
環境リスクが高まる中、気候科学と脱炭素ビジネスの視点のすり合わせが重要になっている。IPCC第6次評価報告書にも関わった東京大学の江守教授と、CO2排出量見える化サービスを展開するアスエネの代表取締役CEO西和田氏との対談から、企業の果たす役割が見えてきた。
(モデレーター:日経ESG 発行人 竹居 智久)


東京大学の江守正多教授は、「米国は非常に深刻な状況になっています。現在の第2次トランプ政権で起きていることは、気候科学の観点から考えると非常に異常なことです」と切り出した。NOAA(米海洋大気庁)やNASA(米航空宇宙局)、DOE(米エネルギー省)などの政府機関では気候関連予算が削減され、江守氏は「気候研究そのものが困難になる状況が広がっているのです」と指摘した。
アスエネの西和田氏も、「米国政権はグローバルに大きな影響を与えます。特に連邦レベルの規制はトーンダウンしているのが現状です」と語る。しかし、この問題を指摘する難しさもある。江守氏は「気候変動への懐疑論者には化石燃料業界が出資し、保守系シンクタンクなどが誤情報を流しています。しかし、そうした事実を語ると陰謀論のように聞こえるリスクが高くなってしまいます」と現状を見る。
トランプ米大統領は地球温暖化防止やクリーンエネルギーを「史上最大の詐欺」と主張。これに対し江守氏は「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書では人間活動による温暖化に疑いはなく、温室効果ガスを考慮しなければ観測気温は説明できません」と断言する。
日本でも高市早苗内閣総理大臣の新しい政権が誕生した。西和田氏は、「高市政権が脱炭素など特定のキーワードを強調することは少なく、比較的ニュートラルな政策だと感じています。国家安全保障の観点から、中国産太陽光パネルに対する安全保障上のリスクを訴える論調もある一方、再生可能エネルギーはエネルギー自給率向上に不可欠です。国産パネルの利用やペロブスカイト太陽電池開発への助成金・補助金政策も考えられるでしょう」と見る。
産業革命以降の平均気温の上昇を1.5℃未満に抑えるパリ協定の目標について、江守氏は「パリ協定で2℃では耐えられないという島しょ国や途上国の主張に対し、1.5℃という努力目標が出てきました。1.5℃と2℃ではリスクが大きく異なります。世界では1.5℃なら守られても2℃では救えない命があるのです」と指摘する。
西和田氏は、企業側の責務として、「短期的に目標を達成できるかということは、企業が取り組みをやめる理由にはなりません。政権交代などの短期的な変化に振り回されず、長期的にネットゼロへ向かうべきです」と語る。アスエネでは排出量算定・削減・クレジット取引などの脱炭素ソリューションを提供する。「脱炭素は市場としても後戻りできない流れです。事業と社会の両面から企業の脱炭素へのコミットに貢献します」(西和田氏)。江守氏は最後に、「温暖化の議論は、数字や制度の話ではなく、守られるべき命の問題と捉えてほしいです」と、視点の転換を求めた。