ただ、テクノロジーを過剰に怖れるべきではない。適切に使えば、脅威を防ぐための強力な武器になるからだ。
例えば、生成AIはセキュリティー機器のログの意味を自然言語で説明したり、アラートへの対応方法を提示したりする際に役に立つ。プログラムに潜む脆弱性を検出して、コードの修正まで自動で行うことも可能だ。システムに組み込むことで、人の手を煩わせることなくインシデントの対応・復旧などを行うことができるだろう。
「万一の際の対応速度を高めたり、経験の浅い人でも効果的な対策をスピーディに行えるようにしたりすることが可能です。脅威の特定や、ビジネスの復旧にかかる時間・工数を大きく削減し、レジリエンスを高めることができるのです。また、少ない人数で対応が可能になれば、セキュリティー領域の人材不足解決にもつなげられるでしょう」と小林氏は説明する。
量子コンピュータも、解読不能な量子暗号の開発に期待が寄せられている。これが実現できれば、AESやRSA暗号など既存の暗号アルゴリズムとはまったく異なる仕組みで、データや通信の秘匿性を高められる。最新テクノロジーを活用することで、新たな備えを実現できるのだ。
テクノロジーが生み出すリスクに、テクノロジーで対処する。そのための大前提となるのが脱レガシーである。「レガシーなシステム環境では、新たなテクノロジーを素早く導入したり、システムの健全性を維持したりすることが困難です。レガシーシステムをモダナイズすることは、セキュリティー強化の観点でも喫緊の課題といえるでしょう」と小林氏は言う。
同時に、ガバナンスやポリシーを見直すことも重要だ。生成AIや量子コンピュータの登場を踏まえ、セキュリティーのパラダイムシフトを見据えたサイバー規制の強化が世界の潮流になっている。
具体的に、2023年5月のG7広島サミットでは、AIの活用や開発、規制に関する国際的なルールづくりを推進する「広島AIプロセス」を締結した。米国ではバランスの取れたAI活用と規制を求める「AIの安全、安心、信頼できる開発と利用に関する大統領令」を発布。EUはリスクの高いAIシステムに厳格なルールを課す「AI規制法」を制定した。日本でも金融分野におけるサイバーセキュリティーに関して「金融庁ガイドライン」が公表され、対策強化を促進している。
また量子コンピュータに対しては、米国政府が設立した「ポスト量子暗号(PQC)イニシアチブ」がある。ここでは次世代を見据えた暗号技術の開発を進めるという。同様の取り組みが各国で進んでいる。
このような潮流の中、サイバーセキュリティーの強化とガイドライン準拠は当然のルール、すなわちビジネスの「パスポート」になりつつある。「国際的なガイドラインに準拠した社内ガイドラインを策定・実践し、新たなテクノロジーのリスクや活用法について教育を行う。このことが、企業としての説明責任を果たす上で不可欠になっています」と小林氏は説明する(図1)。