講評

審査委員講評(敬称略・五十音順/所属・役職は審査会時点)

  • 石井 昌彦

    石井 昌彦

    博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員

     ちょうど1年前から始まったWith Corona時代。誰も経験をしたことのない状況の中で企業活動はニューノーマルという状態をつかむべく模索を続けている。したがって各企業のマーケティング活動においても激変が現在進行形で起こっているのだと思う。広告について一回立ち止まる企業も多々。確かに今年度のエントリー数は減少という説明が事務局からあった。しかし、だからこそ今回の受賞作品は、広告の環境変化に向き合った新しいマーケティングチャレンジのショートリストとして、時代の記念碑になるものだと思う。感染対策に万全を期して行ったリモート併用の審査会もクラフト視点やマーケティング視点だけではないソーシャルな視点が前景化して白熱したものになった。金賞のリテルヒューズの「バーチャル展示会」はリアルイベントができない時代に向けての企画だし、銀賞の「キリンホームタップ」はおうち時間増大、マクドナルドの「ほんのハッピーセット」は子供との触れ合い方、ロート製薬は長時間リモート作業という、2020年の変化を素早く反映したテーマ設定になっている。さらにはキリン午後の紅茶の「SDGs」やユニリーバの「ウーマンエンパワーメント」もソーシャルテーマに真正面から取り組んだ好事例となった。個人的には女性の取り扱いについてのケアや、緊急事態宣言下での企業メッセージのあり方など、非常に気づきの多い審査会であった。グランプリのジェイアール東日本都市開発についても熱い討議の結果であることを記しておきたい。日経BPマーケティングアワードのニューノーマルも、もう始まっているのだという感想を持った。

  • 石崎 徹

    石崎 徹

    専修大学 教授

     第7回「日経BP Marketing Awards」の審査会に臨んだ。今回の審査も昨年に引き続き、評価の高いものから「グランプリ」「金賞」「銀賞」となった。今回も選りすぐりのエントリー作品ばかりで、純広告、Web、タイアップ、多メディア展開など多様な展開方法が取られていた。コロナ禍の状況を反映した作品も数多くあった。また、コロナ禍での審査という特殊事情も鑑みながら、忌憚のない意見を出しながら慎重に審査を行った。

     グランプリに輝いたのは、ジェイアール東日本都市開発の「TOKYO UNDERLINE VISION」である。『日経ビジネス』と『日経ビジネス電子版』で年間6回のシリーズ広告を展開し、同社の30年間にわたる実績と想いを伝えている。何よりも手書きのイラストを導入したクリエイティブが目を引く。手書きのイラストはまさに必ず目に留まり、思わず読んでしまう。そして、このような事業、都市開発をしている会社なのかと内容もよくわかる。しかし、「建築探訪」で出てくる建物や「まち」が、これまでもとても身近にあったものであり、それを同社が手掛けていたのかという気付きを与えてくれる部分の効果が大きい。私もつい最近、阿佐ケ谷駅から高円寺駅までの高架下を歩いたばかりであったので、「にぎわいのバトンを高架下でつなぐ」編はとても興味をもって読んだ。

     新型コロナが収まったら、ここで紹介されているところへのんびりと出かけたくなる気持ちにさせてくれる。

  • 大越 いづみ

    大越 いづみ

    電通グループ 取締役・監査等委員

     これまで、年1回の「日経BP Marketing Awards」は、ビジネスパーソン向けコミュニケーションを通じて、マーケティングの課題と手法のトレンドを定点観測する機会であった。しかし、2020年の審査において注目したのは、環境変化への対応力。コロナ渦で大幅な見直しを迫られたマーケティング活動において、短期的には「リアル→バーチャルへのシフト」「チャンスにおける加速」、中長期的には「グローバル基準への適合」を見ることができた。

     展示会や対面による商談機会を失ったB2B企業は、代替策のスピードとクオリティの両方が求められた。リテルヒューズ社による「EV向け車載デバイス製品のバーチャル展示会」、日本マイクロソフト社の「HoloLens」は、コンテンツもインターフェースも高いクオリティに仕上がっており、蓄積してきた知見や経験を感じさせるものだった。

     働き方、ライフスタイル、様々な価値観の変化をビジネスチャンスとしたマーケティング活動も活発になった。機を捉えて加速させるB2C企業。ターゲットとメッセージをピンポイントに絞り込む選択と集中のB2B。そこに企画力や表現力が加わった優れた作品に出合うことができた。日本マクドナルド社の「ほんのハッピーセット」は、ステイホームで戸惑う子育て世代にとって価値ある活動になったとして評価された。

     ジェイアール東日本都市開発「TOKYO UNDERLINE VISION」は、グラフィックとWEBサイトのいずれも高いクオリティであった。都市の価値、働く場・暮らす場が再考されはじめた状況下で、再開発の成果を身近な街の魅力として訴求。鉄道部門が移動制限による大打撃を受けている中で、グループ事業のポートフォリオマネジメントの視点からも着目した作品であった。

     なお、企業の「対応力」という点では、スピードと同時に、さらに高いコンプライアンス意識が求められていることを再認識した。米国で始まった「BLM運動」、日本における「女性蔑視発言」、さらには、コロナ渦で求められる慎重な行動様式など、あらゆる角度からマーケティング活動を点検・再考する必要に迫られており、今回の受賞作品にも注意すべき課題があったことを付記しておきたい。

  • 小林 弘人

    小林 弘人

    インフォバーン 代表取締役CVO

     世界的な新型コロナウイルスの蔓延により、経済的な落ち込みを痛感する重苦しい状況のなか、はたしてこの「Marketing Awards」のようなものにはどのような使命が課せられているのか、改めて考える機会となった意義は大きい。わたしが着目したのは、コロナ禍を反映した広告はもちろんだが、昨今の米大統領選で見られた人種間の対立や全世界的な課題となる気候変動問題にどう取り組むのか、加えてジェンダー平等や多様性、社会的弱者の包摂について企業のコミットメントである。それは、大きな意味でのヒューマン・ウェルビーイング(人間の幸福)の追求についてであり、未曽有のパンデミックを経験した世界は、今後の企業活動についてもそれを期するだろう。

     ユニリーバ・ジャパンのLUX Social Damage Care Projectは、男女格差について扱う。女性オピニオン・リーダーたちの視点から日本の現状と女性の痛み、そしてこれからの幸せについて論が展開される。企業の商品やサービス訴求ではなく、この問題と社会をつなげるための広告であることを高く評価したいし、今後同社のようなやり方でユーザーを支援する企業は少しずつ増えるだろう。その意味でこの作品を個人的には強く推す。加えて、先述の文脈ではキリンホールディングスの「午後の紅茶」による、スリランカの紅茶農園と行う持続可能な農業支援についても評価したい。同社が環境保全や労働者保護を盛り込むレインフォレスト・アライアンス認証を取得している意義を伝えることは重要だ。SDGsもさることながら、CSR(社会的責任)についての理解が消費者にも進むことで、ブランドや商品に対する印象も変わる。それにより企業活動も近視眼的にならないことを期したい。

  • 酒井 光雄

    酒井 光雄

    マーケティングコンサルタント

     COVID-19が引き起こしたパンデミックは、日本をはじめ世界に深刻な影響を与えた。嵐が収まるまで静観する企業がある中、この危機に新たな仕組みやプラットフォームを考え出し、需要を掘り起こす企業も存在する。

     1927年に創立され自動車用ヒューズ産業を牽引するリテルヒューズは、リアルの展示会が開催できなくなった事態を打破するため、ネット上でバーチャル展示会を創出した。

     上質なビジネスパーソンを読者に持ち、800万人の日経ID会員の購読者データが活用できる日経BP社のメディアの中から、同社は日経クロステックを選び、タイアップ企画としてこの課題に取り組んだ。

     サイトページに設けられたアイコンをクリックすれば、項目別にテキストと動画が閲覧でき、個別資料がダウンロードできる。あたかも展示会に訪れたような仕組みだ。この結果、見込み顧客リストと160件のリード獲得に成功している。3密回避のためにイベントは自粛され、多くのビジネスパーソンがテレワークに勤しむ中、新たなプラットフォーム開発につなげたことが金賞受賞につながった。

     グランプリを受賞したジェイアール東日本都市開発の「TOKYO UNDERLINE VISION」は、過去30年間の同社の実績と次世代に向けて挑戦する姿を巧みなイラスト表現を使い、目に留まり必ず読ませることに成功している。

     金賞を受賞した兵神装備は、訴求するメディアを日経ものづくりに絞り込み、表現方法に知恵を使った純広告を長期間に亘り継続的に展開してきた。その結果、同社の広告表現を楽しみにする読者が現れ、同社ファンを効率的に生み出している。

     企業のコミュニケーションは、世相を如実に反映する。コロナ禍で不安を煽る報道があふれる中、未曽有の事態を乗り越えようとする企業の取り組みは、人と社会に力を与えてくれる。

  • 裵 英洙

    裵 英洙

    ハイズ 代表取締役

     今回は悩みに悩んだ…。

     新型コロナ感染症が拡大し、世間では不安心理や自粛ムード、後ろ向きな気持ちがまん延する中で第7回「日経BP Marketing Awards」が開催された。そんな空気を吹き飛ばすべく、クリエイターたちは企業活動を通じて明るい未来と新たな希望を醸し出そうと、多くの秀逸な作品を生み出し、ひとつの文字、ひとつのイラスト、ひとつの写真に込められた熱意や思いが全ての作品にもれなく溢れていた。

     ただ、新型コロナ感染症の社会不安やざわつき感が我々の思考の底に沈殿し、感染拡大防止が叫ばれる中での評価のため、社会活動の拡大を基本とする企業活動の推奨を前提とした評価軸が果たして是なのかどうか、この時代ならではの新・評価軸を構築する必要性があるのかどうか、大いに悩んだ第7回でもあった。

     その中でグランプリに輝いたのは「ジェイアール東日本都市開発」である。線路高架下の再開発による街の活性化を謳った企画には感染終息後の近未来の華やかさが感じられ、本来街が有するエネルギッシュな活気を、ある意味ノスタルジックに再覚醒させる企画であった。ターゲットに対する戦略眼と創造眼の両視点からの創意工夫が散りばめられた秀逸な企画であり、アフターコロナを見越して街の賑わいが戻ってほしい、皆で取り戻そう、という気概と願いが受賞理由に込められた。

     そして、多くの作品が金賞・銀賞を獲得したが、特に印象的であったのは銀賞に選ばれた「ロート製薬」だ。“目薬”という日常に溶け込んでいる商品を各界著名人の勝負する“目”を守る武器として再定義し、コロナ禍で多くの人が在宅ワーク等でPCやスマホで目を酷使せざるを得ない時代への強烈なメッセージを高く評価したい。

     マーケティングは世相を表す代名詞とも言える。新型コロナ感染症への不安感や焦燥感はあるものの、今回のAwardsが我々がそれにいかに打ち勝っていったかの軌跡を記すものでもありたい。

  • 本荘 修二

    本荘 修二

    経営コンサルタント/多摩大学(MBA)客員教授

     コロナ禍に直面する中、様々な視点で候補を見つめ、上位受賞作品にも厳しい意見が交わされる闊達な議論となり、緊張感ある審査を楽しむことができた。

     グランプリ受賞のジェイアール東日本都市開発は、工夫した自社紹介コンテンツによるシリーズで、これを起点にした展開も計画。同社初の企業広告だが、よく考えられている。

     金賞のリテルヒューズは、オンライン展示会を分かりやすい形で示してくれた。これはコロナ禍への対応策として他社にも参考となる好例だ。

     もう一つの金賞の兵神装備は、本コンテストの常連であり、継続した広告への取り組みが際立っている。本作品では、目新しさはないが直球ど真ん中のクリエイティブを見せてくれた。

     銀賞は、コロナ禍下でのニーズに応えるキリンビール(家飲み)やマクドナルド(子育て)、SDGsに取り組むキリンホールディングス/午後の紅茶、ジェンダーがテーマのユニリーバ・ジャパンなど、いまの時代の要請に応えたものが多く選ばれた。

     時機を見て行動することがかつてなく大切になっている表れだ。しかし、例えばジェンダー問題は世を騒がせたが、これは危機にもなりうることを忘れてはいけない。先を見て尖ると同時に、適切なバランス感覚も求められている。

     また、銀賞のデル・テクノロジーズ、日本マイクロソフト、そしてロート製薬は、(コロナ禍によるリモートワークなどIT利用と関係はあるが)特にこうした課題と直結せず、基本的な広告自体の訴求力を高めようという取り組みとして、評価したい。

     激動の時代となり、さらに真価が問われよう。これから一年の新たな広告へのチャレンジを期待したい。

  • 吉村 靖孝

    吉村 靖孝

    早稲田大学 教授

     建築界隈ではお馴染みの宮沢洋画伯による文章と絵を大々的に取り上げた「TOKYO UNDERLINE VISION」(ジェイアール東日本都市開発)がグランプリを受賞したことは、建築分野の専門家として審査員の末席に加えていただいている私にとって素直に喜ばしい出来事だった。ウェブブラウザの画面上で手書きの文字を辿る経験はかえって新鮮だし、高架の真下というどこにでもある身近な施設の再評価を促すアイデアは、遠出ができないコロナ禍の時節を的確に捉えた妙案である。他の審査委員からの評価も総じて高くそれが受賞につながったわけだが、一方で、自粛が基本のこの時期に旅への憧憬を焚きつけるのはいかがなものかと反対意見もあがった。今年は、他にも広告主の社会的責任に対する各審査員の解釈が割れ、例年になく議論が白熱した作品がいくつもあった。性別・国籍・人種によるマイノリティ差別、ルッキズム、経済格差、環境問題、そして感染症に絡む自粛警察など、分断を煽りかねない難しい課題が山積する時代だが、より良い社会の実現に向け脱皮する好機と捉え、政治的正しさにおもねることなく、問題を浮き彫りにするようなアプローチを私は歓迎したい。多くのひとの目に触れる広告は、使いようによっては、そういった分断を再縫合するような力を持ち得ると思うのだ。単にひと目を惹き所有欲を満たすための広告は、もはや過去のものになったのだと強く感じた審査会であった。

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