高砂熱学工業
クリーンルームから始まる日本の半導体戦略
工場の進化を支える
注目の成層空調システム
最先端半導体の国産化を目指すラピダス。クリーンと省エネルギーを両立するために採用されたのが、高砂熱学の成層空調技術だ。壁面から冷気を吹き出す方式は、半導体製造における天井面の有効活用を実現するなど、お客様の生産性向上にも貢献。自然原理を応用した空調が、日本の半導体製造を支える。
2025年7月、ラピダスは回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートル半導体の試作に成功。着実な一歩を示した。半導体製造では塵や埃は致命的結果を招く。クリーンな環境を保つ空調は重要だ。しかしクリーンルーム環境に対する要求レベルは20年前から大きく変わっていないと、高砂熱学工業エンジニアリング事業部産業設備3部長の松岡慎氏は指摘し説明する。
ラピダスへの納入もあり、導入面積は飛躍的に拡大を続けている
「半導体工場では、ウエハーを密閉型容器に格納し装置に自動搬送するため、ウエハーがクリーンルームの空気に直接触れることはありません。いわば、半導体製造装置内が“スーパークリーンルーム”になっている状態です。空調トレンドは局所化とともに、生産装置のフィルター寿命確保やメンテナンス時の環境維持を想定した空調の最適化が進んでいます」
脱炭素社会に向け、消費電力削減は避けて通れない。半導体工場の規模拡大に伴い、クリーンと省エネルギーの両立がますます求められる。これに応える技術として、同社の空調システム採用が急速に進む。
空調方式には大きく2種類、混合型と成層型がある。混合型は天井から冷気を吹き出し、空気を混ぜ合わせる。成層型は冷気が下降し暖気は上昇するという自然現象を利用する。
高砂熱学工業 エンジニアリング事業部 産業設備3部長 松岡慎 氏
省エネ要求と工場の進化に
次世代型の空調方式で対応
「混合型は全体を空調するため、多くの電力が必要です。塵などが舞うリスクもあります。成層型は作業領域のみ空調を行い、熱上昇気流により装置(発熱体)で暖められた空気と一緒に塵などを天井側から排出。清浄度を保ちながら、効率的な空調で省エネルギーを実現します。当社試算では、混合型と比較し成層型はCO₂排出量を約50%削減できるとの結果が出ました」(松岡氏)
生産効率向上を続ける半導体工場の進化も、成層型の導入を後押しする。大空間に密集した装置間の発熱量増大は、熱上昇気流を生みやすい。また半導体自動搬送が走る天井のレールが高度化・複雑化を増す中で、天井から冷気を吹き出す混合型の適用は難易度が高まる。加えて天井に空調装置を設置すると工期もかかり、メンテナンスには手間と危険を伴う。壁に沿って設置する成層型は、短期間での工事、安全なメンテナンスを実現する。
「混合型の限界を感じた半導体工場において、成層型のニーズが増加しています。空調業界でもそれに応える動きが活発化していますが、一朝一夕にできるものではありません」と松岡氏は率直に話す。
世界の量産化競争に
独自の空調技術で寄与
成層空調は空気を吹き出す速度が鍵を握る。速いと空気が攪拌され、熱上昇気流が起きにくい。遅いと非効率になる分空調システムが大きくなり、作業領域を圧迫する。熱上昇気流を上手に活用するために、高砂熱学工業が開発したのが旋回流誘引型成層空調システム「TCR-SWIT®」だ。その仕組みを松岡氏は説明する。
■図1 SWIT®の模式図熱上昇気流と旋回流を利用して省エネ・省コストを実現。このシステムをクリーンルーム用に適用したのがTCR-SWITである
「ポイントは空気の渦を生み出す旋回流です。複数の羽で構成される独自吹き出し口から供給される冷気は周囲の空気を巻き込み、熱上昇気流で上方に引っ張られて室内に行きわたります(図1)。旋回流がない状態では冷気が下に降りてしまい、温度分布が上手につくれません」
クリーンルームでは、装置の配置や密集度によって必要な空気量が変化する。「実験とシミュレーションを繰り返し、知見を蓄えてきました。当社は工場の規模、仕様など様々な要件に応えてまいります」(松岡氏)
エネルギー効率の向上も図れる。作業領域を旋回流で直接空調するため、従来よりも高い送風温度で空調できる。空気を冷却する冷水も高温化が可能となり、冷凍機の高効率運用が見込める。さらに、成層空調により熱を吸収して暖まった空気は加熱時に再利用できる。
「クリーンルーム内は23℃、湿度は40~45%を通年で維持することが必要です。通常、ボイラーやヒートポンプを使って真冬の外気も加熱・加湿しクリーンルームに送ります。その加熱・加湿に、成層空調で暖まった空気から温水を作り出し活用します。TCR-SWITは冷熱も温熱も省エネルギーを実現(図2)。寒冷地にあるラピダス(北海道千歳市)でも大きな効果が期待されています」
■図2 従来型とTCR-SWIT®の比較図TCR-SWITは天井と床下のスペースを抑え、建築コストを最適化。空間を有効活用できる。従来型では空間全体で温度が均一だが、TCR-SWITは作業領域に当たる保証領域内に絞って温度や清浄度を制御。効率的に運用できる
2ナノ半導体量産化は、世界でまだ実現されていない。競争は激しさを増す。ラピダスは日本の半導体復活の象徴であり、経済安全保障の観点でも重要だ。量産化を支える空調が担う役割も大きい。
今後の展望について松岡氏は話す。「ユニット最適化によるコスト低減、消費電力削減と騒音対策を実現する高効率ファン採用など、TCR-SWITの改良が重要テーマです。改良ワーキングに研究員はもとより現場の若手人財も参加し、スキル向上につなげています。半導体自動搬送メーカーとの共創も推進中です」
高砂熱学工業は「環境クリエイター®」として、クリーンと省エネルギーを両立する先進空調技術で半導体産業の発展を支えていく。
省エネ・省CO₂・省コスト 高精度環境を超短工期で構築「TCR-SWIT®」の詳細はこちら