「2024年問題」に加え、
改正物流関連2法への対応も急務
「総合物流ソリューション編」の最初に登場したのは、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 第1部長 所長補佐の松井 拓氏である。「物流の2024年問題とその対応に向けて」というタイトルで基調講演を行った。
基調講演
日本ロジスティクスシステム協会
JILS総合研究所 第1部長
所長補佐
松井 拓 氏
1992年に設立された同協会には、物流企業や荷主企業など、様々なステークホルダーが法人会員として参加。物流・ロジスティクスの最適化に向けた意見交換や研究活動などを行っている。
同協会のJILS総合研究所の松井氏は、「2024年問題」がもたらす影響について、「荷主企業は商品配送コストの上昇、物流事業者は人件費の高騰によって、それぞれ利益が減少。トラックドライバーは稼働時間の制限によって収入が減少し、消費者はコスト高による物価の上昇や配送サービスの利便性低下など、悪影響はあらゆるステークホルダーに及ぶ可能性があります」と語った。
別のシンクタンクの試算によると、「2024年問題」によって不足する輸送能力はコロナ前の2019年比で、トンベースで14.2%に達し、30年には34.1%も不足するという。とくに農産品や水産品の輸送能力不足が深刻化するとみられている。
こうした問題を踏まえ、国は24年5月に改正物流関連2法を公布した。
松井氏は、「25年初めには関連2法の政省令等が公布され、トラックドライバー1人当たり年間125時間の荷待ち・荷役等時間の短縮、28年度までに全体の車両で積載効率44%への増加といった努力目標が設定される見通しです。取り組み状況の調査・公表も行われるので対策を急ぐ必要があります」と語った。
物流の「2024年問題」により何が起きるのか(例)
物流の「2024年問題」は、荷主企業や物流企業だけでなく、トラックドライバー、消費者など、さまざまなステークホルダーに悪影響を及ぼす
さらに関連2法の一つ、物資の流通の効率化に関する法律では、特定事業者のうち荷主企業に対し、物流統括管理者の選任を義務付けている。「2024年問題」の解決を物流事業者任せにするのではなく、荷主企業も当事者の一員として能動的に取り組むことが義務付けられる。松井氏は、「そもそも『ロジスティクス』とは、物流機能の高度化と諸分野の統合によって顧客満足の向上や環境保全、安全対策などの社会課題の解決に貢献するための戦略的経営管理のこと。荷主企業には、コスト以外のKPIも設定し、ロジスティクス視点の課題解決に取り組む姿勢が求められています」と語った。
ロジスティクスの観点から
物流ソリューションを活用する
「総合物流ソリューション編」の特別講演には、花王 SCM部門デジタルイノベーションプロジェクト チーフデータサイエンティストの田坂晃一氏と、日本ロジスティクスシステム協会 理事 JILS総合研究所 所長の北條 英氏が出演した。
「生産性向上と課題解決に向けた、物流イノベーション」と題する講演では、花王が取り組んでいるデータサイエンスを活用した物流改革を紹介。JILS総合研究所 所長の北條氏は、花王の取り組みに対する評価を行うとともに、ロジスティクスの観点から物流改革を進めることの重要性について説いた。
特別講演
公益社団法人
日本ロジスティクスシステム協会
理事
JILS総合研究所 所長
北條 英 氏
講演の冒頭、まずは北條氏が、日本における物流・ロジスティクスの現況について解説した。
本セミナーを通じて議論された物流の「2024年問題」とは、働き方改革関連法によって24年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることに伴って発生する諸問題である。北條氏は「日本の物流は約9割がトラック輸送(トンベース)なので、トラックドライバーの労働時間が減ることは、非常に大きなインパクトがあります。19年比でトンベースで輸送能力が14.2%不足するということは、週5日来ていたトラックが、週4日しか来なくなるようなイメージです」と説明した。
さらに、「問題を解決するために国が先んじて動き、改正物流関連2法を公布したことが、物流企業や荷主企業が対応を急がざるを得ない状況をもたらしました」と北條氏は語った。
とはいえ、これは物流改革を加速させる大きなチャンスだとも言える。
北條氏は、特定事業者の荷主企業に物流統括管理者の選任が義務付けられたのを機に、「物流のみならず、サプライチェーン全体の経営管理、すなわちロジスティクスを高度化すべきです」と提言した。
「ロジスティクスには、需要と供給を最適化し、顧客満足度を上げ、社会的課題を解決するという3つの目標があります。これらの実現のためには、物流だけでなく、製造、営業などサプライチェーンを構成するすべての機能を全体最適化しなければなりません。そう考えると、物流統括管理者は、物流部長ではなく、役員クラスの人材を登用する必要があるのではないでしょうか」(北條氏)
ロジスティクスと物流の概念図。「ロジスティクスは物流を包含する上位概念です。これからはロジスティクスの観点を持った物流改革が必要になります」と北條氏
北條氏の現状分析に続き、花王の田坂氏が、同社が取り組む物流改革の事例について説明した。花王は、製品を卸会社に納めるメーカー物流だけでなく、卸物流、小売物流の一部まで自社で行っている。小売りに至るまでのモノの流れや情報を把握することで、精度の高い需要計画を立てることが狙いの一つだ。
特別講演
花王
SCM部門
デジタルイノベーションプロジェクト
チーフデータサイエンティスト
田坂 晃一 氏
「流行に左右されやすい化粧品、日用品は需要計画を立てるのが難しく、見込みを誤ると欠品や在庫が増えてしまいます。当社では、かなり以前から統計手法に基づく需要計画を行っており、近年ではAI予測やデータサイエンスに基づく計画作りにも取り組んでいます」(田坂氏)
その成果の1つである「化粧品新製品予測モデルの構築」は、日本ロジスティクスシステム協会が毎年選んでいるロジスティクス大賞で、24年度の技術革新特別賞を受賞した。
北條氏は、「画像解析技術などを使って、先ほど述べたロジスティクスの3つの目標に到達可能な予測モデルを構築したことを、高く評価しました」と授賞理由について説明した。
花王は、物流施設の省人化プロジェクトでも、データサイエンスの知見を活用している。
同社は23年3月、愛知県の豊橋工場内に次世代新倉庫を開設した。デパレタイズとパレタイズをロボットで自動化したほか、AGV(無人搬送車)で荷物を自動搬送させるなど、省人化の仕組みがふんだんに採り入れられている。そのロボットの最適な配置や、AGVが効率よく走り回れるレイアウトを設計するため、データサイエンスの知見を活用したのだ。
「私が所属するSCM部門デジタルイノベーションプロジェクトには、30代を中心に約20人のデータサイエンティストがいます。その知見を生かし、需要計画から生産計画、物流まで、サプライチェーンを構成する様々な業務の最適化プロジェクトに関わっています」と田坂氏は説明する。
データサイエンスの知見とドメイン知識と兼ね備えた人材を揃えるため、データサイエンティストの大半は、プロパーの社員を育て上げているという。
花王が豊橋工場内に開設した次世代新倉庫では、デパレタイズとパレタイズをロボットで自動化したほか、AGVで荷物を自動搬送させるなど、最新の省人化ソリューションがフル活用されている
最後に北條氏は、「花王の人材育成や活用について、HRM(人材マネジメント)の観点でも素晴らしい取り組みだと思います。本日の講演が皆さんの刺激となり、ロジスティクスの観点を持った物流改革に取り組んでもらえたら幸いです」と述べ、講演を結んだ。
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