2026.03.19 │ 東京都
令和7年度事業所防災リーダー優良企業に
認定された4社に学ぶ
従業員や利用客を守るための防災の取り組み

自然災害の激甚化やパンデミックなどにより、企業経営は常に不確実性と隣り合わせにある。事業停止は一瞬で企業価値を毀損しかねない。いま求められるのは、形式的な計画ではなく、実効性ある防災計画とBCPの実装である。経営戦略としての事業継続のあり方を考えてみる。
地震、豪雨、台風、感染症――企業活動を揺るがすリスクは、もはや例外的事象ではない。自然災害の激甚化や広域化、都市機能の高度集積化を背景に、ひとたび事業が停止すれば、その影響は自社にとどまらず、顧客、取引先、地域社会へと連鎖する。
防災計画およびBCP(事業継続計画)は、単なる危機対応マニュアルではなく、企業の持続性と信用力を左右する経営基盤そのものともいえる。
サプライチェーンの高度化とグローバル化が進む現代において、自社拠点が無事であっても、物流の寸断や部材供給の停止によって操業が止まる事例は珍しくない。加えて、情報伝達の遅れや判断の停滞は、実被害以上に企業価値を毀損する。災害対策を「コスト」や「保険」と位置付ける発想では不十分である。現代では、レジリエンス(回復力)をいかに設計するかが、競争優位を左右する時代に入ってきているといえるだろう。

従来の防災計画は、想定被害に応じて対応手順を定める静的な設計が中心であった。しかし、現実の災害は規模も範囲も予測を超える。重要なのは、すべてを想定することではなく、「想定外が起きても意思決定が止まらない仕組み」を構築することである。
その出発点は、優先事業の明確化にある。売上規模、社会的責任、顧客への影響度を踏まえ、停止できない中核事業を定義し、経営資源を集中させることが重要だ。人材、設備、資金、情報といった資源の代替手段をあらかじめ検討しておくことで、復旧のスピードは大きく変わる。代替拠点の確保、在庫の分散配置、複数調達先の確立などは、平時の経営判断の延長線上にある。
加えて、初動体制の整備は不可欠である。トップ不在時の権限委譲、指揮命令系統の明確化、安否確認の手段、対外発信の基準を事前に定めておくことで、混乱を最小限に抑えられる。
出典:内閣府「防災白書 事業継続計画(BCP)の概念」より作成
さらに、特に都市部の企業にとって現実的な課題となるのが「帰宅困難者対策」である。大規模災害時、交通機関が停止すれば多数の従業員が帰宅できなくなる。実際、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、外出先から帰宅できなかった人は、実に28.4%にものぼる(内閣府帰宅困難者対策の実態調査)。そこで、東京都などでは、無理な一斉帰宅を避け、原則として事業所内にとどまることを呼びかけている。一斉帰宅は道路の混雑や二次災害を招き、救助活動の妨げとなる可能性があるためだ。
そのため、企業側には従業員を一定期間受け入れる体制整備が求められる。目安として3日分の飲料水や食料、簡易トイレ、毛布などの備蓄、滞在スペースの確保、情報共有手段の整備が推奨されている。これは単なる防災配慮ではない。従業員の安全を確保し、心理的安定を保つことが、結果として迅速な復旧判断と事業再開を可能にする。都市型BCP において、帰宅困難者対策は、経営責任の一部と捉えるべきである。

多くの企業がBCPを策定済みとしている一方で、実際には保管されたまま更新されていないケースも少なくないという。せっかく時間をかけて整備した計画も、活用されなければ意味がない。日々の運用と改善を丁寧に積み重ねていく姿勢が重要だ。
第一に、定期的な訓練の実施である。机上訓練やシナリオ演習を通じて課題を可視化し、一つひとつ改善を重ねることで組織の実行力は着実に高まる。特に経営層が参加する訓練は、限られた情報の中で優先順位を判断する実践の場となり、意思決定の質を磨く機会にもなる。訓練を通じて、計画と現実のギャップを把握し、無理のない形で修正していくことが大切である。
第二に、経営戦略の変化に応じた見直しである。拠点再編や新規事業参入、組織改編などがあれば、リスク構造も変化する。BCP は一度作って終わりにするのではなく、経営戦略と連動して更新されるべき動的な仕組みと考えるべきだ。定期的なレビューを経営会議の議題に組み込み、継続的に点検する体制づくりが望ましいだろう。
第三に、サプライチェーン全体での連携である。重要取引先の事業継続体制を把握し、相互支援や情報共有の枠組みを整備することで、単独では補いきれないリスクをやわらげることができる。
単に計画書を作成するだけでなく、経営戦略として持続的に改善していくプロセスが必要出典:内閣府 防災情報「事業継続 初めての方へ」より作成

災害対応力は、投資家や金融機関の評価にも直結する。事業停止リスクを適切に管理し、復旧計画を具体的かつ実効性ある形で示せる企業は、信用力の面でも優位に立つはずだ。危機後に迅速な再開を果たした企業が市場シェアを拡大した事例も少なくない。取引先からの信頼確保や資金調達条件の改善といった効果も期待できるだろう。レジリエンスは守りの装備であると同時に、攻めの基盤でもあるのだ。
また、BCP の策定と運用は組織文化の醸成にも寄与する。部門横断でリスクを議論し、役割と責任を明確にするプロセスは、日常業務の効率化や意思決定の迅速化にも波及する。情報共有の質が高まり、平時からの連携体制が強化されることで、組織全体の一体感も育まれる。
防災計画とBCPは、単なる防災施策ではない。経営トップが主体的に深く関与し、現場と対話を重ねながら継続的に改善することで企業の持続的成長を力強く支える基盤となる。不確実性が常態化する時代において、レジリエンスは重要な経営資源でもある。危機は避けられないが、備えの質は着実に高められる。防災計画とBCP を経営に織り込むことが、持続的成長へのカギとなるだろう。

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