ではなかったという。
この状況を打破すべく創設されたのがイノベーション推進部だ。「社員を無駄な作業から解放することで、クリエイティブな仕事をする時間と環境をつくります」とTBSテレビの宮崎 慶太氏は語る。
業務部門とIT部門が密に連携した“現場発DX”を進める上で、アジャイル開発の基盤として導入したのがGoogleのノーコードツール「AppSheet」だ。
「コンテンツ制作局のスタッフ管理システムや新人研修日誌アプリ、アナウンサー発注システム、再放送同意システムなど、既に多くのアプリをAppSheetで作成しています。コツは、ITを少し勉強した現場系人材と、現場を少し勉強したIT人材がペアで開発にあたることだと私は考えています」と宮崎氏は言う。
また、同グループでは生成AIの活用も積極的に進めている。番組制作現場での活用、働き方改革、新規ビジネスの検討などがその例だ。
もちろん、ノーコードツールも生成AIも“万能薬”ではない。現場の「この課題を解決したい」というニーズにひも付いたものでなければ、いくら便利なテクノロジーであっても使われないだろう。また、生成AIがやれることには限界があるため、割り切りも時には必要だ。「いずれにせよ、面倒なことから逃げず、泥臭く挑むことでしかDXは達成できないと思います。つまりDXのDは“泥”。私たちは『泥トランスフォーメーション』を今後も推進していきます」と宮崎氏は話した。