
脱炭素化の努力を社会全体で共有するために、一次データを活用したスコープ3の算定とサプライヤーエンゲージメントの実践が重要な課題となっている。NTTデータ、ウェイストボックスのキーパーソンがそれにかかわる講演を実施。引き続き執り行われたパネルディスカッションの模様も含めて、そのダイジェストをレポートする。
(モデレーター:日経BP 総合研究所 チーフコンサルタント 主席研究員 杉山 俊幸)


各企業がサプライチェーン全体でのGHG(温室効果ガス)排出量を可視化することは、社会全体で脱炭素化の努力を共有する上では欠かせない。しかし、自社がその生産活動などにおいて直接排出するGHGが算出されるスコープ1や、電力会社から供給される電気量を元に算出されるスコープ2に比べ、算出や可視化が困難なのが、調達した原材料の製造過程を含めたGHG排出量となるスコープ3である。
「現段階では、環境省のホームページで参照可能な産業連関表に基づき、調達した資材などの活動量×排出原単位を物量ベース、あるいは金額ベースで積み上げる方法が一般に用いられています。ところが、この方法では思うように排出量が減らず、各企業の担当者が頭を抱えているのが現状です」とNTTデータの南田晋作氏は指摘する。
こうした課題に対応するため、NTTデータは2022年頃から「総排出量分配方式」と呼ばれるアプローチを提唱し、GHG排出量可視化プラットフォーム「C-Turtle®」にも実装している。「これは『何を買ったか』ではなく『誰から買ったか』という視点でサプライヤーの排出量を捉える方法です。取引の割合に応じて、自社の排出量として算定します」と南田氏は説明する。例えば、取引先のAという会社のGHG総排出量が100万トンで、売上が100億円だったとして、この会社と1億円の取引を行ったのであれば、排出量の100分の1である1万t-CO2/億円を引き受けるという方法だ。
一方で、この方法を実際に運用する際には、企業にとってさらに難しい問題がある。それは、すべてのサプライヤーが排出量を可視化しているとは限らないことだ。こうしたケースでは、サプライヤーに可視化の取り組みを推進するよう依頼するしかない。そこで重要になってくるのが、「サプライヤーエンゲージメント」の考え方である。つまり、GHG排出量の算定・報告を進めるうえでは、サプライヤー各社との継続的なコミュニケーションが不可欠だ。
社会の最終的な目的があくまでもネットゼロの達成にあることを考えれば、単に排出量を報告し合うだけではなく、各企業が目標を明確に定めて、削減努力を互いにつなぎ合わせて評価し合える仕組みづくりも重要だ。「実際この分野に関して、日本は世界的にも進んでいます。したがって、日本が国際的な取り組みをリードしていける可能性は十分にあると考えています」と南田氏は強調する。
■業界全体で取り組むサプライヤーエンゲージメント
同業企業間では、サプライヤーが重複していることが多く、業界全体で取り組むことで、サプライヤーへの取り組みが促進され、サプライチェーン全体での削減が進むことが期待できる。そこは競争領域ではないため、業界全体でサプライヤーに働きかけていくという動きも出てきている
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では、どのようにサプライヤーエンゲージメントを推進していくべきか。SBTi(Science Based Targets initiative)の公開するガイダンスでは、まず「目標に合うサプライヤーの選定」にはじまり、「社内の賛同を得る」「目標に向けた実施」「サプライヤーパフォーマンスの追跡」「進捗状況モニタリング」という5つのステップが重要だとしている。
「これらのステップは、1回実施すればいいわけではなく、一連のステップ全体に毎年取り組み、継続的に実施する中で改善していくことが重要だとガイダンスでは述べています」とウェイストボックスの山本裕子氏は紹介する。
例えばサプライヤーの中には、気候変動対応の必要性についての認識が十分でないというケースもあるはずだ。そうした企業に対しては、意識醸成にかかわる支援から始めて、排出量の算定についてもスコープ1・2から始め、次に目標を設定してスコープ3の算定へと移行していくなど、段階的な支援を進めてサプライヤーの進捗を追跡していくことの重要性も示されている。
「そうした観点では、サプライヤーと長期的にコミュニケーションを重ね、徐々に活動を促しながら、共に削減を進めていくアプローチが重要です。それこそが、地球全体のネットゼロ達成のために欠かせない取り組みであることは言うまでもなく、より多くの皆様がまずはこうしたサプライヤーエンゲージメントの出発点に立っていただくことを期待しています」と山本氏は語る。
例えばウェイストボックスは、気候変動への対応を中心とした環境コンサルティングを行う企業だが、企業のサプライヤーエンゲージメントを支援していく体制も整えているので、取り組みの推進に当たっては心強いパートナーとなるはずだ。
日系企業のグローバルサプライチェーン環境における取り組みについて、南田氏は次のように語る。「調達がグローバル化する状況にあって、サプライヤーにエンゲージメントを働かせて、排出量の情報を一次データとして取得していくことは重要ですが、サプライヤー自体がどういう取り組みを進めているかという情報も詳細に捉えて、密連携していくという時代に入りつつあるというのが私の認識です」。
続いて、近年顕在化しつつある“反ESG”とも言うべき動向について話が及んだ。山本氏は、同様の動きは第一次トランプ政権時にも見られたと前置きした上で、「今回も結局のところ、国レベルでは多少の停滞は予想されますが、世界的にも気候変動の影響はより目に見えるかたちで現れています。そうした状況にあって、現在と同様の事業活動を継続していては、今後生き残っていけないという思いは企業にとってさらに切実で、気候変動への対応をやらなくていいというのは現実的とは言えないのではないかと考えています」と述べた。
GHG排出量可視化のスコープ3への対応にせよ、サプライヤーエンゲージメントの取り組みにせよ、次なる時代において自社の競争ポジションをどう確保していくかに直結する課題である。サステナビリティへの視点抜きに企業の将来はないと言っていいだろう。