日経ビジネスオンラインスペシャル

FEATURE2025.06.27

日本の美意識を世界に語りかける―

グランドセイコーが描く、静かなる革新

セイコーウオッチ 代表取締役社長 内藤昭男氏

日本の風土と精神性に根ざし、時の本質を追求してきたグランドセイコー。世界に“日本独自の美”を届けてきたその哲学は、今も静かに時を映し出す。

タグ・ホイヤー 最高経営責任者 アントワーヌ・パン氏
セイコーウオッチ 代表取締役社長 内藤昭男氏

時を計る道具が、時を語る存在になり得るのか。グランドセイコーは、その問いに日本的な感性で応えてきた。ジュネーブで披露された新作でも、その姿勢は一貫している。年差±20秒という高精度を実現し、樹氷を思わせるダイヤルが印象的な「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」は、素材やスペックの価値を超えて、時間をどう感じるかという問いを内包している。

「私たちは“THE NATURE OF TIME”という哲学に基づき、時計づくりの本質を探求するとともに、腕時計を通して日本の美しい自然を表現しています」。そう語るのは、セイコーウオッチ 代表取締役社長としてグランドセイコーを率いる内藤氏だ。製品の背景にあるのは、光の入り方や見立て、静けさといった日本独自の美意識に根差すものづくりの思想だ。

精神性と実用性、伝統と革新。相反するようだが、グランドセイコーはその両立を追求してきた。「例えば、スプリングドライブは、機械式腕時計と電子制御の融合によって生まれたセイコー独自の技術です」。ブランドの根幹を成す精度と信頼性を守りながらも、構造の革新や美意識の探求を惜しまない。革新と共に深化を大切にする。「グランドセイコーとしての革新とは、これまで積み上げてきたものを突き詰めて、さらに良いものを生み出すことだと考えています。『スプリングドライブ U.F.A.』も、これまでの開発で得た知見と新技術を融合させて、約8年の歳月をかけて完成にこぎつけました」。

W&WGで来場者の足を止めていたグランドセイコーのブース前。
W&WGで来場者の足を止めていたグランドセイコーのブース前。

こうした挑戦の場として、W&WGへの継続出展の意義は大きいという。「“欧州ブランド以外で唯一、グランドセイコーが出展しているだけでなく、世界最高峰のラグジュアリーウオッチの祭典を進化させていく場に毎年参加できていることに大きな意味があります」。その言葉どおり、回を重ねるごとに規模が拡大する中、グランドセイコーは存在感を増している。

ブランドの思想を伝える手段も進化している。「例えば、『TOKYO TIME Grand Seiko』というプロジェクトでは、アーティストと共創しながら、現代の東京を舞台に、時を感性的に切り取る映像・写真表現を展開しています」。時計のスペック中心の従来訴求ではなく、物語や世界観を通して共感を生むアプローチだ。

“THE NATURE OF TIME”の哲学を体現する幻想的な世界が広がっていた。
“THE NATURE OF TIME”の哲学を体現する幻想的な世界が広がっていた。

その根底にあるのは経営者としての信念だ。内藤氏の言葉に実直さがにじむ。「お客さまに誠実に向き合って、人の手を通じて生み出されるものを世界に発信していくことに日本ブランドの活路があると考えています。ブランドの本質を突き詰め、徹底的に磨いていくことが重要です」。短期的な利益や話題性ではなく、信頼を積み重ねる姿勢。この誠実さが、グランドセイコーの静かな強さを支えている。

「われわれは“日本ならではの、美意識や感性を宿すラグジュアリーブランド”を目指しています」。例えば、スプリングドライブが実現する滑らかな秒針の動きは、“時間が流れていくこと”を可視化するものであり、日本ならではの時の表現─循環性や連続性を象徴している。秒針の動きに宿る滑らかさや、光と陰影の移ろいを映すダイヤル。そのすべてに、“生きた時間”へのまなざしが息づいている。

グランドセイコーの感性と技術が織りなす静かな革新は、これからも世界に日本の美意識を語りかけていくだろう。

撮影=箱島崇史 デザイン=Phantom G. 文・編集=安部 毅 

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