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認知症に挑む 革新と社会の絆

あなたの疑問に専門家が回答!

家族ができる認知症ケア——妄想・記憶の混乱・無反応への向き合い方

被害妄想や人物誤認にどう向き合うか

「水道や電気を隣の家から盗まれている」「孫が勝手に銀行からお金を引き出している」——家族としてはショックを受けるような言葉が、認知症の親から発せられることがあります。また、ある日突然、配偶者の顔がわからなくなる、何も話さなくなるといった変化にも、どう向き合えばよいのか戸惑う人も多いでしょう。認知症のさまざまな“感情の変化”に家族はどう寄り添うべきか、専門医の遠藤英俊医師に聞きました。

本記事は日経Gooday「あなたの疑問に専門家が回答! 健康Q&A」に掲載された内容を転載・編集したものです

被害妄想の背景にあるのは「不安」や「混乱」

 根拠のない思い込みや被害妄想が目立つようになると、家族としては「何を言っているの?」と反発したくなってしまうものです。このような状況では、家族の側がつい感情的になってしまいがちですが、「そこで一緒に怒ってしまっては逆効果。ケンカになってしまうと症状が悪化しかねません」と遠藤医師は言います。

 では、どう接するのが良いのでしょうか。

 「基本は、相手を否定せず受け入れることです。被害妄想の根底には、不安や混乱があります。まず、財布がなくならないよう、本人がすぐわかるところに置いておく。『財布を盗られた』と訴えるなら、『一緒に探してみようか』『誰かが間違えて持って行ったかもしれないね』と返してあげる。相手を落ち着かせるように関わることが大切です」(遠藤医師)

認知症の人が「家族に財布を盗まれた」と騒ぐことはよくある(イラスト:堀江篤史)

大切なのは「味方だと思ってもらうこと」

 認知症が進行すると、家族の顔がわからなくなる「人物誤認」が起きることもあります。夫を「知らない人」と思い込んだり、見知らぬ人が家に入ってきたと騒いでしまったり。そうした言動に、家族は戸惑い、時には怒りを感じてしまうかもしれません。
「人物誤認は、アルツハイマー型認知症でも見られますが、とくにレビー小体型認知症に多い症状です。症状を見極めるためにも、まずは専門医の診察を受けることが重要です」と遠藤医師は言います。

 レビー小体型認知症には「ドネペジル」や「抑肝散」など、特に効果があるとされる薬があります。人物誤認や被害妄想が出てくると、専門外の医師ではなかなか対応できなくなるため、認知症専門医に診てもらうことが大切です。今は全国に500以上の「認知症疾患医療センター」があります。

 人物誤認が起きたとき、つい「どうしてわからないの?」と詰め寄ってしまいそうになりますが、そこはぐっとこらえることが大切です。
「感情的にならず、できるだけ穏やかに接すること。こちらが声を荒らげるほど、相手はますます『この人は知らない人だ』と感じてしまいます。人格を否定するのではなく、『この人は味方だ』と思ってもらえる関係づくりを心がけてください」(遠藤医師)

 とくに夫婦二人きりの生活では、症状が強く出やすくなることもあるといいます。

「子どもが間に入ることで、本人の安心感が増し、状況が落ち着くこともあります。最近では、「パーソン・センタード・ケア(個人を中心としたケア)」という理念が介護現場で広がっており、これはご家族にも共有してほしい考え方です」(遠藤医師)

言葉が出なくなっても、感情は最後まで残る

 認知症が進行すると、次第に言葉が少なくなり、最終的には寝たきりになってしまうケースもあります。そのような状態になると、「もう、何も感じていないのではないか」と思ってしまうかもしれません。

 「確かに、外見上は無反応に見えるかもしれません。しかし、感情は最後まで残っています。お腹が空いた、悲しい、うれしいといった基本的な感情は、たとえ言葉にできなくても、確かに感じ取っているのです。諦めずに話しかけていると、ときどきニコッと笑ったり、反応することもあります。ぜひ、話しかける、音楽を聴かせる、手を握るといった形で気持ちを伝えてください」(遠藤医師)

まとめ

 認知症の人の言動には、しばしば家族を傷つけるようなものが含まれます。しかし、その奥には「不安」や「寂しさ」といった感情が隠れていることが少なくありません。怒らず、否定せず、そっと寄り添うことが、最も有効な“薬”になります。

Profile

遠藤英俊(えんどう ひでとし)医師
認知症専門医 聖路加国際大学臨床教授 名城大学特任教授

遠藤英俊(えんどう ひでとし)さん

1982年滋賀医科大学卒業、87年名古屋大学大学院医学研究科修了。総合病院中津川市民病院内科部長、国立療養所中部病院(現・国立長寿医療研究センター)内科医長などを経て、国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長および老年内科部長を務め、2020年3月に退職。現在は聖路加国際大学臨床教授、名城大学特任教授。著書は『最新 ボケない! “元気脳”のつくり方』(世界文化社)、『よくわかる認知症Q&A ―知っておきたい最新医療とやさしい介護のコツ―』(中央法規出版)など多数。認知症、高齢者虐待問題、介護保険関連を専門とする。

本記事は日経Gooday「あなたの疑問に専門家が回答! 健康Q&A」に掲載された内容を転載・編集したものです

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