日経ビジネスオンラインスペシャル

FEATURE2025.06.27

"1秒"の哲学と"クロノグラフ"の遺伝子が導く―

タグ・ホイヤーが示す、伝統と革新の本質

タグ・ホイヤー 最高経営責任者 アントワーヌ・パン氏

F1と再び歩み始めたタグ・ホイヤーが掲げるスローガンは「勝利のために」。進化を象徴するクロノグラフが、伝統と革新が交差するブランドの現在地を描く。

タグ・ホイヤー 最高経営責任者 アントワーヌ・パン氏
タグ・ホイヤー 最高経営責任者 アントワーヌ・パン氏

時計の世界で“1秒”が意味するもの―それは、記録と記憶の境界を越える瞬間だ。タグ・ホイヤーが、この春発表した新作「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ|F1®」は、その1秒の哲学を極限まで研ぎ澄ませたタイムピースである。F1公式タイムキーパーとしての復帰を記念し、世界で10本のみ製造されたこのモデルは、挑戦の精神を体現する象徴として、ブランドの現在地と未来像を提示した。

タグ・ホイヤーの根幹をなす思想は、「Designed to Win(勝利のために)」というスローガンに集約されている。そこにはスピードや優位性ではなく、人間の内なる可能性への信頼が込められている。勝利とは他者との競争ではなく、自分との対話であり、それを時計という道具を通じて記録し、可視化する。この哲学が、ブランドを特異な存在にしている。

 同社が語る勝利とは、外部の評価軸ではなく、どれだけ「自らの限界を超えるか」に向き合えるかという問いに他ならない。単に先を行くのではなく、自らの進化に責任を持つ―それが「勝つために設計された」ブランドの哲学だ。

「勝利のために」というスローガンはアイルトン・セナの言葉から生まれた。
「勝利のために」というスローガンはアイルトン・セナの言葉から生まれた。

この理念は、この春刷新された「フォーミュラ1 コレクション」にも表れる。太陽光で駆動するソーラーグラフ・ムーブメントは、2分で1日分を充電し、最大10カ月稼働。15年メンテナンスフリーの実用性が特徴だ。「このモデルには、持続性と詩的価値の両方がある。実用性だけでなく“意味”を腕元に宿す。それも私たちの挑戦なのです」とパン氏は語る。

最新作「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ|F1®」。
最新作「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ|F1®」。

「私たちの伝統とは、“伝統に挑戦する伝統”なのです」。このパン氏の言葉が、ブランドのDNAを表している。形式や慣習に価値を置くのではなく、その背景にある精神を継承する。それを象徴するのが同社の「クロノグラフ」だ。パン氏は「それが私たちの“家族の味”」と言い切る。これは、フランスの三ツ星レストラン「トロワグロ」家が守る“たった一皿”に例えられたものだ。この機構は、ブランドの核であり、時代に応じて語り直される“語れるプロダクト”として再構築されている。

進化を支えるのは人の力だ。「成長とは、人々が共通の目的に情熱を注いだ結果です」。社員、パートナー、顧客―タグ・ホイヤーは、彼らとの共創を通じてブランドを育む。「人こそが、ブランドを生きた存在にする」とパン氏は語る。物語性を媒介し、哲学を市場に流通させる存在として、人は“魂”を伝える役割も担う。

時間の価値について、パン氏は陸上選手カール・ルイスの言葉を引き合いに出す。「彼の栄光は、7分間の競技に詰まっていた。だからこそ、その価値は量ではなく密度にあるのです」。時計が持つ有限性の意識は、私たちの生き方や意思決定における鋭利なメタファーとなる。

「時間とは、私たちが持てる中で最も神聖なものです。だからこそ、それをどう扱うかが、人間性そのものを映し出す」。この言葉には、時計という道具に込められた精神が凝縮されている。

タグ・ホイヤーの時計は挑戦の証しだ。パン氏は「日本には“人生は簡単ではないが、それゆえに価値がある”という哲学があり、それは我々の信念と重なる」と語る。勝利とは、困難を乗り越えた先にある。「勝利のために」という言葉には、そうした人生観が込められている。

撮影=箱島崇史 デザイン=Phantom G. 文・編集=安部 毅 

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