あなたの疑問に専門家が回答!
記憶力の衰えを防ぎ、健やかな脳を維持するには
「最近、ものの名前が出てこない」「前よりニュースの内容が頭に入らなくなった」——そんな悩みを抱える高齢者は少なくありません。加齢による脳の変化は避けられないとはいえ、記憶力の衰えを防ぎ、できるだけ長く健やかな脳を保つことは可能です。では、80代になっても記憶力を維持するには、どんな習慣が有効なのでしょうか。認知症専門医の遠藤英俊医師に聞きました。
本記事は日経Gooday「あなたの疑問に専門家が回答! 健康Q&A」に掲載された内容を転載・編集したものです
たとえば楽器や外国語学習など、これまでやったことのないことに取り組むと、脳が活性化します。
「80代から新しく習い事を始めることは、非常に良い脳トレになります。もちろん、ピアノでも英会話でも、あなたが興味のあることで構いません」と遠藤医師は勧めます。
そのほかにも、絵を描く、俳句を詠む、手芸をする、といった創作活動も効果的です。これらは完成までの過程で「考える・工夫する・記憶する」など複数の認知機能を使うため、自然と脳の活性化につながるのです。
とはいえ、年齢を重ねると「やってみよう」と思う気持ち自体が薄れてしまうこともあります。
「80歳を過ぎると、どうしても意欲ややる気が低下しやすくなります。やらなきゃと思っていても、体が動かない。長く続けていた趣味をやめてしまう方も増えてきます」(遠藤医師)
実際、「80の壁」という言葉があるように、80代以降は新しいことへの挑戦が難しくなる時期。意欲の低下が活動量の減少につながり、結果として脳への刺激も減ってしまうという悪循環に陥りやすくなるのです。
江戸時代の絵師・葛飾北斎は90歳を過ぎても尚、筆を手放さず、「天が私にあと10年、いや5年の命をくれたなら、本当の絵描きになれるのに」と語ったと言われています。遠藤医師は、「北斎のように、80代を過ぎても情熱を持って続けられるものがある人は、認知症になりにくい傾向があります」と話します。
一方で、特に目標もなく、なんとなくテレビをつけて1日を過ごすという生活をしていると、脳への刺激は極端に少なくなります。
「テレビをただぼんやりと見ているだけだから、当然ニュースも頭に入ってこない。今の総理大臣が誰かもとっさにわからない。そうなると、認知症はすぐそこです」(遠藤医師)
高齢になっても、記憶力を維持している人の共通点。それは、日々「やりたいこと」「関心のあること」を持ち続けていることであると遠藤医師はまとめます。
「90歳や100歳になっても元気に暮らしている方は、例外なく“目標”や“好きなこと”を持っています。小さなことでいいので、自分が続けたいと思える何かを持つこと。80歳を超えたら、社会に対する関心ややる気を維持していくことが大切です」(遠藤医師)
年齢を理由に“何もしない”ことこそが、記憶力低下の第一歩です。新しいことに挑戦するのは勇気がいりますが、「できることから少しずつ」「楽しく続ける」を意識してみましょう。
80代からでも、記憶力を維持することは可能です。大切なのは、「新しいことに挑戦する気持ち」と「社会とのつながり」を持ち続けること。楽器や外国語の学習、創作活動、ニュースへの関心など、脳を使うきっかけを日常に取り入れていくことで、認知機能は保たれます。「やりたいこと」を諦めない姿勢こそが、元気な脳を育てる最良の方法といえるでしょう。
Profile
遠藤英俊(えんどう ひでとし)医師
認知症専門医 聖路加国際大学臨床教授 名城大学特任教授

1982年滋賀医科大学卒業、87年名古屋大学大学院医学研究科修了。総合病院中津川市民病院内科部長、国立療養所中部病院(現・国立長寿医療研究センター)内科医長などを経て、国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長および老年内科部長を務め、2020年3月に退職。現在は聖路加国際大学臨床教授、名城大学特任教授。著書は『最新 ボケない! “元気脳”のつくり方』(世界文化社)、『よくわかる認知症Q&A ―知っておきたい最新医療とやさしい介護のコツ―』(中央法規出版)など多数。認知症、高齢者虐待問題、介護保険関連を専門とする。
本記事は日経Gooday「あなたの疑問に専門家が回答! 健康Q&A」に掲載された内容を転載・編集したものです
記事中の肩書きやデータは公開時点の情報です