「食」と「農」のオールラウンドプレイヤーを育てる

今年開学の新潟食料農業大学・渡辺好明学長に聞く

若い人たちが農業に興味を持ってきているとか、日本の農業人口が高齢化しているところを支えていかなくてはいけないとか、いろいろと理由はあると思うのですが、食と農を総合的に教える大学が2018年のこの時期に開学したことの意味というか、理由についてどうお考えですか?

渡辺 教育界としての理由と、産業界としての理由と二つあります。

 教育界としての理由は、底流として食と農はこれから学問分野として発展するのだということがあると思います。食と農に関する大学は、希望者もよそよりも多く競争率が高い。こうした学部の増設も相次いでいます。教育に携わる法人を経営する人たちは需要のあるところに出て行かなくていけない。教育界の流れとしてはそういうことがあります。

 産業界から見ると、衰退を支えるという意味ではなく、新たな発展を求めるということになってきたんだと思います。新たな発展というのは、グローバル化が進んでいろいろな競争の壁が低く下がってきた。障壁が低くなって国内産業がやられてしまうんではなくて、障壁が下がれば相手の障壁も下がるんだからこちらからも出て行けるということです。「ノー・インポート、ノー・エクスポート」の時代から、「サム・インポート、サム・エクスポート」の時代になった。

 価格競争というところへの考慮はまだ欠けていますが、無限に広がる食の需要に対して、日本としては和食文化が広がっている。これが後押しになります。

 一方で高齢化して、衰退しているとか、キツくて成り立たないとかの話に対しては、農業のAI化、スマート農業化という話が閣議で決められています。2020年がスマート農業元年です。いろいろスマート農業に役立つ機械・機具が一般化される時代がやってくる。そこには若者の知恵と力の参入がいるんです。

 ドローンや「あかつき」のGPSなどのツールを使って水の管理、除草、肥料散布をしていく。これからは若者の出番ですよ。これは僕がかつての小泉純一郎総理大臣に影響されたのかもしれませんが、「ルック・オン・ザ・ブライトサイド・オブ・シングズ」なんです。ペシミスティックになったら単に大変だということになってしまう。楽観的でなければ構造改革はできません。

食と農の市場についてですが、国際的には680兆円、日本だけでも100兆円以上の規模があり、国としても2020年までに1兆円を輸出するという目標があります。この見通しについてはいかがですか?

渡辺 僕はもっと大化けすると思いますね。もしかすると、先頃署名されたEUとのEPA(経済連携協定)がその引き金をひいたかもしれない。

 例えば、日本酒とワインの状況を見ていたらいいと思いますね。日本酒単体での輸出をするなんていうのは愚の骨頂なんです。和食文化が普及するから和食に合ったアルコール飲料は何かということになる。だから、よく和食が世界文化遺産になりましたという人がいるんだけど、和食が世界文化遺産になったんではなく、和食文化がなったんだと言っています。

 和食文化は、四季の移ろいであるとか、素材であるとか、並べ方とか食べる器だとか、そういうものが付随して楽しめる。そうした和食文化全般の普及が進めば市場も大化けする。

 ただし、日本でつくっているものと同じものを海外でつくっても海外では受け入れられない。アボカドとサーモンを巻いたカリフォルニアロールのようなものには目をつぶる。彼らには彼らなりの和食があっていいんです。それがマーケットインです。

 そのようにしていけば日本からの輸出も1兆円なんて小さなものではありません。今はトレンドの中で積み上げて1兆円と言っている。この1兆円という金額はまもなく見直す時期でしょうね。

教育現場としてグローバル化にはどう対応されますか?

渡辺 例えば、英語教育ですが、うちの英語教育は教養としての英語を教えるものではありません。教養としての英語なら1、2年で終わりますが、うちでは4年間やります。目的は三つ。第1に忘れないことがメインですが、2番目がインターネットを縦横に使えるようにすること。インターネットで英文を使うにはパターンがありますからね。3番目は、商品をプレゼンテーションできるようにすることです。

 さらに、食品産業で必要なHACCP*1、ISO*2、そして農業で必要なグローバルGAP*3といった認証についての教育も重視しています。グローバルGAPについてはまだうちの農場が収穫物を得ていないので、先生が生徒に教えるのではなく、先生と学生が一緒になってグローバルGAPを取得していこうとしています。

 さらにイスラム世界に対するハラル認証*4なども含めて、農と食に関する標準の土台に対応していきます。

現時点では一つの食料産業学部 食料産業学科という単科大学ですが、今後総合大学を目指すというお話があります。どのような学部学科の増設を考えておられますか?

渡辺 新潟はこれだけ広い海岸線を持っているので水産は必須ですね。さらに新潟はちょっと弱いんですけれども畜産です。水産と畜産、4年制大学に接続した大学院。それから、産業界、実業界とチームを組んだリサーチセンターの設立です。大学からリサーチセンターを経由して産業界の研究所に行ってほしいと考えています。産官学の総合センターをつくらないことには日本の食が海外に出て行くといっても夢のまた夢ですから。

 また学生たちがビジネスを学ぶ新潟キャンパスには社会連携室というのがあって、頻繁に産業界や地方公共団体と連携協定を結んだりしていますので、そこの機能が太くなっていって新潟が「フードバレー」になることにつながればいいと考えています。

*1 HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)ハサップもしくはハセップと呼ぶ。食品の製造工程で危害を引き起こす要因を分析し、食品の安全を確保するために、工程の中で最も効率よく管理できるポイント(Critical Control Point)を継続管理する手法。

*2 ISO(International Organization for Standardization)。アイエスオー、アイソなどと呼ぶ。国際標準化機構のこと。ISOによる品質管理システムとしてISO9001が有名。食品関連では食品の安全管理システムとしてISO22000が知られている。

*3 グローバルGAP(Good Agricultural Practices)。生産した農産物が安全であることを示す国際認証規格。GAPは農業生産工程管理のこと。認証を受ける場合は、食の安全性をはじめ、環境への配慮、労働の安全性の観点から、定期的にチェックを受ける。グローバルGAP認証を受けた農場や団体が生産した農産物は、適正に管理された工程で生産されるため結果として安全で品質が高いとされる。

*4 ハラルもしくはハラールとは、イスラム教で「許されている」という意味の言葉。食材などで、専門家が宗教と食品科学の観点からイスラム教徒が口にして良いことを保証するのが「ハラル認証」だ。この認証を受ける際には、食品製造工程の施設や設備、使用原材料などがすべてハラルであることがチェックされる。