業務用米は日本の米づくりに地殻変動を起こすのか?

良食味多収米「つきあかり」シフトを急ピッチで進める JAえちご上越・石山忠雄常務理事に聞く

生産量の6倍のニーズがある「つきあかり」

複数年契約はどのくらいあるのでしょうか?

石山:令和元年度の複数年契約は「コシヒカリ」「こしいぶき」「つきあかり」「みずほの輝き」の4種類を合わせて、18万5000俵、トン数に直すと約1万1000トンです。取引先からは50万3000俵(約3万トン)欲しいという要望をいただいています。JA管内の生産量は全部合わせると約6万トンありまして、このうち当JAに出荷いただいている契約者の数量は4万2000トンです。これに対して複数年契約のご要望が3万トンあまりあるわけで、取引先の皆さまから、JAえちご上越の米をこれだけほしいと言っていただいていることになります。「つきあかり」単独で見ると、複数年契約を結んでいるものは4万2942俵(約2600トン)ですが、実際の要望としてはその約6倍の約26万俵(約1万5600トン)あります。

こうした取り組みができた理由は何でしょうか?

石山:計画生産ということです。あくまでも買っていただけるものをどうやって農家にお願いするか。昔は農家が、語弊はありますが、農家が勝手に作ったものをJAに出荷して、JAは売れないものも集荷しなきゃならなかった。今は5月に田植えを終わると同時にそのお米はどこへ行くかがすでに決まっている。まさに需要に応じた米というスタンスに則っているわけです。

 たとえば、平成30年に生産調整がなくなる前年の平成29年12月に、お取引先に対して、JAえちご上越のお米を何品種、どのくらい買っていただけますかという調査を事前にさせていただいています。29年から始まって、令和2年もすでにまとまりつつあります。

 そうした情報を元に、今度は農家に対して、前年度あなたはこういう品種を作っていましたけれど、来年度どういう品種を計画をしていますかということを調査します。買っていただく卸にはJAえちご上越のお米をこれだけ買いますだけではなく、どこへ売りますかという調査もします。要は、実需者まで見えるレールを作ったということです。

 ニーズ調査を受けて年が明けて1月から2月に生産者へ、JAからあらためて、需要に応じた米として、ニーズに対して、これだけ作ってほしいという要請と、栽培計画の要請をします。それに基づいて、農家は今度は営農計画書を作るわけです。

 そして、当然のことですが、農家に要請したものと、農家から計画として上がってくるものが、数字的に違ってきますので、それをJAが調整して、さらにまた農家へ、あらためてこのくらい作ってほしいという要請を3月から4月にかけてします。それを元に今度は農家は当年度の営農計画に反映します。最終的には5月に入って、その営農計画に基づいた出荷契約をJAが農家からいただくということになります。

ここまでやられているJAさんはほかにはないのではないでしょうか。

石山:私的にはないと思います。ただ、手間暇かかりますし、農家との調整、取引先との調整も大変です。おそらく県内のJAも含め、他のことはわかりませんけど、ここまでこういう取り組みをしているというJAはまずないのではないかなと思っています。農家の皆さんのために、農家の皆さんと一体となって、買っていただけるものを作る。それがやっぱり需要に応じた米づくりではないかなと思っています。

今後、業務用米のニーズ、「つきあかり」や「みずほの輝き」がさらに望まれる可能性は?

石山:私らはそう信じています。「つきあかり」も今年度、私どもが新潟県の中で8〜9割作っています。県の銘柄品種に指定されましたので他の地域でも爆発的に増えてくる要素があるのかなと思います。去年あたりはとにかく種がほしい、種がほしいということでかなりご照会が来ました。うちもない袖はふれないし、結局どこもまだ安定していないので。

 「つきあかり」の栽培面積も最初の2ヘクタールから、今では1000ヘクタール弱まで来ていますので。もう少し1200ヘクタールくらいまで行って落ち着いてもらえればなと思っているんですけれど。

 ただ、そのためには多収性技術の向上です。昔は、どちらかというと多収重視でしたが、ある日突然、多収から品質重視になりました。(その状況で)品質重視から今度は多収技術というのはなかなかまだ元へ戻りません。きっちりその技術習得に向かっていく。県の普及センター、農研機構・中央農業研究センターさんには、令和元年に立ち上げた多収性の研究会にも、育種の方も含めて入っていただいて、いろいろ技術指導を受けています。

多収性品種研究会(写真提供:JAえちご上越)
多収性品種研究会(写真提供:JAえちご上越)

さらに新しい多収性品種についてはどのようにお考えですか?

石山:これからは、極早生の「新潟次郎」、中生の「コシヒカリつくばSD」。それと将来的にコシヒカリに代わり得る品種の1つとして、コシヒカリと作期が同じ中生の「にじのきらめき」などの新たな品種について水面下ですでに取り組んでいます。

 2019年は、異常気象下でかなりコシヒカリの品質が落ちてしまい、非常に厳しい状況です。されどコシヒカリです。私的には横綱で君臨していってほしいと思いますが、育種されて約50年。すぐに何かにとって代わられることにはならないと思いますが、いずれそういう場面もあるかもしれない。そのためには今から準備を始めるということです。

 これからもいろいろな品種は出て来きます。ただ、その品種をどこまでお使いいただくのか、また食べていただく方がどう判断されるかだと思うので、やみくもに新しい品種ばかり出していったとしても、生き残れるか、勝ち残れるかというのは市場性からいって非常に難しい。新しい品種というのはいかに実状に合った消費なり、お使いいただく流通なりに結びつけるかということなので。やみくもに毎年新しい品種をということではないんじゃないでしょうか。

今後、生産者の方は、いろいろな多収品種生産することになり大変では?

石山:多収品種が作りづらいということではなくて、その品種に合った技術を習得していくことになります。農家は栽培の技術者ですので、そこをきっちり対応して行かなきゃいけませんし、また行けると思っています。そこはそんなに心配はしていない。栽培のマニュアルもありますし、実際的にそれに合う肥料などの資材提案もさせていただいていますので、それをきっちり守っていただければ、一定の量なり品質も確保できると思います。ただどうしてもままならぬのは、自然との対応です。

「つきあかり」の収穫(写真提供:JAえちご上越)
「つきあかり」の収穫(写真提供:JAえちご上越)