JX金属
7800億円超の大型上場。成長エンジンと描く未来図
最先端の技術力・供給力が
半導体にもたらす進化とは?
2025年3月19日、JX金属は東京証券取引所プライム市場に新規上場した。初値を元にした時価総額が7800億円を超える大型上場となり、投資家の注目が集まっている。なぜ同社がこれほど注目されているのか。成長の源泉は何か。上場の意義や目的、今後の展開も含め、代表取締役社長の林陽一氏に話を聞いた。
JX金属はなぜ上場を決めたのか。話は2019年に遡る。この年発表した「2040年 JX金属グループ長期ビジョン」で、半導体向けを中心とした最先端材料をフォーカス分野に設定。装置産業型から、技術を価値に変えるビジネスへの転換を掲げた。「すると従来とは経営判断やリスクの取り方などが変わってきます」。林氏は説明する。
「今回の上場により、高い専門性に基づく迅速な意思決定と果敢なリスクテイク、また当社の事業特性に応じた最適な資本構成などを可能にする形が実現しました」
JX金属 代表取締役社長 林陽一 氏 同社の「PR大使」カッパーくんとともに
市場の反響も大きかった。「これだけの企業が(上場せず)残っていたのかといった反応も少なからずありました。今後さらに対外発信を強化し、より多くの方に当社の価値や取り組みを知っていただきたいと思います」(林氏)
生成AIにデータセンター
最先端に不可欠な材料を提供
JX金属が得意とする半導体材料、特に生成AI向けなど最先端分野は成長が目覚ましい。半導体チップはシリコンウエハーの表面に薄膜を重ね、微細な配線パターンを構築して製造される。その薄膜の形成手法の一つ、スパッタリング法※1の工程で必要となる円盤状の金属材料が、スパッタリングターゲットだ(図1)。
※1 スパッタリング法…薄膜を形成するプロセスの一種で、真空状態の装置内でスパッタリングターゲットにアルゴンイオンを衝突させ、放出したターゲット原子/分子をシリコンウエハーやガラス等の基板に付着させることで、薄膜を形成する技術
■図1 半導体用スパッタリングターゲットとその用途シリコンウエハー上にトランジスタや配線層を形成するためのPVD*2プロセスで必要となる、高純度の金属材料。半導体製造に不可欠なこの材料において、JX金属は世界トップシェアを誇る
*1 JX金属の推計による *2 PVD(Physical Vapor Deposition)…物理気相成長法の略。熱やプラズマなどの物理作用を活用して薄膜を形成するプロセス
微細化はとどまるところを知らず、2ナノ(ナノは10億分の1)メートル半導体の量産化を巡り各社がしのぎを削る。スパッタリングターゲットに求められるのは高純度。わずかな異物の混入で配線が断線する恐れがある。同社は99.9999999%と極めて高純度の銅を作ることができる技術力をベースに、高品質なスパッタリングターゲットを生産している。
同社は供給力にも定評がある。資源の調達から製錬、研究開発、製造、分析・評価、リサイクルまで一貫して行う。「それぞれ高い技術力を持ち、かつ一体化を実現している点が評価されています」(林氏)
高品質を支えるのが半導体装置メーカーとの信頼関係だ。半導体ターゲットはスパッタリング装置に装着し、装置と一体化した形で機能を発揮する。各メーカーは装置をリリースする際、所期の性能を発揮し得るターゲット材を標準材料として指定する。同社は半導体装置メーカーを満足させる世界トップクラスの技術と開発スピード、高品質を保証する優れた分析評価能力を有する。装置メーカーから高い評価と信頼を得ることで、同社製品が最新装置の標準材料に指定される地位を獲得できるのだ。
■図2 米国アリゾナ州の新工場複数の半導体メーカーが拠点の新設・拡張に取り組むアリゾナ州にて、2024年11月に新工場を開所。本格的な量産開始に向けて準備を進める
■図3 インジウムリン(InP)基板データセンターの伸長を背景に、InP基板は光通信用の受発光素子の材料として高い成長が見込まれる
半導体メーカーとの信頼も厚い。優秀なサプライヤーとして各社から表彰を受ける。スパッタリングターゲットは国内生産だが、最終的な機械加工は半導体メーカーの拠点がある米台韓でも実施し、安定したデリバリーを担保(図2)。日本人技術者が常駐し、迅速に技術的サポートも行う。その性能や供給力、サービスが評価され、スパッタリングターゲットの世界シェアは約6割を占める(図1注)。
■図2 米国アリゾナ州の新工場複数の半導体メーカーが拠点の新設・拡張に取り組むアリゾナ州にて、2024年11月に新工場を開所。本格的な量産開始に向けて準備を進める
加えて生成AIサーバーが必要とする材料に、インジウムリン(InP)基板(図3)がある。生成AIの処理には膨大なデータの瞬時な連携が必要となるため、データセンター内では大容量・高スピードの情報通信を実現する光通信技術が利用される。InP基板はここで活躍。今、需要が急増中だ。
■図3 インジウムリン(InP)基板データセンターの伸長を背景に、InP基板は光通信用の受発光素子の材料として高い成長が見込まれる
生成AIサーバー用途では他にも多くの材料をそろえ、いずれも高いシェアを誇る。高速伝送用コネクタに用いられるチタン銅。データ量の加速度的な増加を受けて需要が伸びるハードディスク用スパッタリングターゲット。GPUへ安定的に電力を供給する高純度タンタルなど。「さらに今後は、生成AIが蓄積したデータを活用できる高性能なデバイスの普及が、当社の成長エンジンの一つになると期待しています」(林氏)
既にその目は次世代へ
生産体制も積極強化
次世代を担う材料の開発・生産も進める。半導体は微細化に加えて多層化も進む。コスト面で有利なスパッタリングターゲットは多くの配線形成に利用されるが、下層の奥深い部分では形成が難しい。そこで活躍するのがCVD※2・ALD※3というプロセスだ。最先端半導体はスパッタリングとCVD・ALDを組み合わせて製造する。
同社は次世代半導体向けCVD・ALD材料における急速な需要増に対応すべく、供給体制の強化に着手。製品群の拡充を目指し開発も進める。将来的にはスパッタリングターゲットのような、先端材料事業の核となる製品群への成長に期待がかかる。
後工程(半導体チップを基板に実装するパッケージング工程)の分野にも取り組む。「当社の材料は後工程でも活用できます。マーケティングや開発を推進すべく新組織を設置しました。次世代の経営の柱の一つに成長させることを目指しています」(林氏)。長期的には総合半導体材料メーカーとなることを目指す。
上場以後、投資家をはじめとしたステークホルダーからは今後の事業成長だけでなく、企業ポリシーへの関心も高まっている。こうした中、同社は新たにグループフィロソフィーを策定。「価値をつくる。未来をつくる。技術で、情熱で、創造力で」――そこには創業時からの精神が生きる。林氏は「当社は常に『より良い社会とは何か』を問い続け、真に社会の求めるものを提供するという姿勢を貫いてきました。今後も価値創造を続け、未来を切り開いていきたい」と語った。
※2 CVD(Chemical Vapor Deposition)…化学気相成長法の略。化学反応を活用して薄膜を形成するプロセス
※3 ALD(Atomic Layer Deposition)…原子層積層法の略。原子層レベルで膜厚を制御して薄膜を形成するプロセス
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