
井上 哲浩慶應義塾大学ビジネス・スクール教授
日経BP Marketing Awards 2021
COVID-19禍でも輝きを失わない
マーケティングの4側面
COVID-19の影響を受けた、審査委員会となった。すべての人が、生活者としてCOVID-19禍による影響を受けている。B2Bにせよ、B2Cにせよ、COVID-19禍にある受け手を考慮して、マーケティング戦略を構築しなければならなかった。そして、もうしばらくは、考慮し構築しなければならないであろう。講評を著すにあたり、共有させていただきたい側面が4つある。
第1の側面は、タイアップである。以前から、雑誌、新聞、Web、イベント、白書系、セミナー、Email、ブックレットなどのタイアップは行われてきた。強調したいのは、その背後にあるデータベースである。ビッグデータが注目されてから15〜20年が経過し、各社の担当者がその有効な活用方法に関する知見を蓄積した今、そしてCOVID-19の影響によりWebinarが一般化し時間的地理的な制約が低下した今、適切なターゲットを識別し、適切なメディア選択を行い、それらを適切に統合するタイアップの有効性を共有させていただきたい。
第2の側面は、リアリティ技術である。5、6年前からリアリティ技術に注目し、AR(拡張現実)をマーケティング・コミュニケーションに適用する実験の結果などの論文を公表してきた。当時から、ARとVR(仮想現実)が融合したMR(複合現実)をマーケティングに適用する時代がすぐに訪れることは予見していたが、COVID-19の影響により2020年はMRマーケティングの第1期とも言えよう。生産や研修に加え、コミュニケーション、製品紹介、デモンストレーション、疑似体験など、MRマーケティングの可能性を共有させていただきたい。MRデバイスを用いたマーケティング、カメラ・シーンやカメラ・アングルを意識したマーケティングが、さらに発展していくと期待している。

第3の側面は、SDGsである。17の目標と169のターゲット(具体目標)からSDGsは構成されているが、その17の目標のうち、特に、「4すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」「5ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」「8包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」「11包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」という4つの目標に関連したマーケティング活動が、印象に残った。SDGsは、2015年に開催された国連サミットにおいて、誰ひとり取り残さないことを目指し、2030年までに達成すべき目標として採択されたものであるが、企業戦略においてどのように考慮し反映させるかに関しては、統一的に共有された考えはないのが現状であろう。この現状とともに、しかしながら留意すべきであることを共有させていただきたい。
第4の側面は、SDGsの制作に関する側面である。SDGsの諸側面を訴求したマーケティング・コミュニケーションや戦略的広報が上述の第3の側面であるが、制作においてもSDGsの諸側面に留意されていることを共有させていただきたい。ジェンダー平等が実現されていない表現は、残念ながら、依然として散在している。教育機関に奉職させていただいている現状から、教育格差に目を向けていない表現ではないかと、時に疑ってしまうことがある。取り残された立場、取り残してしまうかもしれない立場、取り残しに遭遇している立場などメタな視点の肝要性を共有させていただきたい。
広告市場の縮退が危惧されている昨今、グランプリとなったジェイアール東日本都市開発「TOKYO UNDERLINE VISION」、金賞の兵神装備「子どものつぶやき×ヘイシン モーノポンプ」とリテルヒューズ「EV向け車載デバイス製品のバーチャル展示会」、そして銀賞の7点は言うまでもなく、審査対象となったすべての作品が、いずれも素晴らしく、COVID-19のネガティブな側面をかき消す秀逸さに満ちていた。現状そしてアフターのマーケティング戦略に大きな希望と示唆を与えてくれたAwards審査会であった。
井上 哲浩(いのうえ・あきひろ)
慶應義塾大学ビジネス・スクール教授
1987年関西学院大学商学部卒業。89年同大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。92年同後期課程単位取得中退後、96年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で経営学博士号取得。関西学院大学商学部専任講師、助教授、教授を経て2006年から現職。専門はマーケティング・マネジメント、マーケティング・サイエンス、マーケティング・コミュニケーション・マネジメント ◇主な著書『小売マーケティング研究のニューフロンティア』(共編著、関西学院大学出版会)2015、『マーケティング』(共著、有斐閣)2010、『戦略的データマイニング-アスクルの事例で学ぶ』(共著、日経BP)2008 他