あなたの疑問に専門家が回答!
徘徊の背景にある心理と危険回避の備えとは
認知症の症状のひとつに「徘徊」があります。ふとした隙に外出し、行き先もわからず迷子になってしまうケースもあり、家族にとっては非常に心配な行動です。今回は徘徊の背景にある心理と、危険を防ぐために家族ができる備えについて、認知症専門医の遠藤英俊医師に伺いました。
本記事は日経Gooday「あなたの疑問に専門家が回答! 健康Q&A」に掲載された内容を転載・編集したものです
家族が「家出」と呼ぶ行動でも、本人にとっては「目的のある外出」であることが少なくありません。
「認知症の方が外へ出ようとするのは、多くの場合“どこかに行きたい”という思いがあるからです。一番多いのは、かつて住んでいた家や職場に行こうとするケースです。本人にとっては徘徊ではなく、あくまで“外出”のつもりなのです」と遠藤医師は話します。
しかし、途中で道がわからなくなり、そのまま迷子になってしまう。警察に保護されるケースもあれば、最悪の場合、命の危険につながることもあります。
「警察庁の統計によると、認知症による行方不明者は年々増加しており、2023年には約1万9000人に達しました。そのうち約500人が、最終的に亡くなった状態で発見されています」(遠藤医師)
ちょっと目を離したすきに外出してしまうケースも(イラスト:堀江篤史)
では、こうした徘徊を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。遠藤医師は、まず「家の中での安心感を高めること」が大切だと語ります。
「『ここは自分の家じゃない』と感じてしまうと、外に出ようとする動機になります。まずは本人が快適に、安心して過ごせるようにしてあげることが大切です」(遠藤医師)
実際には、内側から鍵をかけて外出しにくくするといった対策をとられているご家庭も少なくありません。しかし、ご家族としてはそれでも安心はできないでしょう。万が一に備えて、位置情報を把握できる対策も重要です。
「たとえばGPSを着けておき、いざというときにそれで探すのもいいでしょう。また、最近ではQRコードの付いたワッペンなどもあり、スマホで読み取ることでご家族に連絡が行くようになっているものもあります」(遠藤医師)
加えて、近所の人や商店などにも協力をお願いしておくと、早期発見につながります。「うちの親がひとりで歩いていたら声をかけてください」と伝えておくだけでも、有事のときの心強い味方になります。
実は、徘徊を未然に防ぐ最も自然な方法のひとつが、「一緒に歩くこと」です。
「『どこかに行きたい』と言われたら、できるだけ一緒に出かけてあげてください。20〜30分も歩けば、疲れて自分から帰りたがります」(遠藤医師)
徘徊への備えは、家族だけでなく、地域全体で取り組む時代になっています。
「たとえば福岡県大牟田市、群馬県沼田市、名古屋市などでは、認知症の高齢者が行方不明になった場合、警察を通じて自治体や協力事業者に一斉連絡が届き、地域ぐるみで捜索を行います」(遠藤医師)
特定の講義を受けて「認知症サポーター」という資格を取得し、登録しているサポーターの皆さんに、いなくなった人の捜索支援をお願いしている町もあります。こうした地域の連携は、徘徊による事故や悲劇を未然に防ぐ大きな力となっています。
徘徊は、認知症の人にとっては「目的のある外出」であることが少なくありません。その背景にある気持ちや習慣に目を向けながら、無理に止めず、できるだけ穏やかに寄り添うことが大切です。安全を確保するための対策を取りつつ、地域とのつながりも活用しながら、「安心して歩ける環境」を整えていきましょう。
Profile
遠藤英俊(えんどう ひでとし)医師
認知症専門医 聖路加国際大学臨床教授 名城大学特任教授

1982年滋賀医科大学卒業、87年名古屋大学大学院医学研究科修了。総合病院中津川市民病院内科部長、国立療養所中部病院(現・国立長寿医療研究センター)内科医長などを経て、国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長および老年内科部長を務め、2020年3月に退職。現在は聖路加国際大学臨床教授、名城大学特任教授。著書は『最新 ボケない! “元気脳”のつくり方』(世界文化社)、『よくわかる認知症Q&A ―知っておきたい最新医療とやさしい介護のコツ―』(中央法規出版)など多数。認知症、高齢者虐待問題、介護保険関連を専門とする。
本記事は日経Gooday「あなたの疑問に専門家が回答! 健康Q&A」に掲載された内容を転載・編集したものです
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