講評

審査委員講評(敬称略・五十音順)

  • 石崎 徹

    石崎 徹

    専修大学 教授/日本広告学会 会長

     第10回「日経BP Marketing Awards」の審査会に臨んだ。今回の審査は例年通り、評価の高いものから「グランプリ」「金賞」「銀賞」となった。毎回ではあるが、選りすぐりのエントリー作品ばかりで、純広、Web、タイアップ、多メディア展開など多様な展開方法が取られていた。綿密に練られた企画力によって内容も濃く、高いマーケティング効果を発揮している。さらに、デザイン性、インパクトで抜きんでている作品もあり、評価のポイント作りに悩まされる優れた作品ばかりである。最後はハートを射抜くような、「いいものはいい」というスタンスで審査を行った。

     グランプリに輝いたのは、日経ビジネス電子版に掲載された、国際協力機構(JICA)の「池上彰と知る ウクライナと世界の未来と私たち」のWebタイアップである。ウクライナ危機に端を発する世界的な課題について、池上彰氏が取材し、日本がどう向き合うかを考え、日本の国際協力でどのような貢献ができるかを発信している内容である。重たい問題であるが、思わず読んでしまうほど内容構成がしっかりしている。

     デザイン、コンテンツともにグランプリで申し分ない作品であるが、さらに今回この作品がグランプリに選ばれたという事実がこのアワードの新たな方向性を示したのではなかろうか。世界的な課題に対する国際協力というテーマがこのアワードに選ばれたという点である。ビジネスやマーケティングが人類および世界的な課題、国際協力という点まで視野に入れたという意味で、今後のこのアワードの進む道筋を切り拓いたといえる作品でもある。

  • 大越 いづみ

    大越 いづみ

    電通グループ エグゼクティブ・アドバイザー

     本審査会は、日経BPが提供する多様なメディアを活用したコミュニケーションを通じて、事業者が抱えるマーケティング課題と解決手法のトレンドを定点観測する機会である。昨年はコロナ禍直後の混乱や経済低迷を脱してビジネスの着実な成長のための具体的ソリューションを訴求する企画に注目したが、今年は、現在の社会が直面する大きな課題に正面から向き合う企業のチャレンジや解決力を示す企画がいくつも登場した。

     グランプリを受賞された国際協力機構(JICA)は、ウクライナ危機を端とする世界的課題を池上彰氏が取材する骨太なリポートである。これを支えたのは、世界各地で活動するJICAの現地担当者の独自の情報や経験であり、国際社会において様々な貢献を果たす活動の一端を垣間見る企画として高い評価を集めた。僅差で金賞となったHacobuは、社会課題である「物流2024年問題」に対して、DXで解決を目指す企業であることを伝えるブランドコンセプトの純広告シリーズである。コピーとグラフィックによる課題提示力は鮮やかであり、卓越した作品であった。

     異色の広告主として着目したのは色彩検定協会である。色覚の多様性を認め、配慮が求められており、色のユニバーサルデザインの普及啓発と色彩検定を訴求する日経デザインのタイアップ企画である。わかりやすい解説と効果的な図表類により、デザインに関わる読者に伝える力を持つ作品となった。

     常連となった地域創生に関する企画の中では、新潟県の「地域と企業をつなぎ共創するチャレンジ新潟」の企画力が評価された。これは、県内各地の課題を提示し、課題解決につながる事業創出を目指す企業の応募を促してマッチング機能を果たす仕組みである。実際に応募した企業との間で始動した事業化のプロジェクトについて、今後の動向や成果も見守りたい。

     なお、本審査会では、生成AIを使用した編集記事などが登場する可能性とその評価のあり方に議論が及んだことも追記しておきたい。

  • 小林 弘人

    小林 弘人

    インフォバーン 代表取締役CVO

     来日観光客の数はコロナ前の水準までほぼ復調し、日経平均株価は過去最高値を記録するなど、経済が活況を示している。一方でロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナで進行中の戦争は、確実に世界に暗い影を落としている。今回、コロナ禍を克服して次のステージに歩を進めた組織や社会のありようが、どのように広告表現として活写されるのかと期待を寄せて臨んだ。

     第一にグランプリを獲得した国際協力機構(JICA)は、おそらく誰もが認める力作である。その情報量と深さにおいて他の追従を許さない。同機構の情報収集力と分析力がいかんなく発揮された事例ではないだろうか。ジャーナリズムと広告表現がこのように融合した本作のような事例こそ、時代が求めたものだろう。

     金賞のHacobuは、物流の今日的な課題と解決策を提示する一方、面白いと思った点は、洗練されたビジュアルとコピーライティングによる“古き良き広告”であることだ。これが審査会で支持されたということは、時代がいかに変わろうが、制約のある面積の中で読者の共感を呼び込むには、「ド直球」で良いのだよ、というメッセージになろう。

     最後に「新潟県」の作品について述べたい。わたし自身、仕事で地方自治体の課題を解決すべく奔走する機会が多いが、自治体自らが各地域の課題をリスト化し、そこに協働する企業等を募集するというこの仕組みは、まさにエポックメイキングであると膝を打った。そのような作業を仲介する企業も登場しているが、自治体自らがそれを行ったことは、今後記憶しておくべきだろう。これこそ現代広告の最新にして最良の事例だと考える。

  • 酒井 光雄

    酒井 光雄

    マーケティングコンサルタント

     ビジネスで決定権と決裁権を握る読者を擁する日経BPは、他にないコミュニケーションステージを企業に提供する。

     その一方、ビジネスのキーパーソンを顧客に設定し、行動を促す情報価値を創造するには、時代を読む力が企業に問われてくる。

     今回の受賞作品は自社都合のコミュニケーションアプローチに終わらず、社会課題や国際情勢といった社会的関心事に対する自社の役割とその取り組みがメッセージ化され、作品として仕上がっている。こうしたコンテンツは、過情報社会の中で必要な情報を読者が選別することに繋がる。

     グランプリを受賞した国際協力機構(JICA)の作品は、他国に武器を供与できない制約の中で、日本がどのような支援を世界で行っているかについて詳細に知る機会を提供した。

     EU(欧州連合)加盟の条件のひとつだった国営放送の公共放送への再生、電力・通信・交通網など重要インフラに対するサイバー攻撃対策への支援、避難民のためのIT研修、地雷や不発弾を撤去する専用車両の供与と人材育成研修の実施、日本が震災で得た知見と経験を活かしたがれきの適正処理と再資源化、サイバーセキュリティー能力を向上する専門人材の育成と攻撃を受けた際の連絡体制の構築など、国内のメディアでは報道されることのない日本の支援策を知る貴重な場になっている。

     金賞を受賞したHacobu社の純広告は、2024年の物流問題という社会的関心事と自社の社会的使命を連動させ、秀逸な表現方法によって伝えたい意図を瞬時に理解させた。広告主と日経BPの担当チームによって優れたクリエイティブ作品が内製された点も評価された。

     社会課題や国際情勢を踏まえ、誰に、自社の価値と役割をいかに伝えるのか。そのひとつの解を得られたことが、今回の審査会の最大の成果だった。

  • 瀧川 千智

    瀧川 千智

    博報堂DY メディアパートナーズ 新聞雑誌局

     今年度のグランプリ、国際協力機構(JICA)「池上彰と知る ウクライナと世界の未来と私たち」はジャーナリズムに基づいた日経BPらしさと時代性を象徴する作品だと思った。そもそも雑誌にはカルチャー系やファッション系などがあるが、日経BPは報道メディアである日本経済新聞グループ。だからこそ、この深い記事ができたのだと思う。とはいえ、ビジネス誌のWEBタイアップはどうしても文字量が多くなり、SNSでパパッと情報接触することになれた私たちには、こんなにたくさん読めない…となりがち。しかし、ここではページ数は多くても、綿密な取材内容と練られた構成で読み応えがあり、池上彰氏の解説動画も手伝ってわかりやすい。通常タイアップの滞在時間は4〜5分のところ、平均10分滞在ということで、忙しいビジネス層の読者がしっかり時間をつかって読み込んでいることがわかる。

     また、社会課題に向き合う姿勢は、金賞のHacobu「物流2024年問題」や第一三共ヘルスケアのロキソニンSプレミアムファイン「みんなの生理痛プロジェクト」にも通じるものがある。コロナ以降、社会課題を問題提起するコミュニケーションが多くなった。また企業はマーケティングとして、どうモノを売るか、どう差別化するか、という消費促進マーケティングから、社会にどうコミットするかというパーパスを掲げ、生活者の共感を得るマーケティングに徐々にシフトしている。そんな中で、日経BP媒体の読者である社会のリーダー層にむけて、社会に向き合うジャーナリズムの視点を持って、独自のコンテンツを開発する。これが令和の新しいメディア活用マーケティングの形の1つなのではないだろうか。

  • 田中 知恵

    田中 知恵

    明治学院大学 教授

     受賞作品を含め、審査対象となった作品の多くに共通するキーワードは「共創」「課題解決」「多様性」である。これらはまさに心理学の貢献が求められている研究テーマであり、各スポンサーの取り組み、またその取り組みを読者に提示する際の工夫に注目しながら審査を進めた。

     国際協力機構(JICA)のWebタイアップは、ウクライナの報道や教育に対する日本のサポートを伝えるところから、さまざまな国際協力の事例と幅広い支援を読者に紹介する内容となっている。各施策や取材対象者と、JICAとの関わりが見えにくいところもあるが、それがあえて意図されていたとしたら成功であろう。Hacobuによる物流DXツールMOVOの広告展開は、印象的な写真とコピーが目をひいた。説明によれば、媒体社である日経BPが受託制作したビジュアルとのこと。スポンサーとメディアのコミュニケーションや課題共有が生み出した作品であると思う。これも共創のひとつだろう。兵神装備は広告に仕掛けを加えて、液体移送に関わる独自技術を訴求した。商品の特徴と共に「不可能を可能にする」といった企業の姿勢もうたう(歌う?)表現で、記憶に残る作品となった。

     大学教育においては授業資料や試験問題等におけるUDフォントの活用が推進されている。色彩検定協会の雑誌タイアップにより、教材の配色にも留意すべきこと、グラフ説明の際などに色名称を用いないことの重要性があらためて認識できた。本タイアップの目的は色彩検定の存在を読者に知らせることであるが、同時に色覚の連続的多様性をコミュニケーションツールの作成と使用に関わるすべての人に伝え、ユニバーサルデザインへの理解を深化させる内容であった。

  • 裵 英洙

    裵 英洙

    ハイズ 代表取締役/慶應義塾大学 特任教授

     「真っ向勝負」

     記念すべき第10回の本会を言い表すとこれに尽きる。

     混沌とする時代であり、効率化や合理性が礼賛される世の中だからこそ、社会課題に愚直かつ真摯に向き合い、見る者の無関心さを1ミリたりとも許さないような直球勝負に心を打たれた。グランプリにはウクライナ問題に深く切り込んだ国際協力機構(JICA)、金賞には社会課題としての生理痛を分かりやすく捉えた第一三共ヘルスケア、働き方改革ど真ん中である流通業界の過酷な現状に焦点を当てたHacobuなど、社会課題へがっぷり四つに組む作品が選ばれた。

     マーケティングは“社会を動かす梃”であるべきだろう。社会的道義を僅かでも意識する者にとって、“問題提起”力を宿す広告・広報からは逃れられない。世の中、合理性や論理性、効率性が謳われて久しい。しかし、情理は裏と表である。道理の通らない情は力弱く、情のない理屈は心打たない。人間社会の情を醸し出すサムシングが内包され、理を通じて伝えていくマーケティングに出合うと膝を打つのはこのためであろう。真っ向勝負の愚直さの“情”の中に、データや事実を根本に置いた“理”は見る者を立ち止まらせる。本回はこれを再認識させる回だった。

     マーケティングとは、数多くある社会現象のひとつのピースだけを切り取るのではなく、社会現象を引き起こしている人間集団の理解に迫るものであってほしい。時代の流れの中で社会倫理や個人の道徳観がめまぐるしく変化するからこそ、マーケティングの役割は現在の世情を豊かに内包し、そこから私たちを未来にいざなう光明を一筋与えてほしいと願うのである。

  • 本荘 修二

    本荘 修二

    経営コンサルタント/多摩大学(MBA)客員教授

     今回は、視点をリフレッシュしたいと実感した。まず、この激動かつ不安感が高い時代に、単にブランド・商品を訴求しても共感は得難い。次に、情報が過多だけでなくAIやフェイク、炎上や不信など混沌化する中で、いかに受け手にアピールするか。そして、説明型コンテンツが目立つが、文章を読まされる疲れ感も生じる。では、これらのポイントを絡めて受賞作品を振り返ってみよう。

     グランプリの国際協力機構(JICA)、金賞のHacobuと第一三共ヘルスケアは、世の問題(ウクライナ、物流、女性の健康)にアプローチして心を掴んだ。中でもJICAは、字数は多いが読んで納得の、コンテンツの力が溢れている。また、これまでベンチャー企業が受賞することも少数あったが、Hacobuはグランプリを争うレベルであり、イノベーティブな企業のモデルケースとしての意義もある。

     もう一つの金賞、兵神装備は賞の常連だが、新たなアングルで攻めてくれた。受け手を掴むチャレンジを続けていただきたい。

     銀賞は、普通の広告ではなかなか伝わらないものを、エッジを効かせた作品が選ばれた。

     mRNAワクチンで知られるモデルナは、分かりやすくワクチンの仕組みを説明するために、マンガ「はたらく細胞」キャラクターで工夫した。色彩検定協会は、「色のユニバーサルデザイン」の重要性を教科書や建材の企業事例を交えて訴求している。

     そして新潟県は各地域の課題を示し、それに挑む企業を募集するという、お国自慢的なよいことアピールの逆張りの、攻めの広告を展開した。

     問題設定とチャレンジというイノベーションの公式が、広告にも適用される時代になってきたと感じる審査会となった。

  • 水島 久光

    水島 久光

    東海大学 教授

     一次審査の段階から、「エントリーの顔ぶれが大きく変わった」印象を受けた。マーケティングと社会的な課題解決のアクションの距離が縮まったと言うべきか―国際協力機構(JICA)のタイアップ記事にも、最後までグランプリを1対1で競ったHacobuの純広にも、それが強く打ち出され、課題への光の当て方や、情報の質感に圧倒された。制作過程の説明を聞いてわかったが、この両者には、クライアントと媒体社(日経BP)の距離にも革新的な変化があったようだ。かつてのような「オリエンテーション→プレゼンテーション」の離れた立場では決してできない、互いに知恵を縛り、リソースを重ね合う「協働関係」が事績に反映されていたように思う。

     銀賞に選ばれた新潟県のほかにも、自治体からの応募があった。またかつては広告会社と呼ばれ、あくまでこうした社会課題には間接的な位置をとっていた企業の取り組みも時代を考えると象徴的だった。さまざまな企業・団体が「よりよき社会」を目指して課題に向き合う―マーケティングには、もはやブランドを育て、市場を拓く以上の意味・機能が期待されている。SDGsの意識が地についてきたからか。あるいはより社会の謎や問題が可視化されやすいメディア環境になったからか。「生きる」ことに直結する健康、医薬関係の取り組みも目立った。それだけにコミュニケーションの難しさも議論の的となった。充実した審査会であった。

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