


Opening Remarks, Keynote Speech
デジタル経済社会省のウィシット氏は、急きょ不参加となったタイのプラサート・チャンタラルーントーン副首相の代理として登壇した。
ウィシット氏はタイ政府が「クラウドファースト政策」を掲げ、国レベルのデジタル化に取り組んでいることを紹介した。タイでは現在、ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)である米マイクロソフトや米グーグルなどによるデータセンターへの投資が相次いでいる。ウィシット氏は「デジタルの供給面が充実してきているので、需要を喚起していくことが重要だ」と語った。
そのための取り組みの1つとして、デジタル経済社会省が進めるクラウドを使ったペーパーレス化の事例を紹介した。タイ政府は2024年中にあらゆる省庁をデジタルガバメントにすることを目指しており、他の省庁でもペーパーレス化をはじめとした様々な取り組みが進んでいるという。
デジタル化の推進と同時に、「持続可能性についても考えている」(ウィシット氏)。デジタル経済社会省は現在、様々な省庁と連携し、持続可能性を高めるためのデジタル化にも取り組んでいるという。今後は、温暖化ガスの削減量を取引するカーボンクレジットも進める計画だ。
AIによる電力消費への対応が必要
続いて登壇した大鷹氏はDXとGXについて「単なるデジタル化、脱炭素化と何が違うのか、よく考えなくてはいけない」と指摘した。「トランスフォーメーション」が意味するところは、「非連続的なイノベーションによって、従来のコンセプトとは全く異なる商品・サービスを生み出し、それによって人々の生活や価値観、社会のあり方を根本的に大きく変えるものであるはずだ」(大鷹氏)とした。
非連続的なイノベーションの一例として、大鷹氏は生成AI(人工知能)を挙げた。一方で「AIは膨大な電力を消費するため、電力需要の急増への対応と、持続可能性のある電源への移行を同時に進めなくてはいけない」と指摘した。
大鷹氏は日本とタイが長年にわたり経済的・文化的なパートナーシップを築いてきたことを振り返った。そのうえで、「これからのデジタル時代には両国の絆がさらに深まる可能性が秘められている。新しい経済的機会を創出し、サステナブルな成長を達成するために協力できるはずだ」と強調した。
DX、GXに取り組む企業に様々な支援を提供
Keynote Speechではタイ工業省のパサコーン氏が、同省のDXとGXの取り組みについて紹介した。
DXにおいてはプラユット・チャンオチャ元首相が定めた産業高度化政策「タイランド4.0」にのっとり、事業者の生産現場での自動化やロボット利用などを推進しているとした。さらに、人材育成制度やデータ基盤の整備、システム構築のノウハウ提供、販売チャネル拡大のためのツール推進など、様々な支援を企業に提供しているとした。
GXにおいては、EV(電気自動車)の振興に取り組んでいることを紹介した。「税制優遇制度の創設や充電ステーションなどのインフラの整備、必要な基準の策定などを進めている」(パサコーン氏)。
クリーンエネルギー推進にも取り組んでいる。屋上での太陽光発電をよりやりやすくしたり、再生可能エネルギー活用に取り組んだ場合の税制優遇制度を創設したりしているという。
GXを推進する企業に対しては、様々な金融支援策も提供している。例えば、タイ政府が所有する中小企業支援銀行(SME BANK)では、「脱炭素ローン」や「BCG(バイオ・循環型・グリーン)ローン」などを提供しているという。
2065年に「ネットゼロ」を目指す
続いてKeynote Speechに登壇したタイ天然資源環境省のシワット氏はタイにおける脱炭素化の取り組みについて語った。
シワット氏は世界の気候変動の状況や、温室効果ガスの排出状況について言及した。タイにおいて温室効果ガスを多く排出している産業として「エネルギー、運輸、不動産、農業などがある」(シワット氏)とした。タイは農業国であるため、水田や畜産から多くのメタンが排出されているという。
タイ政府は温室効果ガス削減のために3つの目標を掲げている。1つ目は短期から中期の目標で、国全体の温室効果ガスの排出量を2021〜2030年に30〜40%削減するとしている。2つ目の目標は、2050年にカーボンニュートラルを達成すること。3つ目の目標は2065年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を達成することだ。
目標達成に向けてタイのエネルギー省、運輸省、工業省、農業省などがそれぞれの取り組みを進めており、天然資源環境省は「植林に力を入れている」(シワット氏)。
シワット氏が所属する気候変動環境局は現在、気候変動法の草案の策定に取り組んでいる。気候変動法は、欧州連合(EU)が進める炭素国境調整措置(CBAM)に倣ったものだ。EUへの輸出の際に、製品の生産過程で発生した排出量に応じて税金を徴収する。気候変動への対策を進めている業者であれば減税を期待できるという。
日本とタイは共に「おもてなし」に優れる
早稲田大学ビジネススクールの入山氏は、日本とタイの共通点として製造業が強いことを挙げた。そのうえで今後デジタル化の主戦場はスマートフォンやパソコンなどバーチャル空間から生産現場などリアル空間へと広がるため、IoT(Internet of Things)の技術や考え方がこれまで以上に重要になると説明した。「IoTの拡大にはモノづくりが肝になるため、製造業が強い両国には大きな可能性がある」(入山氏)。
IoT化が進むと、次にはスマートウォッチやスマートグラスなど人がセンサーを付ける「IoH(インターネット・オブ・ヒューマン)」が進むとした。IoHの時代には、「人から得られる情報は全てコモディティー化し、取得する情報による差異化は難しくなる」(入山氏)。さらに、従来は人が担っていた肉体労働などの多くの作業もデジタル化されるという。
その際に人間の役割として残るのが感情労働、つまり「おもてなし」の部分だ。入山氏は「日本とタイはおもてなしの力が優れている。この点でも両国は大きな可能性を共通して持っているので、IoHの時代にはこれが大きな強みになるはずだ」と説明した。